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第71話 レイド 魔物襲来①

預金残高を確認した。


三体の魔族を倒した事によって振り込まれた報酬額と預金残高の合計から、地売屋から購入した土地代金などを差し引いても、余裕で十億ゴールド以上あった。


う~ん、金持ちだ。


ギルド職員に聞いてみると、平均的なスレイヤーの年収は3000万くらいらしい。ランクAで一億前後。


魔族の討伐は通常何人ものスレイヤーで挑み、その討伐報酬は分配されることになる。ランクSでもそれは同じで、ひとりで戦う奴など、まずいない。


認定証は魔族や魔物と遭遇した時点で、相手の魔力やスレイヤーの物理的なものを含む攻撃を察知して、その行為を記録する。


支援や回復魔法などについての貢献は認定証では判別がつかないため、討伐完了後にパーティーリーダーが精査して申告する仕組みになっている。


どんなに優れたシステムでも穴はある。そこを埋めるのが人の力というのは、どの世界でも同じのようだ。


普通に生活していたら、経済面で困ることはなさそうだ。預金残高を見ても、そんな感想しかなかった。異世界に来たからかはわからないが、あまりお金に執着を感じる気持ちがない。


必要な時に使えるお金があるというのは重要なことだ。昨日の地売屋の件みたいな時に役立つしな。


ただ、そんなことを思うだけだった。




午前中にパティ、シス、テス、バーネットの修練につきあう。


今日はフェリもリルも学院に行っているため、連携の確認をメインとした模擬戦を行った。


「昨日の修練の成果だな。連携がスムーズになっている。それにシスとテスの動きにも無駄がなくなって、全体的なレベルの底上げができているな。」


「リルさんとフェリさんに手解きを受けたら、効率的に魔法が使えるようになったんです。」


「私も魔力を強化する独自の訓練方法を教わりました。もっと貢献できるようにがんばります。」


成果を伝えると、シスとテスからは明るい返答がきた。パティやバーネットも手応えを感じているようで、連携の修正点などを話している。


四人がチームとして強くなれば、その分だけ俺が自由に動ける。成り行きでできたようなパーティーだが、フェリとリルが不在の平日でも巡回などをこなすのに問題はなさそうだ。




ダルメシアンとの約束があったので、修練を抜けてカフェに向かった。こちらの件は形になるまで少し時間と手間がかかりそうなので、できるだけ話を詰めておきたい。


「ギルマス補佐様、おはようございます。」


ダルメシアンはすでに来ていた。


「おはよう。タイガで良いよ。堅苦しいのは苦手だから。」


「ではタイガさん、昨日の件について詳しい話を聞かせてくれ。」


「それじゃあ、ちょっと移動しようか?」


俺はダルメシアンを連れて、昨日に購入した店舗に向かうことにした。


「えっ、ここを使っても良いのかい?」


ダルメシアンはギルド近くの店舗を見て驚いていた。


「ああ。昨日に買って、権利も俺に移っている。スケルトンだから内装を仕上げる必要はあるが、話を詰めれば三ヶ月以内には開業ができるだろう。」


「・・・すげえな。」


広さはおよそ三十坪だから、日本式に言うと六十帖くらいだ。


「あと、雛型として店内の配置図を作った。動きやすいかどうか見てくれ。」


製図に近いものを昨夜に作成した。


前もって店舗内の内寸を計って100分の1に縮小して仕上げてある。方眼紙がアッシュの執務室にあったので、それを利用することで作業は短時間でできたのだ。


スレイヤーギルドになぜ方眼紙があったのかと言うと、レイドで多数のスレイヤーが投入された場合のキャンプ地の配置図や、都市防衛時の防護隊列の編成に使用するかららしい。同じように100分の1の縮図で鳥瞰図のようなものを作り、任務の作戦会議や設営時の効率化をはかっているらしい。ちなみに、この世界での測量単位はミリやセンチメートルなので違和感がない。


ん?


ご都合主義だと?


細かいことを気にしていたら頭髪が抜けていくぞ。


「良くできているな。タイガさんは本当にスレイヤーかい?設計士みたいだ。」


「少しかじったことがあるだけだ。大まかな雛型ができたら本職に依頼して、工事をさせるから検討してみてくれ。」


俺が作った図面では、オープンキッチンにしてその前にカウンター席を設置している。それ以外に個室が二つとテーブル席が配置されているので、全部で60席前後の収容計画となる。


「この規模なら、人も何人か雇う必要があるな。」


「そのあたりは任せる。開業するまでは最低限の給与と経費は出すから頼む。」


「ああ。あんたはギルドの仕事もあるもんな。これは気合いを入れて取り組まないと。」


ダルメシアンはやる気十分のようだ。


「内装に関しては時間があれば手伝うよ。そういう作業は好きだからな。」


手先は器用だ。


鉄パイプと廃材でお手製の銃を作ったり、木でバリケードを作ったりする技術を持っているからだ。


「わかった。同時進行で、メニューも考えてみるよ。仕入れ先には心当たりがあるから、調達できる食材のリストアップをしてからだげどな。」


現段階で可能な限りの打ち合わせを行ってから、ダルメシアンと別れた。


時間が経つのが早い。


もう夕暮れ時だった。



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