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第73話 レイド 魔物襲来③

ノンストップで駆け抜けたおかげで、目的地である村には魔物の驚異が迫る前に着くことができた。


馬から降りて手綱を引きながら村に入る。すぐに厩舎が見えてきたので、そちらに向かうと声をかけられた。


「ギルマス補佐じゃないですか!」


ん?


「あなたが来てくれたんですね?」


えっと、誰だっけ?


「あ、え~と・・・」


精悍な顔をした、長身で屈強な体の若いイケメンが話しかけてくるが誰だかわかない。


「タイガ、ランクAのスレイドだよ。」


パティが紹介してくれた。


「ああ、スレイヤーなのか。初めて見た顔だから、誰だかわからなかった。」


ガーン!とショックを受けた顔をするスレイド。いや、知らんし。


自分で名乗らんかい。


「うちのギルドの現役スレイヤーの中では、ギルマスに次ぐ戦闘力を持っていると噂されるくらいの実力者ですよ。」


テスが解説してくれた。


「ふ~ん。」


「ふ~んって、興味ないんだね。タイガは女の子ばっかり見すぎだよ。」


なぜかパティがぷりぷり怒っている。


俺、何かしたか?


ってか、女の子ばっかり見てる訳じゃないぞ。


興味がないのはその通りだけど。


「い、いや・・・ギルマス補佐の強さと比べたら、俺なんかまだまだですから。知られてなくても仕方ないですよ。」


苦笑いしてるぞ。


顔がひきつってるし。


「ギルマスに次ぐ実力者っていうと、素手で魔族を倒せるのか?」


バーネットがトドメのような一言を放った。


「す、素手で・・・い、いやいや、無理ですよ!そんなの人間じゃ・・・あ・・・」


「そうそう。素手で倒すような滅茶苦茶なのはタイガくらいだよ。」


滅茶苦茶は余計だぞ、パティ。


あと、ふたりとも会話にディスりを入れるのはやめてくれないか?


「俺はギルマスとギルマス補佐に憧れているんですよ。あの無類の強さに。」


「悪いが、そんなことを話してる暇はないだろう。すぐに監視役の所に案内してくれないか。」


「あ、はい。今すぐご案内します!」


悪いなスレイド。


俺は爽やか系イケメンには、コンプレックスを感じるから冷たいのだ。同じイケメンでも、アッシュは腹黒いからツッコミを入れて楽しめるが、お前はノリが悪い。


「スレイドのパーティーの前衛は?」


「監視役の中に一名、それに俺とここにいるセティです。」


セティは気の強そうな感じだが、キレイな女の子だった。


よし、許そう。


「スレイドとセティは俺と一緒だ。残りのメンバーは、この村に残って万一に備えて欲しい。」


「「「「了解!」」」」


俺たちは、すぐにオークが集結している場所に向かった。


「方角はここから直線上か?」


監視役のスレイヤーがいる方向を、スレイドに聞いた。


「はい。8キロくらい先です。」


「わかった。全力で行くぞ。」


そう言うなり、俺は全速力で駆けた。


「え、速っ!?」


「うそっ、ついて行けないっ!」


スレイヤーは、知らない者であっても仲間だ。そんな者たちの誰にも、命を落として欲しくはなかった。スレイドとセティが遅れているのには気づいていたが、監視役として二人を残らせるように言ったのは俺だ。窮地に陥らないうちにたどり着きたかった。


急斜面や岩場を無視して走る。


15分もしないうちに、邪気の集合体にソート・ジャッジメントが反応した。北に向かっていたが、標的であるオークたちが進路を北北西に向けて動いているのがわかった。


俺は方向を修正してスピードを上げた。斜面を下る勢いに乗り、さらに加速する。




「だめだ。このままじゃ追いつかれる!」


「こんなとこで死にたくないよぅ。」


監視役で残ったケイガンとミシェルは、必死になって走っていた。


100体と報告をされていたオークは、今や300体をこえてさらに増えている。間違いなく、なぶり殺しにされてしまうだろう。だが、村のある方向に逃げれば、犠牲者はさらに増えてしまう。何とか時間を稼いで増援を待ちたかった。


「はぁはぁ・・・もう、だめ・・・だよ。」


ミシェルは魔法士だ。


パーティーの中でも体力は一番低い。監視役として残ったのは、パーティーの中で最も攻撃力の高い魔法が使えるからだが、その選択が仇となった。


オークたちが進行を開始したら、強力な魔法を撃ち込んで足留めするつもりだったが、知らない間に後ろから回り込まれて攻撃されそうになった。ケイガンが何とか応戦して難を逃れたが、他のオークたちに存在がばれてしまい、この結果を生んでしまった。


スレイド、早く戻ってきてくれ。


ミシェルを庇いながら、そう心の中で思うケイガンも、数十メートル後方に迫ったオークの大群に自分の死を悟っていた。





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