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第76話 魔族無双②

俺は両手に持った石を時間差で魔族に投げつけた。


生い茂る枝葉を隠れ蓑にしたブラインドスローだが、邪気で魔族の位置は正確に把握できていた。


スレイドたちが村まで駆け抜けるまでの牽制で投じた二発のうちの一発が魔族に直撃する。


今さらだが、魔族は人間に対してかなり油断をしているのか?


それとも、ただの間抜けなのか?


簡単に罠にひっかかるところを見ると、両方なのかもしれない。バカが相手だと、こちらは楽で助かるのだが。


投石を食らった魔族が、そのまま地面まで落ちてきた。


上空に投げたので大した威力ではないだろうが、あたりどころが悪かったのかもしれない。


すぐに気配を消して、落下地点に向かった。




「ぐっ、何だ・・・何が起こった!?」


上空から落ちてきて地面に叩きつけられた魔族は頭が混乱していた。何が起こったのかを把握できず、自分がどこにいるのかもわかっていない。


後方に微かな気配を感じて振り向くと、黒いコートを羽織った人間が立っていた。


抜刀。


斬!


魔族の一体はそのまま袈裟斬りに両断された。




上空の魔族たちは、落ちた仲間の気配が消えたことに気がついた。


投石をまともに受けたのは間抜けだが、敵の計算しつくされた奇襲に驚愕する。


「おい、死んだぞっ!」


「わかっている。わめくな。」


「上空にいた我等に気づいていたとでもいうのか。小癪な人間め!」


魔族たちは怒り狂った。


自分たちよりもはるかに劣る下等生物と見なしている人間に、いいようにあしらわれたのだ。 


「出てきたぞっ!」


枝葉の繁みから出てきた人間が、中指を立てて挑発してきた。


「おのれ!目にものを見せてくれるわ!!」


三体の魔族たちは、上空からありったけの魔法を放ち出した。


たったひとりの人間に対して、過剰なまでの攻撃。


地面が爆発を起こし、炎が辺りを覆う。


木が弾け、周囲一面を爆風がなでる。


爆音と轟音が山に木霊し、地が震えた。




標的がいる場所に連続した爆裂魔法が着弾し、地面は既に原型をとどめないほどの焦土と化している。


普通に考えれば、ありえないほどの破壊。


魔族たちの怒りの強さがその攻撃に現れているかのように、集中砲火は数分間続いた。


「お、おい、あれ・・・ヤバくね?」


村にいたスレイヤーのひとりが、誰にともなしに呟いた。


レイドが発令したことにより集結したパーティーは、パティやスレイドたちを含めて7組、総勢32名。


魔物の発生個体数と、何らかの陽動ではないかという推測のもとに、緊急で手配された総数だ。到着して早々に魔物数百体はすでに殲滅され、新たに魔族が出現したと聞かされた。


こういったレイドでの召集は数ヵ月に一度の割合で発生していたが、今回のように魔物の大群の出現に続いて、魔族の存在が確認されるのは極めて稀なケースと言えた。


しかも、先行していたランクAスレイヤーの指示に従い、全体で障壁を張ると、これまでに経験したことのない爆裂がすぐ近くで巻き起こったのだ。


驚愕と恐怖がスレイヤーたちに走る。


「タイガは、あいつは大丈夫なのか!?」


バーネットがパティに向けて叫ぶ。


「・・・大丈夫・・・だと思う。」


バーネットは、タイガに魔法が通用しないことを知らない。いや、聞かされてはいるが、半信半疑だった。だが、それを知っているパティにも不安が押し寄せてきている。


これだけの爆裂魔法は、これまでに見たことがない。いくらタイガでも、あれだけの破壊力や爆風で飛ぶ木や石の破片に曝されると、無事では済まないのではないか。まして、負傷してからまだ数日しか経っていない。その思いが断ち切れなかったのだ。


「タイガさん・・・」


同じ気持ちは、シスにも大きな不安として襲っていた。


魔族の驚異的な攻撃への恐怖と、信頼するタイガへの心配が怒濤のように押し寄せてくる。タイガに魔法が効かないことは聞いている。しかし、それを実際に見たことがないシスには、この目の前の光景は衝撃的すぎた。


「大丈夫。タイガさんは無敵です。」


そんな周囲を勇気づけるように、テスがきっぱりと言い放った。


テスにも不安がない訳ではない。


しかし、彼女にはこれまでの経緯から、他の誰にもできないような戦いに身を投じ、それを打ち破ってきたタイガの姿が強い印象としてあった。彼は私たちを見捨てない。絶対に。その強い気持ちが、タイガの無事を信じていた。


「ククク・・・少し、やり過ぎたか?」


「人間たちに改めて我々の恐怖を植えつけるのには、ちょうど良かったのではないか?」


「確かにな。だが、村にいる者たちもすぐに殲滅する。証人は誰も残らんのではないか?」


「誰かひとりだけでも生かしておけばいい。我等の力を吹聴させるためにな。」


「ああ。そうだな。そうしよう。」


ようやく、魔法による攻撃を終えた魔族たちは、満足そうにそんな会話をしていた。


眼下には今も土煙が色濃く漂い、標的がいた周辺を視認することはできなかった。だが、気配を感じない。この世界では、気配をよむと言うことは魔力をよむのと同意義である。魔力のない生命体など存在しないからだ。


魔族たちは、標的であるタイガの死を信じて疑わなかった。















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