「なあ、なあ、教えてくれよ。魔性の男って、マジでいるのか? 無自覚な小悪魔とか、計算ずくの人たらしとか、歩くだけでフェロモン撒き散らす危険な色気の持ち主とか……。少女漫画やBLの世界だけの夢物語じゃないのか?」
ハッ! いい質問だ、ブラザー&シスター! 答えは火を見るより明らか。……YESだ! もちろんYES! 当たり前に、YESだッ! しかも、そんなヤバい男たちは令和に始まった話じゃねえ。1300年以上も前から、この日本に脈々と、いや、ヌメヌメと息づいてきた存在なんだ!
「証拠はどこにあるんだ!」って? おいおい、焦るなよ。その証拠が、俺たちの祖先が遺してくれた超一級の感情アーカイブ……そう、万葉集に刻まれてるんだからな!
古文の授業で習った、なんか眠たい和歌集? ンなもんじゃねえ! 万葉集とは、愛憎、嫉妬、歓喜、絶望、そして理屈じゃ説明できねえ“沼”の感情が渦巻く、日本最古にして最強の“エモ”のビックバンなんだよ!
さあ、今回は俺が時空を超えた招待状をくれてやる。古代の“沼”へようこそ。俺と一緒に、罪深き男の香りを追って、千三百年前にダイブしようぜ!
◆宴の後の静寂に、アイツを想う…家持、お前、まさか…
今回、俺たちの魂を揺さぶるキーカードとなる歌はこれだ。
今朝の朝明 秋風寒し 遠つ人 雁が来鳴かむ 時近みかも
けさのあさけ あきかぜさむし とほつひと かりがきなかむ ときちかみかも
【超カンタン現代語訳】
「今朝の明け方、秋風がやけに肌寒いな…。ああ、都にいるあの人が恋しい。雁が渡ってきて鳴く季節が、もうすぐそこまで来ているからだろうか…」
詠み人は、奈良時代のスーパーエリート歌人、大伴家持(おおとものやかもち)。感受性のアンテナがビンビンに立った、繊細でプライドの高いナイスガイだ。彼はこの時、越中国(今の富山県高岡市)に国守として赴任していた。いわば、都から遠く離れた地での単身赴任中だな。
教科書的な解釈はこうだ。「ああ、都にいる妻や恋人を思い出して、寂しい気持ちを詠んだんですね、ワビサビですね」……。
待て待て待てェェェェイ!
そんな生ぬるい解釈で、この歌に込められた“激情”のマグマを見過ごすつもりか!? 俺には見える! 俺にはわかる! この歌の行間に滲む、より生々しく、より抗いがたく、よりヤバい感情のうねりが!
いいか、この歌が詠まれたシチュエーションは「宴席」。昨夜はドンチャン騒ぎだったわけだ。酒を酌み交わし、歌い、笑い、熱気に満ちた夜があった。明けて今、すべてが終わった静寂の中、一人。部屋に差し込む冷たい光、火照った体にまとわりつくひんやりとした秋風……。この、祭りの後の強烈な孤独感、わかるか? 全身の毛穴が開いて心が丸裸にされるこの瞬間、よぎる“誰か”の面影。それが、本当に「妻」や「恋人」といった穏当な存在だけだったのか?
俺は、断固として「NO!」を突きつけたい。この歌の主役は、「遠つ人(とほつひと)」という謎めいたキーワードに隠された、“魔性の男”に他ならないッ!
◆お前が思う「遠つ人」は誰だ!? 古代BL男子三銃士!
家持が、このどうしようもない寂しさの中で焦がれた「遠つ人」。俺の脳内では、そいつがとんでもない“魔性の男”に変換されるんだ。一体、どんなヤツだったのか? 想像力(創造力)のエンジン全開で、3つの可能性をブチ上げてやるぜ! お前らの“推し”はどのタイプだ!?
【魔性タイプ①】無自覚たらしな太陽系プリンス
都での同僚だった、キラッキラの笑顔が眩しい若手貴族。家柄も良く、誰にでも分け隔てなく優しい。そのフレンドリーさは時に距離感のバグを生み、家持の隣に座っては「家持さんの詠む歌、俺、大好きなんですよ」なんて、無邪気に肩へ頭をコテンと乗せてきたりする。本人に悪気はゼロ。太陽が万物を照らすように、ただそこにいるだけで周囲を魅了する。だが、エリートゆえの孤独を抱える家持にとって、その無防備な好意は心の隙間に差し込む劇薬だった。「あいつは、俺にだけ特別なんじゃないか…?」そんな勘違いという名の“沼”に、ズブズブと沈んでいく…。宴の後の静寂は、あの太陽のような笑顔がない世界。秋風は、アイツの温もりを知ってしまった肌にあまりに冷たい。嗚呼、無自覚って罪!
【魔性タイプ②】計算ずくの野心家スネーク
家持の才能と、大伴家という名門のブランドに目をつけて近づいてきた頭脳明晰な策士。低い声で「君の力が必要だ、家持」「この国を変えるのは、俺と君だ」と囁き、家持の自尊心を巧みにくすぐる。宴席ではわざと二人きりになる時間を作り、熱い視線で家持の瞳を射抜く。その瞳の奥には、出世への野望という冷たい炎が燃えていることを、家持は薄々気づいている。気づいているのに、そのスリリングな関係から抜け出せない。「俺は利用されているだけか? いや、でも、あの夜見せた寂しげな横顔は本物だったはずだ…!」政治的な駆け引きと、男同士の濃密な時間が交錯する。越中に飛ばされたのは、都の政争に敗れた結果かもしれない。だからこそ、遠い都で暗躍する“アイツ”の影が、秋風と共にチリチリと胸を焦がす。計算高い人たらし、最高にセクシーだろ?
【魔性タイプ③】沈黙の危険な色気系バッドボーイ
口数が少なく、何を考えているのかわからないミステリアスな男。家持とは正反対の、影を背負った一匹狼タイプ。宴の席でも輪から外れ、一人で月を見ながら酒を飲んでいるようなヤツだ。しかし、ふとした瞬間に見せる憂いを帯びた表情や、武人ならではの鍛え抜かれた肉体、美しい指先……その一つ一つが、家持の創作意欲と独占欲を猛烈に刺激する。「あいつの心の中を、俺だけが知りたい」「あいつのあの影を、俺の言葉で照らしてやりたい」。ほとんど言葉を交わしたことがないのに、視線だけで魂を鷲掴みにされた。昨夜の宴席でも、遠くから目が合っただけ。それだけなのに、脳裏に焼き付いて離れない。この秋風の冷たさは、あの男が放つ孤独の匂いそのもの。近寄れば斬られそうな、危険な色気。わかるだろ? この抗えない引力が!
さあ、どうだ? 家持が早朝の寒さの中、身悶えしながら想っていた「遠つ人」がこんな男たちだったら? この歌は、ただの望郷の歌から、一気に業が深く、エモーショナルなラブソングへと変貌するじゃないか!
◆“沼”の正体は、時を超えた人間の「業」
「今朝の朝明 秋風寒し」――このフレーズは、単なる気候報告じゃない。昨夜の宴の熱狂との落差、そして隣に“アイツ”がいない現実を突きつけられた、魂の寒さのメタファーなんだよ! 酒の酔いが醒めていく過程で、楽しかった記憶だけが鮮明になり、同時に不在の事実が鋭く胸を抉る。この感覚、経験したことあるヤツ、いるんじゃねえか?
いよいよクライマックス、「雁が来鳴かむ 時近みかも」だ。雁は、秋の訪れを告げる渡り鳥。古くは、遠く離れた人へ手紙を運ぶ使者というイメージもあった(「雁書(がんしょ)」って言葉があるくらいだ)。
このフレーズには、二重、三重の激エモな意味が隠されている。
一つは、「ああ、雁が鳴く季節になった。つまり、秋が深まり、人恋しさが募る季節がやってきちまったな…」という嘆き。
もう一つは、「雁がやってくる。もしかしたら、アイツからの便りを運んできてくれるんじゃないか…?」という、切ない期待。
さらに、俺がブチ上げたい妄想MAXな解釈がこれだ!
「雁が渡ってくる季節……それは、“アイツ”が何らかの理由で、この越中にやってくる時が近いというサインなのかもしれない…!」
都での約束か? それとも、ただの願望か? 期待と不安がごちゃ混ぜになった、ほとんど祈りに近い心の叫び! 家持ほどの男が、一人の男(=遠つ人)のせいで、渡り鳥の声にすら一喜一憂しているんだぜ? これを“沼”と言わずして何と言う! これが、男を狂わせる“魔性の男”の引力じゃなくて何なんだ!
そう、無自覚だろうが計算だろうが危険な色気だろうが、「魔性の男」ってのは、相手の心に“自分だけの特別な物語”を勝手に紡がせる天才なんだ。視線一つ、言葉一つ、沈黙一つで、相手の想像力をハッキングし、感情を支配する。家持は、偉大な歌人であると同時に、俺たちと同じ、一人の恋する(あるいは囚われた)人間だった。彼の繊細すぎる心が、「遠つ人」という名の魔性によって激しく揺さぶられ、その魂の律動が、千三百年もの時を超えてこの一首の歌になったんだ。
どうだ? 万葉集の見方が、少しは変わったか?
「魔性の男、そんなBL男子っているの?」――その答えは、大声でこうだ。
「いる。しかも、千三百年も前から、俺たちの心をかき乱し、最高の物語を紡ぐ“種”であり続けてきたんだ!」
万葉集には、まだまだヤバい関係性を匂わせる歌がゴロゴロ転がってる。父と子、兄と弟、主君と家臣、そして名もなき防人たちの間で交わされた、汗と涙と――もしかしたらそれ以上の何かが滲む言葉たちがな…。
その扉を開ける鍵は、お前の“想像力”と“妄想力”だけだ。
古の歌に、お前だけの“推し”を見つけてみないか? それは、歴史の教科書を最高のエンターテインメントに変える、最強の“推し活”になるかもしれねえぜ?
次の歌ではどんなヤバい男が待っているか……おっと、もう興味が湧いてきた顔してるぜ?
また、この時空を超えた“沼”のほとりで会おう! アディオス!