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第88話

「で、お前は結局どうだったんだ」


「……大体同じ内容だったな。ただ俺の場合は魔法とか魔術より物理攻撃系の方が多かった。あと純粋にメンタルにダメージ与えるような奴」


 そこそこセキュリティがしっかりしている宿の一室でアルファを問い詰める。

 こいつ試練の内容黙ってやがったからな、せっかくだしその内容を詳しく聞いてみようと思ったのだよ。


「メンタル?」


「お前の仲間に田中っていただろ? あの胡散臭い、天性の詐欺師みたいなの」


「あー、うん」


「あんな感じのペテン師みたいなのとか道化師に囲まれて、倒すとパニック映画みたいな断末魔とか残してから合体して化物になって助けて殺してと懇願してくる。中には子供もいたから気分は最悪だったよ」


「業だなぁ」


「……久しぶりに心折れそうになった」


 アルファは魔王としての役割がある。

 それはシステムに縛られていると言ってもいい。

 最終的には本人の意志と無関係に暴れはじめるわけで、調べれば魔族というかアルファが仲間認定した奴では止められないらしい。

 つまりレーナじゃ無理で、私が仮に認められたとしてもこいつとは互角……といいたいけれど手札の数で圧倒的にアルファが上。

 闘技場で勝てたのはあくまでも「アルファという個体のコピー」でしかなく、本体と違って手札の使いどころを知らなかっただけで経験値が浅いからだ。

 そうなると対魔族戦で特殊な強化を受けられる勇者くらいしかいないわけだが、そいつらだって平然と失敗するから何度か文明滅びそうになった。

 もちろんそのたびに犠牲者多数、女子供関係なくという状況だったのもあってこいつはゴリゴリとメンタルを削られていたわけだ。

 基が甘ちゃんというか、一般人の延長上にしかないからな。


「で、どうよ。自分がスワンプマンだと知った感想は」


「別に思う所はないなぁ。だって今の俺が死んで、次の俺が生まれたとしてやることに変わりはないだろ? 家族を守るために世界の敵になって、そんで殺されて、一時的に秩序が保たれる。ある意味では次の戦争への準備期間だけど一時的な平穏は訪れる仕組みだ。今回の俺はイレギュラーかもしれんが、それは世界の方がイレギュラー起こしているから次の俺でも同じ対応するだろうし」


「面白くない回答だな」


「そもそも転生した時点で俺達はスワンプマンだろ? 記憶を植え付けられた誰かってだけで……テセウスの船の方が近いか?」


「どうだろうな、水槽の中の脳とかの方がそれっぽいかもしれんぞ。というか世界五分前創造説がマジみたいなもんだから」


「そうなってくるとパラドックスとか哲学ってなんだろうなってなってくるわ……」


 実際事ここに至ってその手の議論は意味を成さない。

 だって実際に神を名乗る上位存在が好き勝手やってるわけだし、かと思えばあいつもなんか思惑あるみたいだし、結局のところ問い詰めるのが手っ取り早い。


「まぁやる事は変わらんだろ?」


「そうだな、お前はこのまま塔に向かうのか?」


「いや、管理者権限がアップグレードされたから一度レーナの所で修行受ける。それにレベルも無駄に上がったからまーた制御覚え直さなきゃならん」


 そう、闘技場でもレベルは上がる。

 ドッペルゲンガーと同じ理論だが、ここに出てくる敵って言うのは基本的に他者を真似た何かだ。

 今回は英雄とか勇者とか魔王だったけど、普通の冒険者連中なら魔獣とかが基本になってくる。

 けどそのベースは同じで、基礎スペックの違いがコピーに反映されているだけとも言えるな。


「……レーナの修行かぁ、辛いんだよなあれ」


「ん? お前が教えたんじゃないのか?」


 アルファのぼやきに疑問符が浮かぶ。

 ぶっちゃけあの手の修行ってアルファ……というか転生者とか転移者が考えそうなものなんだが。

 丸太の上でとか映画とかアニメとかに出てくる修行描写まんまだし。


「俺も研究者の端くれだぞ? もともとデスクワーク担当だっての」


「フィールドワークは?」


「してたけど、理論を完成させる際に必要に駆られてってのが多かった。最初はチートハーレムヒャッハーでテンション上がってたけど、それも当時の惨状ですぐ萎えたし」


「なるほど、世界を良くするために頑張ったけど学術方面からのアプローチに至ったと」


 私とは真逆だな。

 アルファも力で何とかしようとしたけど、それでどうにかできるのは国を落とすくらいだ。

 その後の再建とか、民の生活を考えると下策もいい所。

 まぁ必要ならやるし、私は出自からしてハイエルフって言う奴隷商人からすれば金の生る木で、犯罪者や権力者からしたら情物のお宝だから手段問わず襲ってくるので結局パワーイズジャスティスって方面で実験という名の魔術理論の完成にこぎつけたわけだが。


「途中からはレーナの方が魔力操作とかうまくなっていってな。俺も追いつくために必死に頑張ったんだが……思い出すだけでもゲロ吐きそう」


「やめろ汚い」


 真っ青な顔したアルファ、溜息を吐く口にチェリーを弾いて叩きこんで黙らせる。


「むぐもぐごくん……酸っぱいなこれ」


「この辺りじゃ贅沢品だそうだ。滋養強壮と疲労回復の効果があるらしい」


「……お前まさか」


「TS薬飲ませてやろうか?」


 身をよじって後ずさるアルファに薬瓶を見せつける。

 偶然出来上がった産物だが、一時的に性別を変更する物だ。

 潜入とかする時に見た目返られたら便利だよなーと、ゲームから引き継いだ外観変更ポーションをもとに造った失敗作である。


「あいにく前世も今世もそういうパートナーとの巡り合いは無かったんだ。ユニコーンに乗れる乙女に対してなんたる言い草しやがる」


「……500年以上熟成された喪女か」


「よし殺す」


 この後3時間ばかり空の上で追いかけっこする事になった。

 全身全霊の魔法でアルファを消し炭にしようとした結果、私の魔力操作はレーナの特訓を受ける必要がない程度に安定したので良しとしよう。

 ついでにアルファも問題なくなったらしいので、とりあえず一度全員と合流してから塔に向かうか他のダンジョンの攻略を手伝うか決める事になった。

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