目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第12話

 八世も啞然としている。


 まあ、八世はわかる。エルフレイアは生まれ故郷なのだから。しかし他の者たちがなぜそこまで、とは疑問であった。


「クーデターの首謀者は『アルトリア』と名乗っているそうだ」


「なんだと!」


 今度は吾輩が驚かされた。アルトリアとは吾輩の腹心の名と同一である。


「さすがに悪逆皇帝と同一人物であるはずはないが、その意思を継ごうとする者ならば、危険極まりない人物である」


「悪逆?皇帝?アルトリアが?」


 疑問や衝撃の事実が次から次へと舞い込んできて、さすがに【知謀のスティン】でも情報整理が追いつかない。


 ガタガタ、と何かが揺れていると思ったら王女の足であった。


「悪逆皇帝……スティン様を殺した男……」


「なんだと!?吾輩がアルトリアに殺された?そんなバカな」


 アルトリアは統一戦争以前から吾輩と苦楽を共にした親友とも呼べる男であるぞ!


 吾輩は脳裏に優しく微笑む優男のアルトリアを思い浮かべた。そのアルトリアが吾輩を殺し、皇帝となり、今なお皆が恐れるほどの暴挙をしたというのか。


 王の話は続く。


「現在、エルフレイアの首都カミールと、首都防衛を主な任としている六芒の城塞のうち北東のレイドルン、南西のリンドルン以外は陥落またはアルトリア側に寝返ったとのことだ」


 六芒の城塞か。名は変われど場所は変わっておらんのだな。しかしその内の半分以上が、この短い期間にクーデター側というのは手際が良すぎる。


 それに。このエルダイルにも来るぞ。クーデター側からの使者が。王女が狙われたのも人質にしようとしていたのだろう。阿呆兄弟のおかげで助かったが。


「アルトリアからの使者と名乗る者がやってきております」


 言っている傍からか。早いな。


「うむ。通せ」


 皆が口を噤み、使者を待つ。やってきたのはそれほど位の高そうではない文官。度胸だけはあるようで、並み居るエルダイルの将たちを恐れるでもなく、堂々と……いや、やたら偉ぶって、周りを見下すような目つきで歩いていた。


 そして王の前で立ち止まる。そのまま頭を下げるでもなく書面を開いた。


「エルダイルの王に命ずる。我が下に降り、王女を我が妻として差し出せ。さもなくば国ごと滅ぼしてくれよう」


 ねちっこくて、厭らしくて、鼻につく話し方が将や文官たちの怒りを膨らませる。


 その怒りの声を王が手を掲げて制した


「無礼にも程があろう、使者よ」


「ほう、ではアストリア様に逆らうと?」


「もう少し物の言いようがあろう。それとも何か?我らには選択したり考える時間は与えぬと言うのか」


「ええ。即断即決で」


「ふざけるな」


「いたって真面目に答えてますよ。生きるか死ぬかの瀬戸際に考えたりする余裕などないでしょうに」


「貴様!我らが王に向かってなんたる口の聞き方か!」


 一人の武官が怒り心頭、腰の剣を抜く。


「剣を抜きましたね?容赦はしませんよ」


 使者はなにやらブツブツと呟くと、武官の剣は真っ二つに折れ、その折れた破片が操られているかのように空中に浮かび上がった。


「死んでくださいね」


 使者のその言葉で剣の破片は武官の喉笛をかき切った。武官は大量の血が首から噴き出し、そのまま息絶えた。


「魔法……」


 誰かが呟く。


 そうだ、あれは間違いなく魔法だ。


「ええ。アストリア様に与えて頂いた魔法ですよ。逆らえば誰であろうとこの力で制圧しますよ」


 この世界では、魔法自体が珍しくなっており、使える者はほぼいない。つまり対処することも出来ないのだ。


「さあ。もう待てません。答えないならばこの力で王も屈服させるまでです」


 誰もがなにも話せず、かといって動くこともままならない。


 吾輩が隙を突いて制圧するしかないか、そう思った瞬間、王女が立ち上がった。


「待ちなさい。ひとまず私がカミールのアストリアの所へ行くことで少し猶予をください」


 おいおい、王女!勇ましいがそれはダメだ。この手の脅しには乗るな!


「これはこれは、リーサ王女。素晴らしい決断ですね。アストリア様もお喜びになりますよ。まさか自分から妻になることを受け入れるとはね」


「よく言うわ。それこそ選択の余地なんてないでしょ」


「ふふ、アストリア様も手を焼かれそうですね。良いでしょう。リーサ王女をカミールにお連れする時までにご返答願いますよ。エルダイル王」


「まだよ、この子は連れて行くわ。それから父の返答まで誰一人として手を出さない。拒否なら私はカミールには行かない」


「まあ、子猫くらいならアストリア様もお許しになるでしょう。手出しもしませんよ。わかりました」


「そう。では用意をしてくるわ。約束は守ってよね」


 リーサは使者にきつく厳命した。そして自室に戻る前に八世の顔をじっくりと見つめていた。



「あの人、案外鈍感なのよね。気づくかしら……」


 部屋に戻ったリーサが嘆く。


 八世か。あやつは鈍いな、確かに。


「サーヤ。巻き込んじゃってごめん。でもサーヤのこと必ず、絶対に私が守るから!」


「うん、一緒の方が姫も心強いでしょう。サーヤも姫を守るわ。だからダーリン、姫もサーヤも助けに来てね!」


「ああ。受けた恩をまだ返しておらんからな。必ず行くから、無茶なことはしないで待っていろよ」










この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?