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第74話 レイド 魔物襲来④

見えた。


俺は斜面を高速で下りながら、山の谷間にいるオークの大群を視界に捉えた。


300体どころじゃない。


500近いんじゃないか?


時間を経る度に増え続けるオークたちを見て、やはり何かの罠の可能性が頭をよぎる。


大群の先方には、ふたりの人間が必死で逃げているのが見えた。監視役のスレイヤーだろう。


これはさっさと終わらせるべきだな。


右手を肩の方に回し、バスタードソードの柄を握る。多勢が相手だと、蒼龍よりも刃こぼれを気にする必要がないこちらの一択だ。


山の起伏や隊列を考えると、風撃無双はあまり効果がない。障害物が多すぎるのだ。


仕方がない。


近接戦上等だ!


傷は痛まない。


突っ張る感じもない。


よし、全開で行くかぁ~。


斜面を駆け下りながら、近くの木を斬る。


シュバッ!


小気味の良い音が鳴り、両断。


ニーナ、グッジョブだ。


バスタードソードも研ぎで鋭さが増し、柄のグリップも最高になじむ。


そのまま両断した木に後ろ回し蹴りを放ち、大群の先頭に弾き飛ばす。


勢いは緩めずに、オークどもの隊列に突っ込む。


前方に飛んでいく木に意識を持っていかれたオークを二体をまとめて叩き斬る!


その反動を利用しながら、周りの無防備な首をはねる、はねる、はねる!!


飛んでいった木が、先頭にいたオークたち数体を巻き込む時には十数体を無力化。


手を休めずにバスタードソードを振り回す。


斬!


斬!!


斬!!!


蒼龍とは違う斬れ味の感触をおぼえながらも、敵が攻撃体制をとる前に鎧ごと、剣ごと両断していく。


高速で移動しながら敵を滅し、大群の外形を削いでいく。


何も考えない。


目で捉えたものに体が反応し、ただ斬撃だけを繰り返す。


スポーツならゾーン、格闘技ならトランスモードに入ったとでも言うべきか。


相手の動きがスローモーションに感じ、斬線が瞬時に浮かぶ。


無音になったかのような状態で、ただ反射のように攻撃をする。


不意打ちからの圧倒的な連撃。


仲間が瞬殺され、目に見えて激減していく状況に、オーク達は恐怖という感情に支配される。


監視役のふたりは夢か現実かわからない状態に、ただ目の前のバーサーカーじみた男が敵を滅殺していく様子だけを、残影のように知覚する。


オークたちの阿鼻叫喚の地獄絵図。


そんな残酷な風景の中にいて、なぜかその男は返り血をほとんど浴びず、風のような舞いで斬撃を放ち続けていた。


黒い疾風。


そんな形容がしっくりくるような存在。


「・・・ギルマス補佐。」


やがてミシェルがその存在の正体に気づき、つぶやいた。


「えっ、あっ!ギルマス補佐。」


ミシェルの声を聞き、ケイガンもようやく我を取り戻した。




「すごい・・・」


セティが思わずつぶやいた。


遅れていたスレイドとセティが現場に駆けつけた時には、すでに戦いが始まっていた。


オークたちの大群は報告よりもさらに増えていたが、今やその数は4分の1程度が無力化され、戦意を喪失させた者たちは逃げ惑うように散ろうとしていた。


「セティ、隊列のど真ん中に魔法を放つんだ!俺は最後尾から攻撃する。」


「わかったわ!」


500体規模の隊列のため、最後尾は100メートル程後方になる。スレイドはすぐに行動をおこし、斜面を横に縫うように走った。


セティはその場から炎撃を放ち、隊列の真ん中に直撃させる。


そこはタイガの攻撃によって逃げ惑うが、数が多すぎて互いの存在が障壁となってしまい、身動きがとれなくなったオークたちで溢れかえる状態になっていた。


最も密度が高くなった場所への炎撃は、数十体を巻き込み無力化する。


隊列の前方にいたケイガンとミシェルも戦意を取り戻して魔法を放ち出す。


ミシェルの氷撃が100以上の氷柱を生み出し、オークたちを串刺しにしていった。


ケイガンは風撃により、ミシェルの氷撃をサポート。氷柱で撃ち損じた個体にダメージを与えていく。


タイガの疾風のような剣撃に加え、三ヶ所からの魔法攻撃がオークたちの隊列を包囲し、みるみるうちにその数を減らした。


倒れていくオークたちが邪魔となり、さらに身動きがとれなくなった大群は15分と経たないうちに、ほぼ壊滅状態となっていったのだ。




「ギルマス補佐、助かりました。」


九死に一生を得たケイガンは、タイガに駆け寄り礼を言う。一緒に頭を下げるミシェルの目は、熱っぽい視線を帯びてタイガをじっと見つめている。


素敵・・・


そんな心の内が表情に出ているかのような状態で、形容するなら目がハート状態となっていた。


「無事で良かった。戦いのすぐ後で申し訳ないが、オークたちを魔法で焼滅させてくれないか。」


「わかりました!私がやります!!」


ミシェルが勢い良く答えた。


タイガに自分の魔法の実力を知ってもらいたかったのだ。この恐ろしく強いギルマス補佐に、自分が守られるだけの存在ではないと。




長めの詠唱をつぶやくミシェルに、タイガ以外の三人が気づいた。


「えっ、その詠唱って・・・」


「嘘だろ・・・」


「ちょっ、ミシェル!それって強すぎ・・・」


「メテオライト・ドライブ!」


ミシェルが掲げた手からは巨大な氷の隕石が出現し、オーク達が重なる場所へ一直線に加速していく。


ドッガーン!


その威力は凄まじく、地面は広範囲に削られ、爆風で木々がなぎ倒されていった。地響きと自然破壊の様を展開されたと言っていい。




魔法の発動が終わると、山の谷間だった空間はさらに広がり、別の景色へと変貌を遂げていた。


その様子を見て、タイガは内心で思っていた。


スレイヤーには、バカが多いのかと。












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