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材料編  44 【強制終了版】

 翌日――。

 野宿以外の久々のまともな休養で、イオルクとクリスの体調は頗って良かった。また、イオルクに関しては旅を続けながらの重い荷物もなく、動きに制限のない状態でもある。

 与えられた和風の部屋で、イオルクは深呼吸をすると呟く。

「久々の全力戦闘だな」

 クリスはイオルクの呟く声を聞いて、思わず相手に同情してしまった。

(あの荷物背負って賊を圧倒するイオルクを相手にするのか……。お気の毒だな)

 キリに言われていた時間が近づき、戦う準備を終えたイオルクとクリスは部屋を出る。

「イオルク、場所分かるか?」

「多分、歓声のする、あっち」

 イオルクの指差す方にクリスは目を向ける。声のする方に何かがあるのだろうが、ここからでは分からない。

「本当に広い屋敷だな」

「敷地内に戦う場所があるって話だからな」

「しかし……。この歓声は、何だ?」

「さあ? 元々は俺達の強さを見るためのものだし、試験みたいなヤツなんじゃない?」

「でも、キリさんが武闘会って言ってたから、『会』ってことでイベントなんじゃねぇか?」

「俺達は見世物か……」

 武闘会の会場に向けて、イオルクとクリスは歩き出した。

「でも、靴を履くのが先じゃないか?」

「玄関、何処だっけ?」

 イオルクとクリスは、玄関へと引き返した。


 …


 武闘会場前――。

 歓声は徐々に大きくなり、方向は間違っていないことを示す。壁で囲まれた会場の門から中に入ると、イオルクとクリスは感嘆の声をあげる。

「でかい……」

(ノース・ドラゴンヘッドの大会より大きい。なのに、武舞台が一つか)

「どっから湧いてきたんだよ、コイツら……」

 武舞台の周りを囲む観客は信じられないほどの数で埋め尽くされている。この会場は戦いを進行させるものではなく、戦いを見るものとして造られていた。

「俺達だけ戦うのかな?」

「違うだろ? もし、そうだとしたら国単位でバトルマニアの集まりだぜ?」

 しかし、数分後、会場に流れるアナウンスで、イオルクとクリスだけの予定ということに、二人はガクッと肩を落とす。

「キリさん……」

「一騎打ちの戦いなんて、一時間も二時間も続くもんじゃないぞ。いいとこ、十分ぐらいだ」

「俺とクリスで合わせて二十分……。それだけで、こんなにも?」

「この国の連中、ヤバいんじゃないか?」

「…………」

 イオルクが答えを返せないでいると、呼出しが掛かる。

 二人は見世物のピエロになった気分で、呼び出しの場所へと移動した。


 …


 二人が呼び出された武舞台の脇には、キリと黒装束に身を包んだ顎鬚の伸びた小柄な老人が居た。髪も髭も白髪で深い皺もある。長い年月を生きてきた証だ。

「テンゲンと申す。よろしく、イオルク・ブラドナー殿……」

 老人が柔らかい笑顔で手を差し出すと、イオルクは笑顔で握り返す。

「よろしく、テンゲンさん」

 クリスは微妙な顔で握手を見ている。

「キリさん、爺さん死んじゃうぜ? イオルクは馬鹿力なんだ」

「安心せい。御爺様は、この国で一番強い」

「しかしだな……」

「力、体力、反射神経……。全て現役の時と変わらぬわ」

「嘘だろ?」

「本当じゃ」

 クリスがテンゲンを見ると、テンゲンは微笑んで頷いた。

「油断していると殺してしまうかもしれない故、気を付けるがいい」

(この爺さん……)

(命は取らないんじゃなかったのか……)

 お祭の一端だと思っていたイベントは、真剣勝負に変わり始めていた。

「では、行こうか? イオルク殿」

 テンゲンが先に武舞台へ歩き出すと、それに続いてイオルクも武舞台に向かった。


 …


 テンゲンとイオルクが武舞台に向かうのを確認すると、キリはクリスに声を掛ける。

「クリス、こっちに来るが良い。戦いの分からぬ魔法使いのために、わらわが解説をしてやろう」

「ありがとうございます……」

「わらわも、クリスからイオルクの解説をして欲しくもあるのでな」

(間違いなく、そっちが本音に違いない)

 クリスはキリに着いて行くが、直ぐに頭を押さえることになった。

(近いよ……。武舞台近いよ……)

 一般の観客席と違い、王族の観覧席は武舞台の直ぐ目の前にあった。

 あまりの近さに不安が増すと、クリスはキリに質問する。

「武器とか飛んで来ないのか?」

「それがいいのではないか。臨場感がある」

「怪我したり死んだりしたら、元も子もないと思うんだけど……」

「ドラゴンテイルの人間は、その程度、何とも思わぬ」

(逞しいな、ドラゴンテイル)

 武舞台ではテンゲンとイオルクの戦いが始まろうとしていた。


 …


 観客席は自国の英雄であるテンゲンの戦いが見られると盛り上がっている。しかも、相手は以前から国内で噂になっていたイオルク・ブラドナーである。この国の民の気持ちが高揚するのは仕方がない。

 イオルクは会場の反応を見ながら思う。

(アウェイだな……)

 一方のテンゲンは、手をあげて歓声に応えていた。


 …


 観覧席――。

 クリスは会場を見回して、溜息を吐く。

「あれじゃ、まるっきり悪役じゃねぇか」

「仕方あるまい。御爺様は、この国では英雄じゃ」

「英雄ねぇ……」

「故に誰であろうと敵になる。しかし、イオルクもこの国では人気が高い。邪険に扱われることはなかろう」

「そうだといいがな」

「安心せい。我らは戦いを神聖なものと理解しておる」

(やっぱり、危ない国なんじゃないのか?)

 キリは武舞台を指差す。

「ほれ、始まるぞ」

 クリスは足を組みながら、キリの指差す武舞台に目を向けた。


 …


 武舞台――。

 右手にクナイを構えているテンゲンを見ながら、武器と構えがイチと同じことをイオルクは確認していた。それにより、イチが本当にこの国の出身であることを再認識する。

 過去の経験を思い出しながら、イオルクは内面の戦闘態勢を整えていく。

(さて、どうするか?)

 腰の左横に備え付けている剣、腰の後ろに固定しているロングダガー、厚めのダガーのどれを使うか思案する。

(剣で行くか……)

 イオルクは使う武器を決めると、腰の左横から剣を抜いた。

「真剣だけど、大丈夫?」

「気遣いは無用じゃ。ちゃんと寸止めしてやるわい」

 温和な笑顔を湛えるテンゲンに対し、イオルクは苦笑いを浮かべる。

(子供扱いだな。だけど、向こうは戦いの大ベテランだ。こっちに手を抜いている余裕はない)

 イオルクが剣を両手持ちで正眼に構えると、テンゲンが地を蹴った。老人とは思えぬ速さで迫り、イオルクとテンゲンの距離は一気に縮まった。

(キリさんの言葉は嘘じゃないみたいだ)

 イチの動きを思い出しながら、イオルクはテンゲンの持つクナイが振るわれる距離を見極める。

(ここだ!)

 正確に測った様な、クナイは届かないが剣なら届く間合い。そこに放たれるイオルクの鋭い突き。それをテンゲンは体を捻り回避し、イオルクの横をそのまますれ違うように抜けた。

 観客達はテンゲンの攻撃にカウンターを合せようとしたイオルクに歓声を止めさせられ、一方のテンゲンは、今のイオルクの動きを見て、鋭い目でイオルクを睨んだ。

「御主……。我らの戦い方を知っているな?」

「知っている。真剣勝負は二度見たことがある。一回目は戦場で。二回目はノース・ドラゴンヘッドで」

「ノース・ドラゴンヘッド?」

 イオルクは頷く。

「イチさんと戦ったことがある」

「イチ? 我らがよく使う偽名だ……」

「この国の子供に聞いたけど、本名はコスミというらしいよ」

「修行を兼ねて密偵に出していた、あのくノ一か……」

「構えが似ていた」

(この小僧……。一度見た戦い方を忘れないのか)

 テンゲンは先ほどと同じ構えを取り直す。

「それで全てを見たと思ったら、間違いだぞ」

 テンゲンが再び地を蹴り、イオルクに迫る。

 イオルクが再びカウンターを合せるために踏み込もうとした瞬間、クナイがイオルクに迫っていた。イオルクは剣でクナイを力任せに弾き飛ばす。

 しかし、投げられたクナイを弾いただけでは終わらせてくれない。テンゲンの攻撃が続く。

(何だ?)

 振るわれたテンゲンの一振りが、遅れて剣に当たった。だが、それだけではない。当たる瞬間、反射的に剣の位置を自ら動かされていた。つまり、攻撃のどれもが、イオルクの予想と違うタイミングで向かって来ていたことになる。

 続くテンゲンのクナイの攻撃を、イオルクは防御に集中することしか出来なかった。

(おかしい! 全部予想と違うタイミングでクナイが向かって来る!)

 テンゲンは唇の端を吊り上げながら、連続でクナイを振るい続けた。


 …


 観覧席――。

 クリスは冗談抜きに驚いていた。防戦一方のイオルクなど、今まで見たことがない。

「どうなってるんだ? アイツが受けに回るなんて見たことないぞ」

「そうなのか?」

「大抵がさっきみたいにカウンターを合せて終了だ」

「そうか……。だが、わらわも驚いておる。御爺様が未だに仕留め切れていないからな」

 クリスは額に右手を置く。

「オレ、イオルク以上に強い剣の使い手を見たことないから、互角以上に戦ってる、あの爺さんが化け物に見えるよ」

「そうであろうな。しかし、それは我らも同じ。……見よ。予想を裏切られた国の者が声を失っておるわ」

 観客席は、いつの間にか静まり返っていた。いつもと違い、今回の挑戦者は思いの他粘っているからである。


 …


 武舞台――。

 戦いの中で、テンゲンはイオルクに感心していた。動体視力が優れているだけではなく、相手の僅かな動きから軌道、威力、速力を予想して的確に動いている。それは数多の戦闘経験を経験しなければ身につかない。一朝一夕の思い付きではないことは明らかだった。

(この歳で、この青年はどれだけの戦いを経験したのか……。そして、一番感心させられるのは剣の振り方じゃ。今まで一度も違った軌道で来ない。それは、この青年が愚直に同じ型を繰り返して身につけたことを意味している。何度も剣を振り、その中で一番威力の高い振り方、一番速く振れる振り方を見つけて自分のものにしたに違いない。……それは間違いではない。戦場での勝負は一瞬じゃ。だから、一撃で確実に殺す方法は、この型だ。……だが、広い場所で一対一、且つ、相手が手練れである場合は少し違う。一撃一撃は脅威じゃが、一振りを見極められれば、あとは同じタイミング、同じ軌道。非常に分かり易い)

 テンゲンはイオルクの鋭い横薙ぎと切り上げを躱しながら分析していた。命を取らないと言う約束を守るために、イオルクを見極めることに徹していた。

(イオルクが我らアサシンと同じ様な戦い方――つまり、人一人を確実に殺す戦闘形式を身につけていればいい勝負になっただろうに……。コスミは、ちゃんと一族の秘伝を守っておったようだな。イオルクが儂に対応できないということは、コスミがアサシンの戦い方を全部見せずに短刀の基本動作だけで戦っていたということだ)

 テンゲンから逃げるように距離を取らされると、イオルクは剣を正眼に構え、攻撃に備える。

(大サービスじゃったろう? 本来、アサシンの戦い方は見せないものじゃ。それを経験できただけでも貴重なものだからな)

 テンゲンは暫しの沈黙のあと、右手のクナイを水平にして半身に構える。

(そろそろ引導を渡してやろう)

 テンゲンが目を更に鋭くイオルクに向けた時、イオルクは剣を納め、腰の後ろから右手でロングダガーを抜いて構える。

(まだ諦めておらぬか……、ぬ⁉)

 テンゲンは、イオルクの構えに目を見開く。イオルクはテンゲンと鏡写しのように同じ構えを取っていた。


 …


 観覧席――。

 会場が俄かにざわめき立ち、その行為に、ある者は馬鹿にしていると感じ、ある者は不気味さを感じていた。クリスの隣で見ていたキリは前者であった。

「少し買いかぶり過ぎていたか? 真似しただけで御爺様の技を習得できると思っているのか?」

 キリの言うことは尤もだと思いながら、クリスは幾つかの違和感を感じ始めていた。

「イオルクって、そういう無謀なことをする奴じゃないんだよな」

「では、あれは何かの策なのか?」

「多分……。そして、さっきから何か変なんだ」

「何がじゃ?」

「今までの――一緒に旅をしていた時のイオルクと、今ここで戦っているイオルクが、戦場で戦ってたイオルクと何か違う気がするんだ」

 苛立っていたことを忘れ、キリはクリスに顔を向ける。

「御主は戦場でもイオルクを見たことがあるのか?」

「ああ。それに惚れ込んで仲間にしたんだ」

「魔法使いの考えそうなことじゃのう」

「否定しねぇよ。……でも、アイツと居て、魔法使いの戦いにおける重要性の一つが変化したのは確かだな」

「何じゃ、それは?」

「アイツに会って良かったってこと――おっと……。爺さん、仕掛けるみたいだぜ」

 クリスの言葉に、キリは真実があるのかどうかを見極めることにした。


 …


 武舞台――。

 テンゲンの動きにイオルクが合わせる。踏み出す足、体の捻り、武器の出だし、軌道、全てが再現される。対称の軌道を描くクナイとロングダガーは甲高い音を立てて火花を散らした。

 そして、数回それを繰り返すと、イオルクは納得して距離を取った。

「やっと、分かった」

 イオルクの誘いに乗ったことに、テンゲンは苦笑いを浮かべている。

「武器の出だしが全然違う。これじゃあ、正規の振りをイメージしていた俺の予測とズレが生じるわけだ」

「謀ったな、小僧め。同じ動きで見極めおって」

 イオルクは笑顔を浮かべている。

 種を明かせばクナイの振り方にある。テンゲンはクナイを振る時に巧妙に細工をして、ある時は、引き絞る腕を半分に止めて出だしを早くしたり、ある時は、体の捻りを溜めて出だしを遅らせていた。イオルクの振りが終わってから攻撃したり、振りが始まる前に攻撃したりしていたのだ。

 種は簡単だが、これを相手に気付かせないで行なうのは難しい。そして、もし相手に気付かせない技術を持っていれば戦闘を行なう上で有利になるのは間違いない。ヒットポイントをずらすということは、使用している武器の最大威力、最大スピードを使わせないということに繋がるからだ。


 …


 観覧席――。

 クリスはイオルクの言葉が耳に入っても、何となくしか分からなかった。

「正規の振り方じゃないって……。あの爺さん、そんなことしてたのかよ」

「よく気付いたもんじゃ。いや……、あの鏡写しの攻防で自分の中の違和感を見極めたのじゃな」

「化け物か、アイツら……」

 キリの説明で理解はしても、まだクリスは納得がいかなかった。

「クリスよ」

「ん?」

「さっき、御主の言っていた違和感とは別に、わらわも少し違和感というのを感じた」

「何に?」

「イオルクにじゃ。よくよく考えれば、タイミングをずらされて切り込まれているのだから、普通、武器を取り溢すであろう」

「どういうことだ?」

 キリは扇子を立てる。

「よいか? 武器を握る時に、御主は常に力一杯握っておるか?」

「武器は持たないけど、そんなことしないな。だって、全身に力が入りっぱなしじゃ疲れるし、動きがガクガクするからな」

「その通りじゃ。では、攻撃を受け止める時は、どうじゃ?」

「そん時は、力を入れるだろ? そうしないと武器が手から飛んで行っちまう」

「その通りじゃ。では、何故、イオルクは武器を取り溢さない?」

「……力を入れてたんだろ?」

「さっきまで、タイミングをずらされて、力の入れるタイミングも分からなかった奴がか?」

 クリスは言われて理解する。自分の中でイメージすると、キリの忠告通りになる。

「その通りだ……。力を入れてたら爺さんの攻撃についていけない。でも、当たる瞬間に力を入れないと取り溢す……」

「何をしたのじゃ? イオルクの奴め」

 今までの旅の中でのイオルクの行動を思い返して、クリスは予想を口にする。

「力任せに押さえ込んだ気がする……」

「力任せ?」

「さっきも爺さんを気遣って言ったけど、アイツ凄い馬鹿力なんだ。多分、武器が当たったあとに、力任せに握り込んだんじゃないかな?」

 キリは座った目で、呆れて言葉を漏らす。

「……御主は馬鹿か?」

「何が?」

「そんなこと出来る人間が居るわけなかろう」

「そうかな? アイツ、どっか人間離れしてるとこがあるんだよな」

 どっちにしろとキリは立ち上がり、武舞台に向かって叫ぶ。

「御爺様! イオルク! いい加減に本気で戦いなさい!」

「「本気だったんだけど……」」

 イオルクとテンゲンがキリの方に振り向くと、異口同音を口にした。

「わらわの目は誤魔化せぬ! 御爺様! いつになったら二刀で戦うのじゃ!」

「キリ、相手に手の内をバラすでない……」

「イオルク! お前もじゃ! クリスがさっきから違和感を感じておるぞ!」

「……何の話だ?」

「それと御爺様の攻撃に武器を取り溢さないことを説明しろ!」

「戦いの最中に、何て物言いなんだ……」

 イオルクはチラッとテンゲンに視線を送ると、テンゲンは黙って頷いた。

「信じられないかもしれないけど、インパクトの瞬間に強引に力で押さえ込んだんだ」

「な⁉」

(やっぱり……)

 クリスは予想通りだったと呆れた顔で椅子に体重を預けるが、隣のキリは納得いかない。

「嘘も大概にせい!」

 キリが武舞台にズカズカと上がってきた。

(オイオイオイオイ……。滅茶苦茶だな、ここのお姫様は……)

 キリがイオルクに怒鳴る。

「何か特殊な秘法があるはずじゃ! 白状せい!」

「もし合ったとしても暴露しないんじゃないの?」

「黙れ! このままでは夜も眠れん!」

 観客から滅茶苦茶なキリに大喝采が送られると、クリスは『お国柄なんだな』と観覧席から諦めて見ている。

 武舞台では、そのキリの右手を取り、イオルクは握手する。

「仕方ないな……」

「何の真似じゃ?」

 イオルクがニコリと笑いながら一瞬だけ力を込めると、キリは痛みで思わず右手を引っ込めた。

「何をするのじゃ! うつけ者が!」

「分かんない? 俺の握力凄いでしょう?」

 キリは自分の右手を凝視する。

「掴まれたと思ったのに、キリさんは手を引っ込めれたでしょう?」

 キリは無言で頷く。

「それをやってたから、武器が飛ばなかったんだ」

「御主、本当に馬鹿力じゃったのか……」

「鍛冶屋をやってると、今まで以上に握力が必要になるんだ」

「鍛冶屋?」

「そう。俺、今、鍛冶屋もしてるの」

 キリのグーが、イオルクに炸裂した。

「勿体無いことをするでない!」

「どう生きようが、俺の自由だろう……」

 テンゲンがキリに近づき宥める。

「その辺でいいじゃろう。儂は、さっさと続きをしたいんじゃ」

 ハッとしてキリが冷静さを取り戻すと、咳払いを一つする。

「分かりました。では、続きをどうぞ」

 納得のいったキリが武舞台から降りると、クリスの横にドッカと座る。

「凄いな……。試合の途中で乱入なんて」

「あの二人がいけないのじゃ! いつまでも手加減した戦い方をしおって!」

(このお姫様、身内の爺さんにも容赦ないのな……)

 クリスはゲンナリとした疲れた顔で武舞台に視線を戻した。

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