リエトはため息をついた。
「犯人探しはしとるんやけど、なかなか難しくてな」
「そうか。実はオレ、探偵なんだ」
日南梓がそう言うと、リエトたちが目を丸くする。
「探偵?」
「本当に?」
「おう、本当だぜ。これまでにもいくつかの事件を解決してきた実績がある」
という設定になっているだけだが、日南は探偵として見逃せなかった。
「そりゃ助かるわ、ぜひ犯人捕まえてくれんか?」
「ああ、任せとけ。北野たちも協力してくれるよな?」
日南が振り返ると二人ともうなずいた。
「もちろん。わたしは日南さんの助手だもん」
「俺もできるかぎり協力するよ」
返答に満足して日南は再びリエトを見る。
「っつーわけだから、事件のことはオレたちに任せてくれ」
「おう、よろしゅう」
にこりとリエトが笑い、すぐに前方を指差す。
「あそこがカフェや。俺らが最近よく集まってるところやね」
視線の先にはこぢんまりとした建物が見える。どことなく温かみのあるデザインで、窓からは木製の椅子と机が並んでいるのが見えた。
「それじゃあリエト兄ちゃん、みんなを呼んでくるね!」
と、ソヨがカフェの向かいにある建物へ入っていった。
「あれは魔法医学科棟で、隣がサークル棟や。一階には食堂があるんやけど、遺体が置いてあるから今は使っとらん」
「そうか」
話からして七名の遺体が安置されているようだ。後で見に行こうと日南は思った。
リエトは慣れた様子でカフェの扉を開けた。
「こんちはー」
「やあ、いらっしゃい」
カウンターで仕事をしていた、二十代後半らしき端正な顔立ちの男性がこちらを見て驚く。
「そちらの方は?」
「お客さんや。どうやら、久しぶりにゲートが開いたっぽくてな」
「へぇ、もう開かないものかと思ってた」
店員と思しき彼は長めの茶髪に引き締まった体をしており、ギャルソンの制服がよく似合う。
日南たちはリエトにうながされて近くの四人席へ腰を下ろした。
「お客さんら、お腹空かしてるんやて。何か食わしてやってや」
「分かった」
すぐに男性はキッチンへ移動し、調理へ取りかかる。
日南の隣へ座りながらリエトは言った。
「彼はここの店員で、今は一人で店を仕切ってる
「もしかして、彼は?」
「ああ、おたくらと同じか、近い世界から来てるんちゃうか?」
日南は向かいに座っている北野を見る。
「どうやら、日本人もいるらしい」
「うん。魔法学校って言うけど、まずは設定を理解した方がいいかも」
北野がそう返した直後、扉が開いて小柄な女性が入ってきた。
「魔法医学科三年、エクレア・バターサンドです」
と、頭を下げてから隣のテーブル席へ、小動物のような動きで腰かける。
「あとでまとめて紹介するさかい、ちょっと待っててな」
「うん」
エクレアは焦げ茶色のストレートヘアで、やはり緑色のケープを羽織っていたが、小さな体に不似合いな豊かな胸の持ち主だった。
作者の好みなのだろうがどうにもちぐはぐな印象だ。日南は何とも言えない気持ちになりつつ、人が集まるのを待った。
記録課の仕事は単調だ。緯度、経度、時間度、そして内容に関する簡単な情報を記録するだけである。
「うん、いい感じですね。ミスもないし、特に心配はなさそうですね」
と、一坂に褒められて、日南隆二は軽い笑みを向けた。
「ええ、作業の方はもうすっかり覚えました」
「それじゃあ、本格的に担当を決めちゃいましょうか」
そう言って一坂が「課長」と、長尾へ顔を向けると、彼はこちらを見てにこにこと笑っていた。
「何ですか、その顔。ちょっと気持ち悪いんですけど」
と、一坂がつれなく返すと、長尾はかまわずに言う。
「君たち、仲いいなぁと思ってさ。年も近いし、二人とも独身だし、お似合いなんじゃないかい?」
直後、日南の心臓がドキッと鼓動を早める。
「もう、何言ってるんですか。そんなことより仕事です」
一坂は呆れた様子で言い返すが、日南はつい彼女を意識してしまっていた。
けして美人ではなく派手でもないが、どちらかといえば可愛い人だ。日南からすれば付き合いやすい相手でもある。真面目でしっかりしているところも好印象で、かつて創作をしていたことは共通点とも言えた。
課長のデスクへ歩み寄って仕事の話を始める彼女を、日南は横目にそっと盗み見る。恋愛感情を抜きにしても、一坂のことをもっと知りたいと思った。
コンビーフと野菜を挟んだホットサンドが出来上がった頃、続々と人が集まってきた。カウンター付近に立ったり、空いている席に座ったりと、それぞれが思い思いの位置に留まる。
「おう、これで全員やな」
と、リエトが確認してから日南たちを紹介した。
「まずはこっち、新しく来たお客さんたちや。よぉ分からんけど、ゲートが開いたっぽいんや」
すかさず日南はその場で立ち上がり、肩書とともに名乗った。
「探偵の日南梓です」
「助手の北野響です」
と、北野も察して腰を上げ、日南に合わせてきた。
残る西園寺も席を立ち、会釈をしつつ普通に名乗る。
「西園寺悠真です」
すると、カウンターの前に立った体格のいい少年がぴょんと跳ねるように、こちらへ一歩進み出た。
「もしかして日本人ですか!?」
「ああ、そうだ」
日南が肯定すると少年は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「オレ、総合科一年の
彼の隣にいた筋骨隆々の長髪男性が察した様子で口を開く。
「警備員の
「
カフェ店員がにこりと笑って言ったように、静と元夢は一卵性の双子のようにそっくりだった。
「魂の双子、ってことはツインソウル!?」
と、西園寺が反応し、燈実が目を輝かせる。
「まさか知ってるんですか?」
「ああ、スピリチュアルだよな。俺、オカルトとかそういうの好きなんだ」
無邪気な子どものように顔を輝かせ、燈実は二人を振り返った。
「わあ、仲間ですよ! 静さん、元夢さん!」
静と元夢は優しく見守る保護者のように、ただにこりと微笑む。笑った顔もそっくりだ。
「えーと、話進めるで」
様子を見ていたリエトが呆れ半分に口を出し、燈実がはっとして元の位置へ戻る。
「まだ紹介してへんのは、そっちの二人やったな」
リエトが視線を向けたのは金髪の少年と、水色の髪をゆるく一つ結びにした美しい女性だった。
「僕は魔法兵科一年、イニャス・ペルグランです」
少年が落ち着いた口調で自己紹介し、日南たちは会釈を返す。
「私はフィオーレ・ピントです。魔法総合科の講師をしています」
銀縁の眼鏡をかけていても分かる柔和な面立ちに、白いカーディガンを着た優しそうな女性だ。
「ちなみにフィーちゃんは俺のはとこやからな」
と、リエト。まるで「近づきすぎるなよ」と、暗に警告するかのようだったが、彼自身は冗談まじりのつもりなのか、軽く笑みを浮かべている。
一方、フィオーレはかすかに苦笑しているばかりだった。