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第九十七話 召喚合戦


 皆月の触手が次々とガーディアンに襲いかかる。

 ガーディアンは迫りくる触手を槍で斬り倒していった。

 その隙に皆月の本体が出現する。


「タコの怪物であったか」


 オシリスは何が面白いのか目の奥が笑っているように思えた。


「なにがおかしいの?」

「いやなに、オシリスの化身である我に啖呵を切っておいて、呼び出したのがそんなものだとは思わなかっただけだ。貴様は我と同じく、眷属を呼び出して戦うタイプだろう? 我が本当の眷属の力というものを見せてやろう」


 オシリスが喋り終わると同時に、ガーディアンは槍を構えてこちらに向かって突進してきた。

 皆月が無限に発生する触手で対応するが、ガーディアンの足と止めるまでには至らない。

 ガーディアンが目と鼻の先にまで迫り、槍を振りかぶるが私は一切動揺しなかった。


「無駄よ」


 ガーディアンの槍は、半透明に姿を変えた皆月の肉体によって防がれる。

 いままで散々切り刻んだ触手と同じはずなのに、ガーディアンの槍は皆月の肉体に通用しなかった。


「本来、皆月は防御用の式神。攻撃が持ち味の式神ではないの。だから攻撃は別の子にお願いするね」


 私は不敵に笑い、影薪の頭に手をのせる。

 呪力を循環させ、ガーディアンを打ち砕く式神を呼び出すのだ。


「呪法、月の影法師。 来たれ、影の騎士団!」


 皆月の生み出した影の世界に新たな影を発生させる。

 皆月はただの式神ではない。

 世界そのものを生み出す式神だ。


 影の騎士団が私の背後に出現し、手に持つ槍でガーディアンを突き刺す。

 ガーディアンは槍をさばきながら後退し、オシリスの隣にまで下がった。


「我のガーディアンも本来は防御用の眷属。攻撃は別の者で行うとしよう」


 オシリスは相変わらず玉座に座ったまま、杖で地面をたたく。


「来い! スカラベ! 食い殺せ!」


 先ほどと同じように地面から大きな棺が現れる。

 蓋が勢いよく開いたかと思うと、巨大な甲虫が姿を見せた。


 見た目からして醜悪だった。

 本当に巨大なスカラベといった見た目で、体長は五メートルはある。

 そして金と黒が混じりあったような独特な色をしている。

 口にはハサミのような牙が生えていて、あれに挟まれたら一撃で殺されてしまいそう。


「気色悪い」


 虫がそもそも苦手という点を除いたとしても、見た目だけで気分が悪い。

 一刻も早く視界から退場願いたい。


「やれ! 刺し殺せ!」


 私が合図を送り、影の騎士団たちが走りだす。

 一体で貴族位の妖魔の相手はできなくても、数と陣形でそれを補う。

 影の騎士団の一人が先走ってスカラベに踊りかかる。

 スカラベは一切反応せず、その槍を受けるが傷一つ付かなかった。

 甲虫の表面は鎧のような強度を誇っており、影の騎士団の槍をもってしても貫けそうにない。


 そして槍を弾かれた騎士はその報いを受ける。

 スカラベの鋭い牙が丸腰の騎士の胴体を一撃で切断してしまった。

 恐るべき破壊力。

 影の騎士団も鎧をまとっているのだが、そんなものは何の意味もなさないようだった。


「影薪、本気で殺しにいかないとダメみたいね」

「鵺との戦いに向けて呪力を温存したかったけど、そんな余裕もなさそうだしね。それに葵には切り札があるじゃん」


 影薪は地面を指さしてそう言った。

 確かにそうだ。

 私には一つ切り札がある。

 ここは呪力を消費してでも勝ちにいかなければ……。


「まずは本体を狙ってみよう」


 私は小声でささやき、呪力を練り上げる。


「呪法、月の影法師。来い、影絵の騎士!」


 私が叫ぶと同時にオシリスの背後に影の騎士が出現するが、出現した瞬間にガーディアンの槍で消されてしまった。


「それはさっき見たぞ? そんな芸当しかできないのか?」


 オシリスは一切姿勢を変えないままこちらを睨む。

 完全に油断しきっている。

 いまなら奴を殺せるかも!


「裁きの棘よ! 奴を突き殺せ!」


 私が高速で呪力を流し込むと、ガーディアンに消された影絵の騎士の血液が影の棘となって足元からオシリスに奇襲を仕掛ける。

 今度こそやったと思ったが、今回もガーディアンが反応して影の棘を斬り倒す。


「ふん、そんな奇襲ばかりでは我には届かんぞ」


 オシリスは余裕を見せて笑う。

 悔しいが奴の言う通りで、仮に影絵の騎士が初見だったとしてもあのガーディアンの反応速度が上回るだろう。

 だから奇襲は通用しない。

 こういう眷属を次々呼び出すような相手の場合、持久戦に持ち込むか本体を速攻で叩くのがセオリーなんだけど、こいつにそれは通用しなさそう。

 そうなると持久戦となってしまうが、こっちにも体力や呪力量という制限がある。

 さらに言ってしまえば、オシリスの呪力量の底が知れない。

 パッと見た感じ、呪力の総量が減っているようには見えないのだ。


「こうなったら大型の式神でも呼ぶしかないわね」

「とっとと呼んじゃおう!」


 私の言葉に影薪が反応する。

 持久戦も奇襲も厳しいのであれば、圧倒的な攻撃力で押しつぶすのみ!


「そんな隙を与えると思うのか?」


 オシリスが杖の先を私に向けると、スカラベは影の騎士団を無視して私に向かって突進を開始する。

 体長五メートルの巨体が迫る来る様は圧巻だった。

 恐怖すら感じる。

 しかし私には式神たちがいる。


「させないよ!」


 私は呪力を練り上げながら叫ぶ。


 影の騎士団たちが呼応して次々とスカラベに飛びかかる。

 スカラベの上によじ登り、関節部分に槍を突き刺していく。

 スカラベの動きが若干弱まったが、それでも前進し続けている。

 彼らだけでは止められない。

 皆月も地面から触手を生やしてからめとっていく。

 徐々に速度が落ちてきた。

 これなら止められると思ったその時、スカラベは背中の甲羅を開いたかと思うと中からはねが出現し、空に飛びあがる。


 ブーンというエンジン音のような大きな音を立て、自身にまとわりつく騎士団を振り払いながら飛び上がった。

 そしてそのまま真下に落下する。

 騎士団は一撃で押しつぶされ、影の血だまりとなって消えていった。

 皆月の触手も押しつぶされ、一時的に本体だけとなる。

 スカラベはこの機を逃さず突進を再開するが、私の準備はもう整った。


 影の騎士団や皆月が稼いでくれた時間。

 私が扱う中で最大の式神を呼び出す!




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