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第83話

 しばらくの落下の後飛行魔法に移り、闘技場のある街に向かった。

 普段なら数日かかるはずの距離だというのにわずか数分で辿り着いてしまったあたり相当速度が出ていたのだろう。

 ドライブで飛んで三日、魔術だけなら一週間、徒歩ならひと月という距離だというのに……。


「さて、エントリーされてるという話だったが……」


 闘技場に入ってみると確かに私の名前があった。

 三回目に行われる試合という事でタイミングはぴったり……と言うか少し遅れただけでも棄権扱いにされてたなこれ。

 闘技場のルールというか、暗黙の了解的なので棄権したら半年は挑まないというのがあるのでマジで危なかった……。


「あれ、ユキさん?」


 ふと聞き覚えのある声がした。

 この胡散臭い声と口調。


「田中か、そういやお前らもここだったな」


「そっちはどうでした? 俺達はばっちり勝ちましたよ!」


 自慢げに力こぶを作りぺしぺ氏と叩いて見せる。


「管理者になれたのか?」


「なんですそれ」


 ふむ、なれなかったようだ。

 まぁなんとなくそんな気はしていた。

 強くなったとは思うが、それ以上の……アルファやレーナから感じた雰囲気はなかったから。

 もしかしたら異世界から転移してきただけの人間は管理者になれないのかもしれない。

 ふと遠くに感じた司の気配にも、先生の気配にも変化は無かったから。

 私やアルファは転移じゃなく転生だからこそ、管理者に慣れたのかもしれんな。


「わからないならいいさ。それよりどんな相手だった?」


「えーと、三回戦うんですけど一戦目が黒龍王さんで、二戦目が魔王で、最後がユキさんとレーナさんのコンビでした」


「……よく勝てたな」


 黒龍王の時点できついはずだが、アルファも私とレーナのコンビも倒したという。

 というかなんでアルファが次鋒で私とレーナのコンビが最後なんだ?


「あ、ここ後半になるほど難易度高くて苦手な相手が最後になるらしいんで気を付けてください」


「そうか……そんなに私とレーナが苦手なのか」


 じとりと睨んでみると慌てた様子で田中が両手を振って違うと意思表示をする。


「違いますって。黒龍王さんはほら、レベル低い時でもある程度ダメージ与えられそうでしたし、魔王は司君っていう特効がいたじゃないですか。でもレーナさん隙が無さすぎるし、ユキさん俺達の師匠ですから!」


「……そういう事にしておいてやろう」


 軽くからかっていると私の出番が来た。

 どうやら前2人は早々に負けたらしい。


「そういやお前ら、挑戦した奴らの中で誰か死んだりしたか?」


「ん? いえ、先生のおかげで全員無傷で勝ち残りましたよ。というかここ死んでも死なないんでしょう?」


「まぁそうなんだがな、そういうので怖くなるやつもいるだろうから心配したんだ」


 嘘も方便神隠しってな。

 知らぬが仏ともいうが。


「じゃあ私は行くが……そういやアルファの奴はどうした?」


「ユキさんの2Pカラーで参戦してましたよ。滅茶苦茶活躍したし、凄い相手が沢山出てきたので盛り上がったんすけど……インタビューしたいって声が多くて終わったら宿に引きこもるようになりました。ユキさん来るまで閉じこもるって話っす」


「そか、じゃあ後で会いに行くか……いや、田中、伝言頼む。城に行けと言えばわかるだろうから」


「了解っす! じゃあ頑張ってください!」


 すたすたと走り去っていく田中、上手く逃げられたと思っているのかね。

 まぁいいさ、私は自分のやるべきことをやるだけだ。


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