午前中の授業をやりきると束の間の休息である昼休みに入った。
恒例のように佐藤君と清水さんが僕達の席の近くに集まって四人で昼食を取っている。
「そぉいや、ゆぅふけあいほりぐはしあんだよな?」
口にご飯を目一杯詰め込んだ佐藤君が僕に向かって話し掛けてきたのだが、何を言っているのかさっぱりわからない。
佐藤君は相変わらず二段構えのタッパーにご飯とおかずが溢れんばかりに詰まった弁当を持ってきている。
「ごめん、佐藤君。ちょっと聞き取れなかったから、もう一回言ってくれないかな?」
「そぉいや、ゆぅふけ――」
「一度、食べてる物を飲み込んでから言いなよ。それじゃ、モゴモゴしてて伊瀬君だった聞き取れないよ」
清水さんのストップに佐藤君はリスのように膨らんだ口を軽く手で押さえながら頷いた。
一生懸命に口を動かして口に入っていた物を全て飲み込んでから、水筒に入っていたお茶を流し込む。
息を吐いて、口の中がスッキリした佐藤君はようやく口を開く。
「そういや、祐介って一人暮らしなんだよな?」
モゴモゴとして聞き取れなかった部分がクリアに伝わったことで、さっきの声のニュアンスと内容が一致した。
「うん、そうだよ」
「ってことは、そのお弁当は祐介が自分で作っているのか?」
「えっと……まぁ、一応ね」
「そうなのか。自分で作ってるなんてすげーな。俺なんかこの弁当、母親に作ってもらってるんだぜ」
三分の二以上は平らげられた二段構えのタッパーの弁当を示す。
「すごくなんかないよ。おかずとかは冷凍食品に頼っているところが多いから」
「だとしても、やっぱすげーよ。俺にはできる気がしない」
「そんなことないと思うよ。僕も最初の頃は結構大変だったけど、慣れてきたら案外できるもんだよ」
「本当か?」
「本当だって!」
信じられないと佐藤君は疑わしいそうにする。
「でも、その慣れるまでが思ったより大変なんだよね~」
「お、清水のその言い方からみると身をもって経験した感じか?」
「私もさ、いつもお母さんにお弁当を作ってもらっているから自分で作ってみようと思ったんだよね。一回、二回だったら大丈夫なんだけど、学校がある日に毎日やるとなるとこれがもう大変で、早々にギブアップしちゃったんだよね。だから、今は余裕がある時は自分で作るようにしてるけど、他はお母さんに任せちゃってるんだ。本当、お母さんには感謝しないとね」
清水さんの手元には可愛らしいランチョンマットの上に乗った弁当箱の中から色とりどりの具材が顔を覗かせている。
「そうだよな。俺も母親には感謝だな。俺が自分で弁当を作ろうとしたら、たぶん三日も持たないだろうな」
「コツさえ掴んで慣れちゃえば大変さもかなり軽減されるんだけどね」
三日坊主にもならないと自信を無くした佐藤君を励ますように僕は言う。
「それができちゃうのが伊瀬君のすごいとこだと思うよ。同じ一人暮らしでもボクはこの通り、購買のパンに頼っているからさ」
マノ君が手にしていたメロンパンを強調する。
「たしかに、悠真が弁当食べてるところ見たことないかもな。というか、いつも購買のメロンパン食ってるよな。毎日、食べてて飽きないのか?」
「う~ん、飽きはしないかな。それどころかメロンパンを食べないと、どうも調子が出ない気がするんだ」
「へぇ~、そんなに美味しいの?」
私も食べてみようかなと清水さんが興味深そうにマノ君のメロンパンを見つめる。
「うん、美味しいよ。あ、けど、毎回メロンパンを食べちゃうのはボクがメロンパン自体を好きなせいもあるかな」
「どんだけ好きなんだよ」
佐藤君のツッコミに僕達の間で笑いが起こる。
「それなら今度私、食べてみようかな。それだけメロンパンが好きな天野君が美味しいって言うってことは、味は保障されているも同然だしね」
「ぜひ、食べてみて! あっ、ただ、カロリーは高めだからそこは注意しといた方がいいかも」
「うっ……わかった。じゃあ、食べる時はめちゃくちゃ運動する日とかにしようかな……」
「んなの気にすんなって。清水、別にスタイル悪くないだろ」
「あのね、女子は男子と違って油断するとすぐ太っちゃうの! 本当に油断大敵なんだよ」
「そうなのか?」
佐藤君はあまりピンときてはいないみたいだ。
「油断しないことは大切だと思うけど、ボクもあまり気にしなくてもいいと思うよ」
「そうだよ。逆に、食べたい物を食べたい時に食べれないことの方がストレスとか掛かってよくないかもよ」
「なるほど。たしかに、それも一理あるかもね。だったら、明日にでも買って食べちゃおうかな」
いたずらっぽく清水さんが笑う。
「おっ、そうしな! 俺はこの後、買いに行こうかな」
「佐藤君、まだ食べるの!?」
あれだけの量の弁当を食べているのにさらに食べれるという佐藤君の胃袋の大きさに僕達は驚かされた。
「残念だけど、もう売りきれてると思うよ」
今にも買いに行きだしそうな佐藤君をマノ君が悲報と共に呼び止めた。
ガックリと肩を落とした佐藤君は清水さんと一緒に明日、買いに行くことを決めたようだ。
マノ君の好物がメロンパンであることを知って話が盛り上がった僕達だったけど、いつの間にか次の話題へと花を咲かせていた。