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第80話 上位魔族②

アッシュは4組、総勢22名のパーティーと馬を走らせて現地に急行した。


オーガ50体に対してのレイドとしては、決して多いとはいえない人員である。


タイガとオーク討伐に向かったスレイヤーたちと、ギルドに残してきた予備人員で手がいっぱいの状態なのだ。


「どう攻めますか?」


同行しているランクAのステファニーが、アッシュに確認してきた。ウェーブのかかった水色の髪をしたキュートな女性だが、剣の腕前は凄まじい。スレイドと同等レベルといっても良いだろう。


「オーガは大群で動くとしても、必ず小隊規模のリーダーがそれぞれの配下を統率しているはずた。50体いるなら、その内の4~5体が司令塔と考えるべきだろう。」


「では、司令塔を先に潰すべきだということですね?」


ステファニーは頭の回転が早い。


「そうだ。奴等は物理攻撃も魔法にも耐性が強い。遠隔と近接攻撃のコンビネーションで、撹乱しながら致命傷を与える必要がある。司令塔を潰すのが優先だが、それにこだわりすぎると囲まれるぞ。」


「では、状況に応じて動きましょう。弱点は頭部ですか?」


「ああ。だが、魔法を撃つなら目、耳、口を狙え。他は皮膚が硬くて、大したダメージにはならない。」


「わかりました。混戦時の同士討ちには気をつけないといけませんね。」


そんな打ち合わせをしていると、監視で残っていたスレイヤーたちが合流してきた。


「ギルマス!」


「お疲れ。動きは?」


「今のところはありません。数も報告のままです。」


巡回時にオーガを発見した彼等は、そのまま監視任務に入っていた。


この合流により、オーガ討伐隊のメンバーは合計で27名となる。


「ひとりあたり、二体を討伐って感じですか?ちょっときつめですね。」


オーガが相手なら、一体につきスレイヤーが2~3人で対応するのがセオリーだ。非常にタフなので、一対一で持久戦になるとかなり危険というのもあるが、小隊規模で行動することが多いので、数で負けると囲まれてしまうのだ。


「やはり援軍は難しいですか?」


「オークの殲滅地点からは、どんなに急いでも4~5時間はかかる。馬の疲労を考えると、それ以上縮めるのは無理だろう。それに・・・連戦を強いると、犠牲者を大量に出すかもしれん。」


タイガには状況に応じた指示出しをしてくれと伝えている。何時間も馬での移動を繰り返し、連戦を行うとなると疲労度は相当なものとなる。場合によっては戦闘時にまともに動けない可能性もあるので、無理強いはできない。


「そうですね。でも、向こうは30人強でオーク500体と魔族4体を討伐したんですよね?こちらも負けていられませんね。」


「・・・そうだな。」


アッシュには言えなかった。


そのうちの半分以上・・・魔族に至っては、そのすべてをタイガひとりで倒したとは・・・士気に関わるし・・・


打ち合わせを終えると、アッシュたちはオーガたちのいる地点へと向かった。


斜面を登り、一番上にある平地に近づいていく。


「この上に奴等が集結しています。」


地形的にまずいな・・・上から一斉攻撃に出られると、かなり不利な位置となる。


「回り込もう。この位置は・・・」


そう言いかけた時に、オーガたちの雄叫びが轟き渡った。こちらに向かってくる行軍の足音が、地響きのように唸りをあげている。


「まずいっ!」


罠だったのだ。


スレイヤーが集結するのを待って、一網打尽にするつもりだったとしか思えない。


オーガにこんな計画的な待ち伏せを行える気長さなどあるはずがない。他の何者かが・・・おそらく、魔族が指揮をとってこの罠を仕掛けたのだ。


久しぶりのレイドに対して慎重さが足りなかったと、アッシュは自分の愚かさを責めた。


「奴等に構わずに斜面を駆け降りるんだ!下の平地まで行って体制を立て直すぞ!!」


アッシュたちは全力で斜面を駆け降りた。


斜面での戦いは、上にいるものが圧倒的に有利だ。


体重が余すことなく乗った攻撃ができる上に、視野も広く取れる。


このまま下の平地に向かったところで、別の何者かが待ち伏せをしている可能性は高いが、押し寄せてくる超重量級のオーガの大群に真っ向勝負をする訳にもいかなかった。


「魔族が出るかもしれん!前方への警戒は怠るなよっ!!」


「了解っ!」


足元に注意を払いながら、全力で駆ける。


間もなく平地にたどり着くが、今のところは別の気配は感じられなかった。


間断なく聞こえてくるオーガの雄叫びと、地響きのような行軍の足音。いつしか、スレイヤーの間に恐怖を植えつけていく。


「はぁはぁ、ヤバい・・・このままじゃ・・・」


スレイヤーのひとりが弱音を吐いた。このような負の感情は他の者にも伝播する。


「やる前から弱音を吐くなっ!状況に飲まれるな!!」


アッシュが伝播しかけた負の感情を、一喝して断ち切る。


ギルマスとして、国内最強のスレイヤーとして、この求心力はタイガにも真似ができないアッシュの強さそのものである。


「見えた!」


誰かがそう叫んだ通り、木々の切れ間から平地が見え隠れする。


そして、そこへと出た瞬間、常人の目では捉えることのできない斬撃が、一番前を走っていたスレイヤーへと襲いかかってきた。






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