窓を閉めきった薄暗い室内に、静けさを切り裂くようなキーボードの
画面をじっと
「やっと見つけた」
声には達成感と安堵がにじみ出ていた。長時間の作業から解放された男はキーボードから両手を離し、背もたれへ体を預ける。
椅子がきしむ音とともに、男は頭を後ろに倒しながら息をついた。
「あー、ずいぶん時間がかかった。エナドリともやっとおさらばだぁ」
デスクの横に置かれたゴミ箱には、エナジードリンクの空き缶が何本も投げ込まれていた。栄養食のビスケットの空箱もいくつかまざっており、しばらくの間、男が食事をないがしろにして作業に没頭していたことを物語っていた。
すると隣の部屋へつながる扉が開いて、細身の青年が顔を出した。
「何をぶつぶつつぶやいてるの?」
男は目だけでそちらを見ると、にこりと笑ってみせた。
「見つかったんだよ、ほら」
青年がはっと息を呑み、男のデスクへ駆け寄る。モニターに映っている文字列に目を走らせ、安堵の吐息をついた。
「よかった、無事だったんだ……」
「ああ、他の二人も一緒だよ。そうだ、今までどこにいたのか調べてみないと」
男は姿勢を戻して椅子に座り直し、またキーボードをたたき始めた。
「えーと……何だ、これ。蛹ヶ丘?」
「どういう世界だったの?」
「うーん……かいつまんで解読するに、魔法の使える世界だったみたいだね」
青年は少し苦い顔をする。
「それ、もしかして引き継いでる?」
「引き継いではないけど、痕跡はあるな。西園寺は魔法が使えたようだし、三人とも武器を持ってたみたいだ。えーと、響は剣で日南はナイフ、西園寺は日本刀だってさ」
「……」
「どうやら、とんでもない世界を経由して来ちゃったらしい」
「……はあ。まあ、いいや」
青年は呆れた顔をしてデスクから離れ、壁際のソファへ寝転んだ。
「で、姉さんたちが今いるのはどこ?」
男は再び画面へ目を向け、いくつか操作をしながら答えを返す。
「うーん、特に名前はついてなさそうだけど……あっ、この位置だと、近くにゴミ箱があったような」
「物語の?」
青年が横目にたずねると男はうなずいた。
「うん、そう。たしか、前にもらったリストに載ってたはず」
と、デスクの端に積まれた書類をかき分け、一枚の紙を取り出した。
「えーと、やっぱりあった。90.2の57.0から63.9まで、物語のゴミ箱の十四番になってる。規模はそんなに大きくないし、ここならいけるんじゃないかな?」
言いながら男は青年の方を見た。
青年は少しの間、コンクリートの天井をじっと見つめてから返した。
「また『幕引き人』が来ないかな?」
不安と心配の入りまじった声だった。
「それは分からないけど……心配なら、先にあっちに連絡を」
と、男がメッセージアプリを開こうとして、青年の声にさえぎられる。
「いや、いい。それよりも、まずは姉さんだ。コンタクトが取れないか、やってみよう」
そう言って青年は深く息を吐き、両目を閉じた。
「そうだね」
と、男は静かに返して画面へ顔を向け、導くように告げた。
「90.1、55.7、2023.8。移動中だ」
室内に静寂が訪れる中、表示された文字列に更新がかかり、新たな一行が追加された。