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第86話

 最後の相手の姿が徐々に形作られていく。

 それは以前一度だけ見た存在、神を名乗る管理者の上に位置する者。

 二つのパターンから最悪な物を引いたようだ。

 もう一つはレーナかなと思っていたのだが……まぁそんなに甘くないってことか。


「えーと、誰かわからないが神々しい存在が現れた! もはや神としか形容できないがそのような相手に挑戦者ユキはどう挑むのか!」


 実況席、あんたの感性は正しい。

 ただこいつは……。


「やぁ、思ったより早い再開だったね」


「ちっ、やっぱり本物……いや、分霊ってやつか?」


「大正解。僕の霊魂の一部をここに封じてあってね、管理者の中でも有望そうな相手の前には僕が出てくる仕組みになっていたのさ。ついでにエネルギー源だから消そうとしたら闘技場も、ついでに他の髪のダンジョンも消えるよ」


 厄介な……。

 そもそも分霊というのは神社などで行われているものだ。

 正式に神を祀っていた神社から御霊を分けてもらい、別の地域でもその神を祀る。

 有名どころだと稲荷神社とかがそれにあたるが、そんなもんをダンジョンという形式に落とし込み、その上で動力源に変えやがった。


「殺したくらいで消えるわけじゃないんだろ」


「試してみなよ」


「そうさせてもらおう、それが私のやり方だからな」


 乱細雪でその首をとばしてやる、そう思い振るった一撃はふわりと……まるで羽毛を受け止めるがごとくその皮膚に阻まれた。

 切れなかった事に疑問はない、その程度は想定内だ。

 だけど、こんな手ごたえがあるとは思っていなかった。


「驚いた様子だけど、それ地球の神が作った代物だろう? あの世界は比較的秩序が保たれているから神々もラグナロクの再発防止に専念したんだ」


「……セーフティ」


「正解、その武器は生命には最強の武器かもしれないけど神に対してはなんの効力も示さない。というよりそもそも僕たちが作ったものを被造物が使ったところで本領を発揮できないんだから無意味なんだけどね」


 飛びのきながら魔力弾をぶつける。

 手加減抜きの乱射だ。


「魔も同じさ、僕達が作ったんだから使いこなせていない君達じゃ僕にダメージを与えることはできないよ」


「だったらぁ!」


 やけくそでぶん殴る。

 もともとこれが目的だったが……やはりふわりとした感覚だ。


「君達だって被造物なんだから僕たちが作ったってわからないかな?」


 にやにやとした笑みでこちらを見つめてくる。


「君が唯一どうにかできそうな魔の手ほどきをしてあげよう」


 その言葉と同時に全身に電流が走った。

 常人はもちろん、龍王種であろうと消し炭になるんじゃないかというような一撃。

 予備動作も、詠唱も、術式も、魔力の動きすらなかった。


「君の体内電気っていうのかな? それを増幅した。魔導っていうんだっけ? それの応用さ」


「ぐっ……かはっ……」


 内側から焼かれて傷みすら感じない。


「あぁ、無理に立つのはやめた方がいい。今ので筋線維やら骨やらもボロボロに崩れているだろうからね。管理者じゃなければ即死だったと思うよ?」


 くそっ、声だけ鮮明だってのに目が見えねえ……こういう時先生みたいな治癒魔法がとくいなら……いや、だめだな。

 ここまでの傷になってくると治癒とか言う問題じゃない。

 あー、なんか走馬灯とか見えてきた。

 思えば短い500年だったなぁ。

 研究に明け暮れて、術式とかギルドとか作って……研究?

 そういやレーナが妙な事言ってたな。


 なんだっけ、ジョブがどうの……私の今のジョブは究明者が王のジョブになって、管理者になったことで究明神になったが……あれ、そういや王になってから碌にジョブの事考えてなかったな。

 そもそもジョブって何だって話だが……少なくとも私の時代には会った。

 けど宝物殿じゃそんな記述なかったよな。

 テクスチャがどうので、レベルが云々はこの世界が神になれる存在を生み出すための土壌……ってことはゲームで言うところのアップデートか?

 確かにそれならジョブやレベルってのは効率はいいが疑問も出てくる。


 魔術師なんかが最たる例だが、私が術式を組み上げるまで魔術というのは失われた技術だった。

 アルファが使ってた陣式魔術を古代魔術なんて呼び方して、それを模倣したものをどうにかこうにかしていただけだったはずだが……じゃあ魔術という概念が生まれる前はどうなんだ?

 アップデート?

 いや、術式化なんてもんを施した段階で生まれるって言うならあまりに早すぎる。


 ……あぁ、なるほど、管理者。

 そういう意味か。

 言葉尻だけ捕らえてなんとなく納得してたが、そういう事なのか。


「ぐ……ぎが……」


「おいおい、やめなって。もうボロボロじゃないか」


 こいつの声しか聞こえないのはそういう仕組みで鼓膜も潰れているのか、それとも観客が静まり返っているのかは知らない。

 けどそんなことはどうでもいい。


「ぞ……ぞぅ……」


「ん?」


 ジョブの力っていうのは神が関与していない分野だ。

 管理者が逐次追加していくシステムなんだ。

 そして管理者そのものは神に造られた存在じゃない。

 いや、造られたのかもしれないがそれが進化したのだからもはや別ものだろう。

 だからわかる、レーナの言葉の意味も、私のジョブでできる事も。


 ははっ、何だ簡単な事じゃないか。

 治癒が効かないくらい消し炭にされているって言うなら造ってしまえばいい。

 あぁ、確かにこりゃジョブに目を向けなきゃ無理だったわ。

 究明者、それは解き明かした理を自由に操れるようになるもの。

 逆に言えば未知の物は扱えなかった。

 じゃあそれが王を超えて神になったのなら?

 宝物殿という知識の保管庫を踏破して、それが原因で管理者になったのなら?


 いやいや、流石にルールそのものを変えることはできない。

 けれど僅かな情報から理を解き明かす事ができるだけの演算力は手に入った。

 今ならわかる、今まで見てきたあらゆるジョブがどんなものなのか。

 もちろん、勇者や聖女なんかもだ。

 壊れた私の身体を、消し炭にされた筋肉も神経も、眼も鼓膜も、脳細胞や私が使う魔力そのものも……全てを作り出すんだ!


 そも、聖女の魔法は癒しだとずっと思っていた。

 誰もがそう思っていたが違うんだ。

 原初のジョブともいえるようなそれは神の力に近いものであり、創り出す事こそが本命。

 壊れた部位を修復するのではなく創り直しているだけなんだ。

 だから普通の魔術や魔法じゃ治せないような欠損も治せる。


「づぅ……げほっげほっ……あ゛―、ぐっぞ、まだぜいだいがだめだ……」


 あぁ、徐々に見えるようになってきた。

 耳も聞こえるようになってきた。

 手足も……うん、感覚こそないけど動いているのがわかる。

 なるほど、これが……神の視点ってやつか!

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