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第72話 レイド 魔物襲来②

早朝。


寝ていた俺は、人の気配を感じて目を覚ました。殺気や邪気ではない。近くで人の寝息と、甘い香りがしたのだ。


横に温もりを感じてそちらに視線を移すと、誰かが寄り添って寝ていた。


「・・・うそぉ。」


あわてて昨夜の記憶を探るが、間違いなくひとりで就寝したはずた。


薄暗い中でじっと目を凝らすと、それが誰なのかに気がついた。


顔は見えないが、寝ていてもボリュームのある胸、女豹のようにしなやかな手足に見覚えがある。


「ニーナか?」


「う・・・ん~。」


名前を呼んで反応したが、そのまま俺の腕を抱き込んで再び寝息を立てた。


柔らかい・・・おぉ・・・この感触は・・・はっ!?


トリップしそうになった意識を無理やり引き戻して、ニーナを起こすことにした。


残念だが・・・本当に・・・残念だが・・・


「ニーナ、起きて。」


肩を揺らすと眠そうな目を擦りながら、何とか起きてくれた。


「ん、タイガ・・・おはよう。」


「おはよう。何でここにいるんだ?」


「朝方に蒼龍とバスタードソードの調整が終わったから持ってきたのよ。」


「もしかして徹夜?」


「それに近いかな。早くタイガに渡してあげたくて・・・ふぁぁ・・・」


口許を押さえてアクビをするニーナは、いつものクールな感じとは真逆で新鮮だ。刀の話をする時のギャップも激しいが。


「どうやって入ったの?」


「玄関から~。」


いや、それはわかっている。


「鍵は?」


「私は鍛治士よ。」


それも知っている・・・


「解錠くらいすぐにできる。」


いや、あのね・・・


「ついでに合鍵もつくっちゃったぁ~。」


クスクス笑いながら話すニーナ。


「それは・・・ダメだよな・・・」


「えぇ~、ダメなの?」


逆に何で良いんだ?


「私とタイガの仲だし、良いでしょ。」


「俺にもプライベートというものがあるぞ。」


「彼女いてるの?」


「いや、いない。」


「じゃあ、大丈夫よ。」


どういう理屈だろうか。


「・・・一緒のベッドに何で寝てたの?」


「寝不足だから仕方ないよね。」


「襲われたらどうするんだ?」


「タイガに?大丈夫よ。信用してるから・・・あ、でもタイガなら良いよ。」


いたずらっ子のように笑うニーナ。たぶん、からかっているんだろう。


真面目に相手しても仕方がないので、起き上がってバスタードソードを手にした。


「柄の部分の調整は完璧だな。鍔のバランスも良い感じだ。さすが。」


注文通りに柄は俺の手に馴染むように調整されていた。革が巻いてあるのでしっくりと掌に馴染む。鍔は小さくまとめられており、重量バランスも安定していた。


「結構がんばったんだから。それより、タイガって着痩せするのね。すごい体。」


俺は上半身に何も着ていなかった。寝るときはシーツの感触を楽しみたい派なのだ。


「ああ、ごめん。すぐに何か着るよ。」


俺はあわててシャツを羽織った。


「そのままでも良いのに。目の保養になるし。」


ニーナは楽しそうに笑っていた。


社交辞令はいいって。




ニーナと一緒に朝食を取った後にギルドに向かった。


「これ、プレゼント。」


別れ際にそう言ってニーナがくれたのは、帯剣ベルトだった。


「蒼龍とバスタードソードを同時に装備するのにはいろんな方法があると思うけど、その帯剣ベルトなら馬に乗る時でも問題はないはずよ。」


たすき掛けにして、背中に剣を装着するのは持っているものと同じだ。違いは両剣が平行に同じ向きに吊るすようになっていること。2本とも右肩の方に柄があり、左の腰の方に剣先が伸びている。このタイプなら乗馬時に邪魔にはならないし、それぞれを左右のどちらの手でも抜くことが可能だ。防具屋にはなかったので、ニーナの心遣いがありがたかった。


「ありがとう。大事に使わせてもらうよ。」


「うん。そのかわり、どんなに強い敵が相手でも必ず倒してね。」


その言葉でフラグが立ったかのように、この後に激しい戦いが巻き起こるとは、知るよしもなかった。




「タイガ!大変だよ!!」


ギルドに到着するなり、パティから緊張を帯びた声がかけられた。


「どうした?」


「前に巡回に行った付近に、大量の魔物が発生したみたい!」


先日の魔族とオークが出没した地域だ。


「被害は?」


「今はまだ大丈夫みたい。でも近くの村に住む猟師が、100体近くのオークが山間部を歩いているのを見たって。」


すぐにギルドホールに向かうと、職員に声をかけられた。


「ギルマス補佐!すぐに出発は可能ですか?」


「ああ。オークが大量発生したって?」


「はい。たった今、巡回に出ていたパーティーからも連絡がありました。オークの出没地点に近づくと、報告以上の数を確認したと。」


「何体くらいだ?」


「300体以上はいると···。」


「わかった。俺達はすぐに出発する。現場にいるパーティーには、交戦はせずに監視役を2名残して近くの村で待機。魔物が村に近づくようなら、住人の避難を優先するように伝えてくれ。」


「わかりました。数が数ですので、レイドを発令します。増援可能なパーティーに参加を募り、順次現地に向かってもらいます。」


レイドとは強力な魔族、魔物と対峙する時に発令される全体への召集任務だ。


「頼む。何かの陽動の可能性もある。アッシュに相談して、戦力を割きすぎないようにな。」


俺はパティ、バーネット、シス、テスの4人と、馬を借りてすぐに出発した。




「オーク300体なんて、ありえるのか?」


「普通なら考えられないよ!出ても十数体がいいとこなのに。」


バーネットの質問に、パティが答える。


先日討伐した魔族たちに関連している可能性があった。何らかの罠かも知れない。


「オーク300体···対応できるかな?」


シスが不安そうに聞いてきた。


「大丈夫よシス。修練でやった連携どおりにやれば、あとはタイガさんが壊滅してくれるわ。」


「はは。その通りだね。」


「やっぱり、タイガはめちゃくちゃ強いんだな。戦いっぷりを直に見れるのが楽しみだぜ。」


シス以外の3人よ。


俺はまだケガが完治していないぞ。


忘れていないか?


「そ···そうですよね。タイガさんなら、オークの1000や2000くらい。」


いや、シスよ。


そんな数はさすがに相手したくないぞ。


街を離れ、俺たちはそんなことを馬上で話す余裕もなくなり、全速力で目的地に向かった。













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