地面に降り立った魔族たちは、いずれも青銅色の肌に赤い瞳と髪をしている。禍々しいオーラを放ち、こちらを凝視した。
「何だ?精神干渉なら効かないぞ。」
「「「!?」」」
魔族が放つオーラは、人間の魔力に干渉して精神干渉を引き起こす。こいつらは魔法が本当に効かないのかを確認するために降りてきたのだろう。
「なぜだ?なぜ貴様は平気でいられるのだ。」
「企業秘密だ。」
「・・・企業秘密というのは何なのだ?」
あ、そうか。
こちらの世界に企業なんてないわな。
「俺が編み出した新型の魔法だよ。」
「新型・・・企業秘密・・・」
テキトーなことを言ったのに、真面目に考えている姿が滑稽だった。いかん、笑ってしまう。
「なんだ、貴様!何を笑っている!!」
「ああ、悪い。いろいろと新しい魔法があるから、もっと見せてやろうかと思ってな。」
「貴様、名は何と言う?」
魔族に名前を覚えられるのは、あまり気持ちの良いものじゃないな・・・よし、偽名でいいや。
「俺の名前か?アッシュ・フォン・ギルバートだ。」
「アッシュ・フォン・ギルバートだと?」
「それでは、貴様がギルマスなのか?」
あ···しまった。
こいつら、アッシュのことを知っていやがった。
「髪の色が聞いていたのとは違うぞ。確か銀髪だと・・・」
「染めたんだ。」
「瞳の色も青いと・・・」
「染めたんだ。」
あ・・・
「「「・・・・・・・・・。」」」
「間違えた。染めたんじゃなくて、カラコンだ。」
「・・・カラコンとは何だ?」
「企業秘密だ。」
「またそれか?企業秘密とは、どのくらいの種類の魔法があるのだ?」
魔族は好奇心が旺盛のようだ。
新型の魔法に興味津々で、戦うことを忘れているのか?
あ、良いことを思いついた。
「仕方がないな。特別に見せてやるよ。新型の魔法、企業秘密の一部を。」
「何!?本当かっ?」
三体とも、赤い瞳を輝かせてるよ。
ほんと、バカじゃないのか。
「今から使う魔法は、名付けて・・・」
「「「名付けて・・・?」」」
そんなことを話ながら、俺はベルトにつけたツール入れ──シザーバッグのようなもの──から小さなビンを取り出して蓋を緩める。
「誰でも良いから、少し前に出てきてくれないか?この魔法は有効射程が短いんだ。」
「・・・良いだろう。我が出る。」
そう言った一体が、こちらに近づいてきた。5メートルくらいの距離で立ち止まる。
「これで良いだろう。それで、魔法の名は?」
本当に救いようがないバカだ。
「コショウショウショウだ。」
「な、何?コショショ・・・??」
俺はコンパクトなフォームでビンを投げつけた。
高速で飛んでくるビンを、前に出ていた魔族が反射的に手で受け取った。そして、その反動で蓋が外れる。
中から黒い粉が飛び散り、魔族の顔に降り注いだ。
「ぶわっ!な、ぶふ、ぇっ・・・くしょん!!」
胡椒少々だ。
抜刀。
斬!
魔族の一体は、くしゃみをしながら地獄へと旅立った。
「なっ!?貴様!我等を欺いたのか!」
いやいや、欺くも何も、俺流の魔法を見せてやっただけだろ。休戦した覚えはないぞ。
気にせずに次の攻撃に移った。
「次の魔法だ。」
そう言って、ツールバッグから別のビンを数本取り出して、残る二体の魔族に投げつけた。
「同じ手が何度も通用するか!」
魔族は瞬時に魔法を放ち、飛んでくるビンを破壊した。
魔法によりビンが弾け、赤黒い液体が霧散する。
かかった!
俺は蒼龍を一振りし、剣風を起こして霧散した液体を魔族に浴びせた。
「ぐぎゃゃゃぁぁぁー!目が!!目がぁー!!!」
「ひぃぃぃ・・・な、何だっ!辛っ、辛いーっ!!」
ビンの中身は特製のブートジョロキア級唐辛子ソースだ。この辺りにはハラペーニョ、ブートジョロキアといった唐辛子がなかったので、それに近い物を探して作っておいたのだ。
因みに、コショウは遠征時の料理の味付け用、唐辛子ソースはもちろんアッシュのお仕置き用に常備していた。
「名付けて、サドンデスソース・スプラーッシュ!」
そして、さらばだ。
おバカな魔族たちよ。
風撃無双!
「ま、魔族を全員倒した・・・」
「やっぱ・・・あの人、ヤバすぎじゃね?」
「なんかビンのような物をいっぱい投げていたけど、あれ何?」
土煙はすでにおさまり、村からはタイガと魔族たちの戦いが目視できるようになっていた。
改めて、スレイヤーたちの間ではタイガの非常識な強さが話題となり、これ以降も危険人物と見なされて近づいてくる人間はあまりいなかったという。
そして、タイガに戦闘で使用したビンの中身を聞いたパティやバーネットが、その事実を他の者たちに話したことにより、新たな訳のわからない二つ名が付けられることになった。
新たな二つ名。それは、
『スパイス・オブ・マジシャン』
初めて聞いた者のほとんどは、
「タイガは料理人なのか?」
と尋ねたという。
余談だが、この戦い以降に、魔族には激辛ソースとコショウが有効なアイテムになるとして認知され、スレイヤーたちが常備するようになったのは言うまでもない。