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第9話

 フィオーレと燈実が協力して、全員分の朝食を作ってくれていた。

 日南は店の一番奥の席に着き、向かいにリエトが座った。

「まずはリエト。昨日の夜、どこで何をしていた?」

「カフェで夕食を食べた後、自分の部屋におったよ。もちろん、一人きりや」

「カフェを出たのは何時頃だ?」

「七時過ぎやったと思う」

 西園寺と北野が朝食を配膳しており、日南は手元のメモにリエトの証言を書き込んだ。

「アリバイを証明する人やものは?」

「ないな。残念やけど」

「分かった」

 と、日南は返してから次の人を呼ぶ。

「じゃあ、次はソヨだ。こっちに来てくれ」

 リエトが席を立ち、入れ替わりにソヨが腰を下ろす。

「昨日の夜、どこで何をしていた?」

「うーんと、昨日は六時半頃にカフェに来て、元夢ちゃんにお弁当を作ってもらったよ。それを自分の部屋に持って帰って食べたんだけど、眠るまでずっと宝石の整理してた」

「一人か?」

「うん。あ、でも途中で響ちゃんのお部屋に行ったんだ。響ちゃんに合う宝石を見つけたから、あげたの」

 カウンターの前にいた北野が口を出す。

「たしか、九時過ぎだったはず。わたしが部屋に戻ってすぐだったから」

 彼女の胸元に見慣れない黄色の宝石が輝いていた。ソヨからもらったものだろう。ソヨのアリバイが証明された。

「その後は?」

「すぐ自分の部屋に戻って、一時間くらいしてからベッドに入ったよ」

「分かった。じゃあ、次は燈実だな。こっちに来てくれ」

 全員の前に朝食の皿が置かれ、ちょうど燈実がカウンターから出てくるところだった。

 燈実はすぐにこちらへ来て日南の向かいへ座る。

「昨日の夜、どこで何をしていた?」

 日南の質問に、燈実は落ち着いた調子で答えた。

「八時半まで、静さんや元夢さんとカフェにいました。オレは部屋で本を読みたかったので、食事を終えてすぐに戻りました」

「それからはずっと一人か?」

「はい。十時くらいに風呂に入りましたけど、誰とも会ってません」

 日南は少し嫌な予感を覚えた。とりあえず聴取を進める。

「分かった。じゃあ、次は静さん、来てもらえますか?」

 席を立った燈実がカウンターテーブルへと戻る。

 口をもぐもぐさせながら静がやってきて、椅子へ腰を下ろした。

「昨日の夜、どこで何をしていたか教えてください」

「うん……いつも通り、九時までカフェにいた。俺は警備員だからな、毎晩敷地内を見て回ってから、自分の部屋へ戻るようにしてるんだ」

 日南はメモをとりつつたずねる。

「終わるのにかかる時間は?」

「だいたい二時間だな。カフェを出て右から……だから、反時計回りに進む」

 カフェのある位置を時計で表すところの六として、右隣に魔法総合科と魔法工学科、三の辺りに魔法兵科がある。そのまま反時計回りに進むと講堂があり、十二の位置に図書館、隣に魔法生物研究科が並び、九の位置に学生寮があった。それらに囲まれるようにして、中心に建つのが魔法医学科とサークル棟である。

「ぐるりと一周ですか?」

「寮の前まで来れば、道の先にカフェが見える。正確には一周してないが、まあ、だいたい一周だ」

「では、その間に怪しい人影を見てませんか?」

 日南の問いかけに、静は即答した。

「ああ、見てない。それに仕事を終えた時、まだカフェには明かりがついていた」

 日南はふと店内に目を向けた。十一時までカフェが明るかったということは、元夢がまだ中にいたということだ。犯行はその後に行われたことになる。

「分かりました」

 と、日南は返してから次の人を呼んだ。

「それじゃあ、次はイニャス。来てくれ」

「はい」

 静が戻っていき、イニャスがこちらへやってくる。

「昨日の夜、どこで何をしていた?」

 静かに席へ腰を下ろしてから、イニャスは冷静に話を始めた。

「リエト先輩たちと夕食をとって、七時過ぎにカフェを出ました。一度部屋に戻りましたが、十時頃からグラウンドを走っていました」

「魔法兵科のグラウンドか?」

「はい、そうです。体を動かさないと落ち着かないので、時々やっているんです」

 彼が魔法兵科の学生だったことを思い出す。体を動かしたくなるのは当然だ。

「何時までだ?」

「そうですね、昨日は……三十分くらい走ってから、少しだけ魔法の練習もしました。十分もなかったと思います」

「その後、部屋に戻ったんだな?」

 問いかけにイニャスは軽くうなずきながら、はっきりと答えた。

「はい。僕が戻る頃、カフェはまだ明るかったです。たしか、元夢さんが店内の掃除をしていました」

「なるほど」

 イニャスがカフェの前を通ったのが十時四十五分頃だったと仮定して、今のところ矛盾する部分はない。やはり元夢は十一時以降に殺された、という事実が補強されたのみだ。

 日南はすぐに次へ移った。

「じゃあ、次はエクレア。こっちへ来てくれ」

 小さな口でサンドイッチを食べていた彼女が、はっとしてサンドイッチを皿へ置く。そして口元に片手をやって隠しながら、日南の前へやってきた。

「昨日の夜、どこで何をしていた?」

「……昨日は、リエトくんたちとご飯を食べました。ボクがお店を出たのは七時過ぎで、フィーちゃんと一緒でした」

「その後、自分の部屋へ?」

「いえ、図書館に行きました。読みたい本を探すのを、フィーちゃんに手伝ってもらったんです」

 その言葉を受けて、様子を気にしていたフィオーレが歩み寄る。彼女はエクレアの隣に腰を下ろし、穏やかな調子で証言を補足し始めた。

「八時頃に図書館を出ました。それから寮へ戻ったのが八時十分くらいです」

 日南は冷静にエクレアとフィオーレを見つめ、話をうながす。

「その後は?」

 落ち着いた様子でエクレアが答えた。

「それぞれ自分の部屋に戻りました。ボクはずっと部屋で本を読んでいて、眠くなったので寝ました」

「私はお風呂に入りました。たしか九時半くらいだったでしょうか、響さんと一緒になったので少し長風呂しちゃいました」

 と、フィオーレ。

 無意識に日南は北野へ視線をやってしまい、察した西園寺が半ば呆れて言う。

「今、北野ちゃんの裸、想像したろ?」

「馬鹿、そんなんじゃねぇし!」

 思わず声を荒らげてしまった日南は、ほんのりと頬を赤らめた北野ににらまれる。

「もう、日南さんってば」

「すまない、つい……」

 結局認めることになってしまい、くすくすと笑う声があちこちから聞こえてくる。

 日南は慌てて咳払いをしてごまかした。

「それで先生、お風呂から上がったのは何時でしたか?」

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