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第85話

 さてお次はと身構えると同時に拍手が鳴りやんだ。


「……マジで?」


 まず出てきたのが司とアルファ。

 勇者と魔王が手を組むんじゃねえよと突っ込みをいれようとしたのだが、続けて現れたのは歴代勇者達。

 それも魔王討伐の成否にかかわらず、つまりはやらかしたり失敗した連中も含めて数十人が現れた。


「ま、まさかこれは! 魔王と勇者様だ! 過去こんな例は無いぞ! 本当に今回のゲストはどうなっているんだぁ!」


 実況元気だなぁ……死なないと思い込んでいるからこそなんだろうけど、テンションたけえよ。


「まったく、厄介な」


 インベントリから乱細雪を取り出して振りかぶる。

 アルファはもちろん、勇者たちも武も魔もトップクラスに坐する存在だ。

 ただこいつら個々人よりも連携が厄介というのが大きいのだが……果たしてアルファと歴代勇者という曲者達、それに司という異分子がどんな風に協調するか。


「っと」


 考え事をしている余裕はない。

 まず司が突っ込んできた。

 まぁこいつの性格ならそうするだろう。

 それに呼応するように四方八方から歴代勇者の中でも武術に長けた連中が飛びかかってきた。

 逃げ場はない……なら!


「おらぁ!」


 乱細雪で司を武器諸共斬り捨て、そのまま前進しようとしたところに火の玉が着弾する。

 直撃コースではなかったが進路を阻まれた。

 アルファめ……このまま懐に飛び込んで攪乱しようとしたのを読んでたか。


「ぐっ、くっ、このっ!」


 迫りくる剣や槍、拳を受け止め、時に受け流し、そしてどうにもならない物は急所を外すように受ける。

 反撃は一撃必殺、確実に数を減らすように斬り捨てる。


「ふぅ……さっきから数の暴力か」


 魔術による数の暴力、続けて武と魔による連携を加えた数の暴力。

 とことん厄介だがそっちがその気ならこっちもやりようはある。


「さっさと終わらせる!」


 アビゲイルとユーキのみせた魔導は見事な物だった。

 だけど、あれは発動に時間がかかりすぎる。

 むしろそれを利点として、戦場で撤退後とかに時間差で攻撃する部類なんだろうけどこういう限られた空間での戦闘には向いていない。

 ならば私がするべきはもっと単純で手っ取り早い物。


「おら水浴びの時間だ!」


 手っ取り早く打てる水魔法を乱射、その威力は低いが術師の集中を乱すには十分。

 さすがにアルファは弾いたが、他の勇者共はそれを避けようとしたり弾いたりしていた。

 ホーミングするから避けた奴は背中から撃たれてたけどな。

 とはいえ流石勇者、この程度で死ぬ奴は一人もいない。

 数と速度優先で威力は落ちているとはいえ一般人なら死にかねない威力だったんだがなぁ。

 けど準備は整った。


「分解!」


 水に関する魔術も魔法も、実は魔導に通じている。

 土も同じなんだが既存の物質に働きかけているから、無から生み出しているわけじゃないんだ。

 ただ魔力で指向性を持たせて集めているだけで、乾燥地帯じゃ水魔法が使えなかったり、水上じゃ土魔法が使えなかったりする。

 まぁ裏技もあるんだが、今回は集めた水を分解する。


「さて科学の時間だ、水は水素と酸素の結合物。これが意味するのはなんだろうなぁ」


 カァンと音を響かせて乱細雪の石突を地面に突き立てると同時に火花が散った。

 それを合図にまず私の近くにいた連中の、連鎖して他の連中の周囲で大爆発が起こる。

 息を止め、魔力の障壁で爆風をしのいだ私は無傷だが勇者たちは軒並み消え去った。

 死んだという判定での消失でもあり、爆風で跡形もなく消し飛んだともいえる。

 ただ一人、そこに立って魔法を使おうとしているアルファを除いて。

 だが……。


「本日の天気は雷の後雨、時々爆発となぎなたでしょう」


 その頭上から落ちてきた乱細雪がアルファの肉体を貫いて消滅させた。

 本物だったらこうも簡単に倒せなかっただろうに、随分と出来の悪いシミュレーターだな。


「な、なんと魔王と勇者連合も倒してしまった! というかこんな大物の後に控えているのは一体どんな相手なのか! 挑戦者ユキの底が見えない! さぁ、最後の相手は一体誰だぁ!」


 乱細雪を拾いなおしてから大きく深呼吸をする。

 最後の相手、予想はできている。

 パターンは二つまで絞られているが……どっちが来るにせよ面倒な相手に違いないな。


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