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第79話 上位魔族①

魔族との戦闘は、村から約500メート程離れた地点で行った。


スレイヤーたちの魔法障壁のおかげもあり、何らかの被害が村に出ることはなかったが、爆裂魔法のせいで北側の地域は半径200メートルに渡って木々が吹き飛び、更地へと変化していた。


村長と話をすると、魔族を倒したことに感謝をされ、更地となった場所についても、「畑にするから問題ない。」と言ってもらえたので助かった。


三組のパーティーに、魔族たちの後処理と周辺の警戒を依頼した。


俺は水とタオルを借りて、どろどろになった体をきれいにする。衣服については土が乾いてからブラシを借りて汚れを払い落とし、濡れたタオルで拭くことにより、ある程度の汚れを落とすことができた。


モテるためには清潔感が大事だ。


まぁ、それだけでモテたら苦労はないが。


シスとテスが意外にも女子力を発揮して、俺の汚れ落としの作業を手伝ってくれた。


貴族の出なのに、苦労したんだなぁ。


そんなことを思い、つい抱き締めたりなんかした。


二人とも驚いてはいたが、顔と耳まで真っ赤にして恥じらう姿がかわいかった。


「それ、セクハラ!」


パティにそう言われ、背中を叩かれてむせてしまったが・・・ごめんなさい。


でも、拒否られなかったから、大丈夫だろう・・・たぶん。


スレイヤーたちの中から、ミシェルを見つけて声をかけた。


「ミシェル。君の魔法が、魔族との戦いの参考になったよ。ありがとう。」


そう言うと、ミシェルは最初は驚いていたが、すぐに嬉しそうな顔をして、「お役にたててうれしいです!これからもずっと添い遂げます!!」と意味のわからないことを言い出したので、スルーすることにした。


なんかコイツめんどくさい。


「ギルマス補佐。ギルドから連絡です。」


連絡用の水晶を持ってきているらしい。


あの魔法で相互連絡ができるスゴいやつだ。


携帯用のものは100キロ範囲内でしか使えないようだが、それでも非常に助かる便利グッズと言える。携帯電話代わりに俺も欲しいと思ったが、そもそも魔法が使えないから無意味なものとわかり、購入を断念していた。


「タイガか?そっちは片付いたようだな。」


アッシュからの連絡だった。


「大した被害は出なかった。もう少ししたら戻るつもりだ。」


「そうか。実は別の場所でも魔物が大量発生した。」


「またオークか?」


「いや、オーガだ。50体以上いるらしい。」


アッシュの話では、オーガが発生したのは俺が以前に魔族三体と遭遇した山間部。この世界に始めてきたあの場所だ。


各箇所の巡回を強化した結果、スレイヤーがオーガの集団を発見したのだ。


オーガを実際に見たことはないが、鬼のような容貌で、統率がとれた集団行動をする厄介な魔物らしい。


アッシュは魔族が四体も発生したこちらの状況を省みて、自分が対処すると話していた。


彼は強い。


魔法も剣術も他のスレイヤーとは段違いの実力を持ち、冷静な判断力と経験も有する。以前に魔族とひとりで戦い重傷を負ったとは聞いているが、それは何年も前の話のようだ。それからレベルアップもしているだろう。


気がかりなのは、複数の魔族と対峙した場合のサポートだ。


精霊魔法が使えるフェリや、冷静な状況判断のできるリルがいればまだ安心だが、あの二人は普段は学院に通っている。それ以外のスレイヤーとなると、俺が話そうとすると急にオドオドして目を合わせてくれないのだから、どんな相手なのかを把握できていない。


俺が魔族に対して連戦連勝でいられるのは、単に魔法が効かないというイニシアチブが大きいからに他ならない。まともに戦った場合、ウェルクという魔族のように剣術に秀でた相手が複数いた場合は、かなり厳しい戦いになることが予想できる。相手の虚をつく戦法で、いつも切り抜けられるとは考えない方がいいのだ。


チャンスは絶対に逃さない。


それは、エージェントとして生き残るために必要な鉄則といえた。


アッシュのサポートに行こう。


そう決めた。


「別の場所でも魔物が大量に発生した。俺はそちらに向かう。」


パティたちに声をかけた。


「私たちも行くよ。」


同じパーティーだから当然でしょといった感じで頷く四人が頼もしい。


「ギルマス補佐、我々のパーティーも同行させて下さい。今度は遅れは取りません。」


スレイドからも申し出があった。


アッシュに次ぐ実力者といわれた魔法剣士と、威力の高い魔法を放つミシェルは戦力として魅力だと考えられる。


「わかった。ありがとう。」


地図を確認した。


目的地までは馬で4~5時間の距離だった。俺たちはすぐに準備をして、残るスレイヤーたちに後の事を指示して村を出発した。




アッシュは久しぶりのレイドに心が躍っていた。不謹慎とはわかってはいたが、バトルジャンキーの血は抑えられない。


タイガの存在は非常に大きい。


たったひとりで複数体の魔族を倒しただけではない。国の大勢に影響する事件まで難なく解決に導き、気難しいことで有名な大公にまですぐに気に入られた。


おかげで、自分は執務室に拘束されて事務仕事に忙殺されるようになった。デスクワークが一番嫌いなのにだ。


だが、アッシュはそれで良いとも感じていた。


身近な人間が命を落とすことのない環境──平和なことが一番だと思う。強いていえば、もっと模擬戦や巡回任務に参加したい。ただそれだけなのだ。


タイガに対しては嫉妬などを感じることもなく、良いライバルであると思っている。一緒に酒を飲んでいてもノリが良いので会話も弾む。


一度、「コミュニケーション能力がスゴいな。」と聞くと、「関西人だからだろう。」とよくわからないことを言っていた。「カンサイ」とは、たぶん出身の地域のことを言っているのだろうが、


生まれついてノリが良い?


コミュニケーション能力が高い?


そんな人間ばかりの地域って、どんなところなんだ?


ある意味で恐ろしい気がするが・・・


そういえば、冗談を言った相手に「なんでやねん!」と言って、胸を手の甲で叩く「ツッコミ」という名の慣習を歓迎会で披露していた。


それを見ていたスレイヤーの間で「なんでやねん!」が流行りだしたそうだが、初心者が力の加減を間違えて、三人くらいが胸骨を折られて治療院送りになったらしい・・・うん、やっぱり「カンサイ」は恐ろしいところなんだと思う。そんなところで生まれ育ったから、あいつはあんなに強いんだろう。納得だ。


あの「ツッコミ」も、タイガは相手に痛みを与えない絶妙な力加減でやっていた。女の子たちに「私にもやってみて!」と言われて、合意の上で胸にタッチするというラッキースケベシチュエーションまで自己演出していたくらいだ。


たぶん、「ツッコミ」にもスレイヤーと同じようなランクがあって、タイガはランクSかマスタークラスなんだろう。


本当に恐るべしだな、カンサイジン・・・


そんなこんなで、アッシュはタイガのことを気に入っていた。


あわよくば、タイガが身内になれば良いのにとも思っている。


あの男嫌いのフェリだけでなく、人とあまり深く関わろうとしないドライなリルも好意を寄せている。パティもそうだ。


本人は鈍いのか、まったく気がついてはいないが・・・そこが見ていて笑える。


あの中の誰かが、タイガと結婚するかもしれない。爵位を授与されれば一夫多妻も可能になるので、もしかしたら全員と・・・


女性ばかりに囲まれた生活で尻に敷かれまくるタイガを思い浮かべて、アッシュはニヤッと笑ったのだった。



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