「土煙が晴れたら、降りて残りのスレイヤーたちを蹂躙してやろう。」
悠長にそんなことを話す魔族たちに、再び高速の飛来物が襲う。
「なっ!?」
連続して飛んでくる飛来物を、焦った表情で避ける魔族たち。飛んでくるのは先ほどのような石だけではない。丸太のようなものも含まれている。
直撃こそしなかったが、魔族たちに震撼が走った。
絶命したと思っていた人間が、土煙の中からそこら中に落ちている物を手当たり次第に投げてきたのだ。
「な、何なのだっ!なぜ生きているっ!!」
「奴は本当に人間なのか!」
「ありえないっ!ありえないぞ~!!」
口々に騒ぐ魔族たちは自分たちの常識が通用しない相手を初めて知覚し、パニックに陥っていた。
一方、今の光景を見た村のスレイヤーたちは、
「タイガっ!」
「やっぱり、生きていらしたわ。」
「タイガさん!」
「マジか、噂以上のバケモンかよっ!」
と、安堵と驚きの言葉を口にする同じパーティーの仲間と、
「ええ・・・ホンマもんのバケモノやん。」
「あれがギルマス補佐なのか、同じ人間なのか!?」
などと、魔族と同じ畏怖を感じる者たちに二分された。
土煙の中にいたタイガは、魔族たちが自分が死亡したと思い込み、次に村を標的にしないよう手当たり次第に物を投げていた。
さすがに何度も直撃するほど間抜けではないだろうが、足留めにはなったようだ。
体が土煙でどろどろになっている。早く終わらせて風呂に入りたい。
ダメージは一切なかった。
激しい爆裂魔法が降り注ぐ中でも、魔法が俺を傷つけることはない。ただ、爆風で吹き飛ぶ石や木片などからはダメージを受ける。
それを防ぐのは簡単なことだった。
爆風が起こる中心部に入れば良い。台風の目の中にいると考えれば、イメージしやすいだろうか?魔法も着弾点から外に向けて衝撃波を生む。それが爆風となるのだ。
さすがに正面から受けて消滅させることは、魔法の規模が大きすぎて無理だった。近くに人がいなかったのが幸いだ。
まぁ、こんな緊急避難方法を思いついたのは、ミシェルのメテオライト・ドライブを見たからということもある。おかげで負傷することもなかったし、後でほめてやろう。
蒼龍の柄に手を添える。
抜刀。
旋風斬。
剣圧で周囲の土煙を払い除ける。
旋風斬は、敵に囲まれた時に広範囲への斬撃を行う術だ。軸足を起点にして、全方位に刀を振るう。
元の世界で修得した居合術のひとつだが、まさか視界を確保するために使えるとは思わなかった。
半径約十メートルに渡って、薄くなりつつあった土煙が晴れていく。
蒼龍を鞘に納めた俺は、魔族三体に向かって手招きした。
さあ、殺り合おうか。
「人間ごときがっ!調子に乗るなぁぁーっ!!」
魔族の一体が炎撃を放った。
人間の魔法よりも見るからに強力な炎の塊が、隕石が落下するかのような勢いでタイガを直撃する──が、瞬時に消滅した。
「・・・な、なっ!」
呆気に取られる魔族に対して、にんまりと笑いながら再び中指を立てて挑発する。
ああ、良い子は真似しちゃいけないやつだ、これ。スレイヤーの中で流行ったらどうしよう。
「魔法が消滅した、だと・・・」
「まさか、魔法が効かないのか!?」
「信じられないが・・・それならば、先ほどの爆裂魔法で無傷であることもつじつまがあう。」
魔族たちは互いの顔を見合わせた。
「「「なんだとっ!!!」」」
おお、魔族たちがでかい口を開けて何か叫んでいる。
このまま逃げたりはしないよな?飛んでる奴等は捕まえられないぞ。
タイガがそんなことを考えていると、三体の魔族たちが降下を始めた。