オークたちが殲滅された場所のはるか上空に、四体の魔族がいた。
聖属性魔法士がスレイヤーに同行している可能性を考えて、かなりの距離を取っている。存在を察知されるのを警戒しているのだ。
「奴がそうか?」
「おそらくな。近接戦闘だけで、あれだけの数のオークたちに恐怖を与えて殲滅に導いた。ほぼ間違いないだろう。」
「あれがギルマスなのか?」
「わからん。さすがにここからでは、髪の色までは判別できん。」
「まあな。気配だけで状況を察知してる弊害だ。仕方ない。」
「だが、厄介なのはギルマスだけだと聞いているぞ。あれだけ強力な奴がそうそういてたまるかよ。」
「で、どうする?」
「この1週間で、我らの同朋が五人も命を奪われておるのだぞ。これは由々しき事態だ。」
「だから今殺るのかと聞いている。」
「南方の村に人が集結している。おそらく奴等の仲間だろう。一緒に滅してやれば良い。」
「そうだな。我ら四人であれば、殲滅するのは難しいものではないだろう。」
「近接戦には持ち込まれるな。物理攻撃での戦いは厄介だ。」
「相手の得意な分野で戦うなど、バカがやることだ。距離を置いて魔法で塵にしてやればいい。」
「愚問だったな。」
「おお。都合良く村の方に移動を始めたようだ。」
「では我々もゆっくりと向うとしよう。揃ったところで一網打尽にするのも一興よ。」
この時点で魔族たちは知らなかった。
相手が既にこの四体の存在に気づいていることに。
そして、魔法がまったく通用しない相手だということも。
ソート・ジャッジメントが反応した。
上空に四体の強い邪気。
こちらをうかがっているのか、気になる動きはない。奴等の存在に気づいていることを、悟られないように視線は向けなかった。
「村に戻ろう。」
他の四人に声をかけて、来た道を引き返す。
ミシェルが異様に元気の良い返事をしてきたが、自分がやり過ぎたことをわかっていないようだ。そもそも焼けといったのに属性が違う魔法を放つなんて、頭のネジがはずれているのだろう。
うん、あまり関わらないようにしよう。面倒くさそうだ。
上空の魔族四体がこちらの動きについて来ている。
そう感じながら村に向けて疾走するタイガは、斜面を登る際にさりげなく手頃な石を二つ拾い上げて両手に持っていた。
すぐ後ろを必死に追いすがる四人に向けて言葉を放つ。
「視線をそのままにして聞いてくれ。かなり離れた上空から、魔族が追って来ている。」
「「「「えっ!」」」」
マジかよって顔をする四人だが、言われた通りに視線は前を向けたままだ。
「少し手前で俺だけが残る。みんなは村まで行って、待機している者たちに知らせるんだ。」
「援軍を呼ぶんですね?」
「違う。村にいるスレイヤー全員で障壁を張れ。村人たちを守るんだ。」
絶句する四人。
「奴等の魔法は俺では防ぎきれない。攻撃は俺がするから頼む。」
「そんな、私も残ります!」
ミシェルが叫ぶように声を出す。
「悪いが、足手まといだ。」
わざと冷たく言い放った。
「!?」
ミシェルの表情が一瞬にして強ばったが、セティの言葉がフォローとなった。
「ミシェル、気持ちはわかるけど、私たちでは魔族には敵わない。できることをしっかりとこなしましょう。」
周りが見えていないミシェルよりも、セティは大人びて見えた。
胸の大きさと比例しているとこっそり思ったが、もちろん口に出しては言わない。なぜなら、セクハラだからだ。まだまだ女子には嫌われたくないお年頃だしぃ~。
「うん、わかった!」
おお、立ち直り早っ!?
上空から追ってきていた魔族たちは高度を下げ、気配ではなく目視による追跡を行っていた。
眼下のスレイヤーたちは村の手前にある枝葉が生い茂った地点に入り、上空からは姿が隠れた状態となっている。
「もうすぐ出てくるな。あそこを過ぎれば、村はもう目と鼻の先だ。」
「出てきたぞ。」
「ん?ひとり足りんぞ。」
魔族たちがそう話していると、突然豊かに生い茂った枝葉の中から、何かが高速で飛んできた。
「なっ!攻撃か!?」
魔族四体はその飛来物を避けるように旋回する。それが何なのかを確認するために、目線を逸らした瞬間。
「ふごっ!!」
もうひとつの高速飛来物が、一体の魔族の後頭部に直撃した。