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第92話

 後日、特訓で身体も心もボロボロになったアルファにポーションを差し入れてやったことから事件は始まった。


「ユキ様、アルファ様への差し入れは私達の役目です!」


「そうです! 抜け駆けはいけません!」


「58番婦人になるのならルールは守っていただかないと困ります!」


 レーナの呼びつけたメイド軍団もといアルファのハーレムが私を糾弾してきたのである。


「いや普通に同郷のよしみで差し入れただけだが? 嫁入りは考えてないしな」


「ま、まさかアルファ様を婿入りさせるつもりですか!?」


 あー、頭煮えてるのかなこいつら。


「落ち着きましょう皆さん」


「レーナ、なんとか言ってやってくれ。こいつら恋愛脳なのかずっとこの調子なんだ」


「そうですね……まずユキ様はアルファ様をご友人として認識しています。ブリッグ達と同じ感覚ですね」


「……異性の友情は存在しないと思いますが」


「確かに多くの場合欲望か利害の一致があると思います。ですが先ほどユキ様が申していた通り同郷のよしみというのもあるでしょう。それ以上に利害の一致の方が大きい。なにより付け入るというのであればその機会は何度もあったにも関わらず、お二人は研究仲間として語り合う事も多い。友情とは違うというのであれば……仲間意識でしょうか。あるいは同類扱い、異性として認識していないはずです。そうですよね」


 ぐりんとレーナが首だけ回してこちらを睨んできた。

 目にハイライト無いし、めっちゃ早口だしで怖い……お前もか。


「まずここで……あー、何がいいかな、神に誓うとかこの場で言っても馬鹿でしかないし……今まで研究してきた全てに誓ってアルファに好意は持っていない。敵意もない。マジで同類として話は弾むが異性として見てないからな」


「証拠はありますか?」


「悪魔の証明をしている暇はないから端的な方法でよければ」


「端的な方法ですか……それは私達が納得できるものなのですよね」


 メイドたち、そしてレーナにガシッと肩を掴まれた。


「痛い痛い、ちょっと手を動かせないから放してくれ」


 その言葉に少しだけ力が緩む。

 あ、逃がすつもりは無いぞって事ね。

 まぁいいけど、インベントリから薬研をはじめとする調剤器具を取り出す。

 ポーションを作るのに使う機材なのだが、ゲーム時代から引き継いだもので此方の世界じゃアーティファクトと呼ばれるほど強力な物だ。

 なんと効果が5割増し、量は3割増しの必要素材は2割引きで魔力が続く限り連続生産も可能というとんでもアイテムである。

 まぁ薬師関係のジョブクエストクリアすれば貰えるものだからそこまで珍しい代物じゃないんだがな。


「まずマンドラゴラ、こいつは滋養強壮の効果がある。次に月亀の生き血にスノウドロップの球根、ブラッディベアの胆嚢を適量合わせるのが重要だ」


「調薬ですか?」


「あぁ、とあるポーションを作るつもりだ」


 私の言葉に一同が少し距離を取った。

 まぁわかるよ、ポーション作成って失敗すると爆発するんだよな。

 それも込めた魔力に応じた威力と範囲になる。

 一部じゃ自爆戦法として使ってる奴らもいたし、街中で調薬しているように見せかけてPK……つまりはプレイヤーを狙って攻撃する自爆テロもあった。

 たまーに普通に失敗して周囲に大ダメージ与える奴もいたが、基本的に中級車くらいになってくると意図的なものか、新しいレシピ開発でもなければ爆発は起こさなかったな。


「懇意にしていた貴族や王族に頼まれて目の前で作ったこともあるから安心しろ。徹夜明けの寝ぼけ半分で目を閉じてても作れる」


 薬研でマンドラゴラと球根をすりつぶし、魔力を使い生き血で胆嚢を煮込む。

 ちょっと面倒な手口になるが、そのまま胆嚢を血に溶け込ませるようにして魔力を流し続け、ちょうどいいタイミングを見計らって磨り潰した粉末を投入して数分煮込む。

 最後に瓶詰めして完了である。


「ほれ、これを持ってけ」


「これは?」


「精力剤兼媚薬、ついでにメンタル向上系の効果と一時的だが筋力上昇の効果がある。あとHP……じゃなくて体力とスタミナの継続回復もな」


「それは……」


「私とアルファの中がいいと不安ならあんたらが毎晩付き添ってやればいい」


「……ユキ様」


 メイドたちを代表してかレーナが前に出る。


「ありがとうございます! 早速活用させていただきます!」


 手を握ってくるが加減されてないので滅茶苦茶痛い。

 骨がぎしぎしと軋んでいる。


「飲ませてよし、嗅がせてよし、塗ってよしの三拍子だ。盛るなら他の連中の食事に混ざらないように気をつけろよ」


 ドンと木箱に収めたそれはざっくり3ダース、ここにいるメイド以外が押し寄せてもおつりがくるだろう。

 一方でうっかり異世界人の口に入ったらやばいのも事実。

 つまりは……。


「アルファの部屋に押しかけて直飲みさせろ。無味無臭だが飯に混ぜたりすると揮発してヤバい事になる」


「わかりました!」


 本当にわかっているのかと聞きたくなるくらいのいい返事……。

 まぁ原初だったり古代だったりだからそこまで馬鹿じゃないだろう、と思っていた私が馬鹿だったよ!

 その日の夕飯時、発情した連中を片っ端から気絶させて解毒薬作って、先生にアンチドーテの魔法を教えながら実践して、部屋の空気入れ替えたりしてと大変だった。

 お薬は用法容量を守って使えっての!

 翌日以降寝不足のアルファに徹夜ポーションを渡すようになったのは言うまでもないことだが、異世界人達はみんな気まずそうな顔をしていたな。

 思春期というのもあるだろうが、夕飯時の醜態を気にしての事だろう。

 一部ベタベタしてる奴らは……避妊さえしてるならいいかな。


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