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第84話

「さぁやってまいりました! 本日のメインイベント! というか私も知らなかった特別ゲストの入場です!」


 闘技場、今まで来たことはもちろん調べたことすらなかったダンジョンだ。

 噂は山ほど聞いてきたからそれなりに知ってるつもりだったが……司会席とかまで用意されてるとは聞いてねえぞ!?


「魔術の開祖、あらゆるギルドの創立にかかわりを持ち、様々な国の存亡にも関すると言われている伝説の究明者! ハイエルフのユキだ! というかマジでいつの間に申し込んでたの……? え? 知らない? なにそれこわっ」


 そんな風に伝わってたのかぁ……というか認識にちょい齟齬出てるじゃねえかよレーナ。

 もうちょっとうまくできなかったのか?


「さぁ、挑戦者がリングに上がると同時に敵が出てくるのはご存知の通り。最初はどんな相手が登場するか楽しみだ!」


 切り替えの早い司会者をスルーして闘技場のリングに上がる。

 同時にぞわりと、全身を何かで撫でられたような不快感が襲ってきた。

 同時に眼前に現れたのは二人の……見知った顔だった。


「ユーキ、それにアビゲイル……」


 私の弟子にしてレーナの孫であるユーキ、そして養子として迎え入れた魔女アビゲイルだった。

 全盛期と呼ぶべきか、私の所から巣立って数年後くらいの姿だが……その内包する魔力は私が知っているものより数段上だ。


「まさかお前らと戦う事に……ん?」


 2人が膝をつくと同時に更に数が増える。


「おいおい……マジかこれ」


 過去魔王を討伐する際に同行したメンバー、その中でもとりわけ優秀だった魔法使いや魔術師、司祭や聖女と言った……とにかく魔術に関わる連中がずらりと現れた。

 その数合計12人。

 どいつもこいつも性格破綻者であり、同時に凄腕の術師と言える存在。

 個々人ならば問題はないが、徒党を組まれると雨あられと大規模魔術が降り注ぐような相手である。

 俗説とされている信長の三弾撃ちよろしく絶え間なく魔術が飛んでくるのが目に見えている。


「これは……どれもこれも伝説の存在とされる術者達だ! これほどの者を呼び出した挑戦者が今までいただろうか! いや、いない! しかもこれが初戦だというのだから驚きだ! さぁ、挑戦者ユキはどうするのか! 試合開始ぃ!」


 合図のようにならされるゴング、同時に全員が魔術を行使してきた。

 いや、魔法も含まれているんだがユーキとアビゲイルが詠唱時間を0に等しい所まで落としつつ、致命傷になりかねない魔術をぶっ放してくる。

 魔力量に物を言わせた戦術であり、昔私が教えた方法だ。

 人を殺すのに大規模魔術は必要ない。

 大砲で人間を撃つのも、拳銃で脳天をぶち抜くのも結果は同じ。

 余分なロスがあるのならより手軽な方法をと教え込んだ結果、こいつらの戦闘は合理性の塊になった。

 無論大規模な術だって平然と織り交ぜてくるし、この小規模魔術と並行して大規模な術式の構築も行っているから放置するのはマズい。


「悪いが身内だからこそ容赦はしないぞ」


 そもそもその戦い方を教えたのは私だ。

 一発一発がそこそこの威力でしかない魔力弾、先生に教えたのと同じだが殺傷力は十分。

 けれど魔術師同士の戦いでは魔力を用いた障壁などで簡単に弾かれてしまう事が多い。

 その弱点を、私達研究者が放置することは無い。


「おらこいよ!」


 ギュルギュルと空中に浮かべた魔力弾を複数回転させることで威力を上げていく。

 銃弾と同じ理論だな、火縄銃とかはライフリングが無かったって話だが、そもライフリングを刻むのも結構な技術力が必要だ。

 それと同じで魔力弾の維持と回転という二つの構成はそれなりに手間がかかる。

 一方で二人の魔力弾はといえば、教えた当時のままぶつけてくるだけだ。


「政治に手一杯で改良に目が向かなかったか?」


 煽りをいれてみれば簡単に引っかかるのがこいつらの弱点だ。

 術師たるもの常に冷静にと言って聞かせたんだが……ほら、魔力弾の質が落ちてきた。

 焦れているのもあるだろうけど大規模術式の構成に力をいれたのだろう。


「ばーか」


 笑顔を浮かべてその周囲で大規模術式を組み立てていた連中の頭部を吹き飛ばす。

 撃たれたら厄介、だったら撃たれる前に潰せばいい。

 そのために作り上げた術式でもあるからな。

 早打ちで高威力、それを考えつつ展開して見せ札としても使えるようにした改良式魔力弾ならば一流を超えた超一流、あるいは化け物とまで呼ばれるような連中の障壁すら紙切れのように貫ける。

 ……対処法がないわけじゃないんだけどな。

 受け流されたら回転と推進力の分簡単に明後日の方向にすっ飛んで行くから。


「さて、ユーキ。お前は相変わらず術式の構成が甘い。手数を重視するあまり綻びが出ている」


 飛んでくる魔力弾を素手で握り潰す。

 魔力も何もない、純然たる技術だけで対処できる。


「アビゲイル、お前は逆に一撃を重視するあまり攻撃が遅い」


 魔力弾をぶつければ障壁とぶつかり合い、数秒の膠着の後にアビゲイルの胴体に風穴を穿った。

 そして気を取られた様子のユーキの首から下を残った魔力弾で吹き飛ばして終わりだ。


「まったく、親と師匠である私にもう少し面白い物を見せてくれても良かったんだがな……」


 少し寂しさを覚えながら、ふと空を見ると雷雲。

 既に術者はいないにもかかわらず、アビゲイルもユーキも、他の英雄たちも全員が消滅したのを確認したうえでそれは残っていた。

 人間が、いやたとえハイエルフであってもこれほどはないだろうと断言できるだけの魔力が滞留している。


「……政だけじゃなかったんだな」


 我が子と弟子の置き土産というべきか。

 術者の死後であろうと発動する術式、そんな初めて見るものに歓喜の感情が浮かんできた。


「受け止めようじゃないか!」


 障壁を解除して、その雷撃を浴びる。

 これは私がこうして受け止めるべきものなのだ。

 そうしなければいけないのだから。


「おーっと、極大魔法が挑戦者ユキを直撃した! これはさすがに死んだか!」


 死ぬわけがないだろ、とは言い切れなかったけどさ。

 我が子達の英知の結晶を無為にするのはあまりにも酷だ。

 それにどういう術式か気になったから受けてみたが……なるほど、あいつらも魔導に行きついたのか。

 雷雲の発生理由などはあらかた教えていたから魔力を放出して、空中の水蒸気南下を動かして作り、あとは静電気で雷の通り道を作り相手にぶつける魔法。

 とんでもなく難解で、ともすれば秘奥とされるようなものだしあの膨大な魔力量も納得だ。

 あの二人が魔力を振り絞って出したものではなく、周囲の魔力も巻き込むようにしたのだろう。

 ……あれ、これって勇者召喚の魔法に似てる気がする。

 たしかあの魔法も周囲の魔力無差別に使うからこそ生贄が使えて、なおかつ今回戦争で司達が呼び出されたわけだから。

 ただなんにせよ……。


「いい魔法だったぞ」


 虚空に向かって呟くのが私にできる最大の賛辞だった。


「生きてる!? アレを受けて生きているぞ! 本当に生身なのか彼女は! 皆さん第一回戦突破に拍手をどうぞ!」


 無粋な称賛も、すべてまとめてあの子達に送ろう。



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