それからしばらくしてアルファが帰ってきた。
目の下に隈を作っていることから徹夜続きだったのだろう。
「よう、どうだった宝物殿」
「最高で最悪な気分だな……高級レストランで食べ放題やってたから行ったのに前菜だけで満腹になったような気分だ」
それは言い得て妙な話だ。
確かにあそこの情報は……控えめに言って濃厚だからな。
しかしこれでアルファも塔以外はコンプリートか。
「そういやお前のハーレムが来るらしいぞ」
「宝物殿に引きこもらせていただきます」
踵を返そうとしたアルファだったが、後ろからぱちんと指を鳴らす音がしたので従う事にする。
うむ、レーナが指パッチンで合図をしたのだ。
何を言わんとしているのかはすぐに理解できた。
「やめろ! 話せ鉄球鉄板女!」
「妖怪みたいな呼び方するんじゃねえ! というかどこ見て鉄板って言ったお前こらぁ!」
「アルファ様、観念してください。さもなくば……コレ、ですよ?」
胸を持ち上げてゆさゆさとゆすってみせるレーナ。
……メイド服だとわかりにくかったが結構な物をお持ちの様子でくそがっ。
「……なんでお前サキュバスにならなかったんだろうなぁ」
「アルファ様一筋ですから」
「のろけは他所でやれ」
妙に甘ったるいような苦いような……チョコレートみたいな空気になったところで水を差す。
多分このまま放置してたらこのままベッドルームにでも直行してたんじゃねえかなって雰囲気だったからな。
「それで、アルファの特訓だがこいつもこれか?」
頭上の鉄球を指さすが、レーナが首を横に振る。
「いえ、私やアルファ様は本来形を持たないドッペルゲンガーです。故に重心などはほとんど関係ないので必要ありません。なので魔力コントロールと手加減を学んでいただこうかと」
「あぁ、なるほどな」
魔力コントロールは当然だが、手加減というのは実はかなり重要なのだ。
加減ができるってのはそれだけ自分と相手の力量を見極められているという事でもあり、どの程度本気を出せば殺せるかという指標も作りやすい。
つまるところ加減をできるようになったら自身の力を100%発揮できるという事だ。
今まで見たいになんとなくで戦って、それっぽい空気にするだけならよかったんだが相手が相手だからな。
十全万全どころじゃ足りないくらいだ。
「……ゲロ吐きそう」
「やめろ汚い。つか前もこんなやり取りしたな……手加減の練習だろ? 何がそんなに嫌なんだよ」
「レーナに向けて攻撃するのが嫌だ……」
これまた、なるほどである。
けどなぁ。
「安心しろ、今のお前ならわかると思うがレーナはお前よりよほど強い」
フィジカルメンタル共に。
正直、初対面じゃわからなかったがレーナは強い。
いや、初対面でも強いなーくらいには思っていたし、勝てる相手じゃないとも思っていた。
けれどそれは想像以上で、少なくとも今の私も本気を出して殺すために武器や魔法を使ったとしてまともに傷を与えられるかすら怪しい。
それは、今私と同程度の強さになったアルファも同じだろう。
私がアルファにかなわないと思っていた理由は年季だが、レーナが管理者になってからの年季はそれを余裕で超える。
そもそも古い魔族、原初の魔族と言われる連中はみんな化け物じみて強いし、搦め手使うし引き際もわきまえている。
なにより人間に紛れて生活しているか、あるいはいつでも捨てられる拠点を持っているのでそいつらの生き方から学んで魔女と呼ばれるような生活をしたり、人と共存しようとした結果が今の私なわけだ。
そいつらにすら勝てなかったであろう私が今ここまで強く慣れたのはシステムの恩恵、管理者として力が底上げされたからに過ぎない。
借り物の力だったジョブも500年かけて自分の物にしたと思い込んでいた。
その先があるとすら考えずに停滞していたのに、レーナは管理者として常に探求も究明も欠かさなかった。
だからこそ、下手したら神なんかよりよっぽど恐ろしい相手かもしれない。
……まぁだからこそシステムに頼らない、自分の肉体って言うポイント鍛えるような内容が私とアルファの特訓になっているんだろうな。
経験則ってのはばかにできないもんだ。