武舞台――。
イオルクとテンゲンが気を引き締め直す。
「すまないな。娘がとんだ粗相をして」
「はは……。慣れてます」
今まで会った女性陣がイオルクの頭を過ぎる。
(女性の強い時代だよな……)
苦笑いを浮かべたイオルクの顔を見ると、テンゲンは、何となくイオルクに自分と同じ苦労の臭いを感じた。
(……っと、入れ直した気合いが抜けるところだったわい)
「では、仕切り直しだ」
テンゲンが懐からもう一本のクナイを取り出すと、イオルクは、それだけで戦闘力が二倍になった気がした。
「気遣っている暇はなさそうだな」
ロングダガーを腰の後ろに納めると両手両足の重りを外し、イオルクは武舞台の外に放り投げる。すると、武舞台の外の地面で手甲は地面に反発することなく転がった。
「その手甲……。防御に一切使わないからおかしいと思っておったが、重りだったのか」
「ノース・ドラゴンヘッドの隊長命令でね」
「これで五分と五分といったところか?」
「どうですかね?」
二刀流のテンゲンと、再びロングダガーから剣に持ち替えて構えるイオルク。両者は睨み合い前傾姿勢になる。
…
観覧席――。
キリが唇の端を吊り上げる。
「くく……。狸共め、正体を表わすぞ」
「何か性格変わってきたな……」
「戦いとは血湧き肉踊るものじゃ」
(危ねぇな……)
「これで、さっき言っていたクリスの違和感というのも晴れるであろう」
「イオルクの奴、まだ本気じゃなかったのか」
「全て、わらわの説得のお陰じゃな」
ご満悦なキリに対して、クリスは何処か複雑な気分だった。
…
武舞台――。
戦いの事態に急変はない。テンゲンの一方的な攻撃をイオルクが剣で受け続ける。
そう、事態が変わらない。二刀になり、手数が増えたはずのテンゲンの攻撃を受け続けている。
(この小僧……。明らかに剣速が上がっている。両手のクナイを一本の剣で防ぐだと?)
戦いの変化がないことに不満を抱くテンゲンとは別に、イオルクは次の展開を考え始めていた。依然として慣れない攻撃ではあるが、片手持ちのクナイで両手持ちの自分の剣を弾くことは出来ない。防ぐのも重りを外して軽くなった、今の状態なら難しくない。
(狙える!)
イオルクはテンゲンのクナイに狙いを定め、今までより大きいモーションで剣をクナイに叩きつける。
テンゲンの右手にはズッシリと重い鈍器で殴られたような感触が走った。
(この小僧、ここで武器破壊を狙うか!)
続くイオルクの二度目の武器破壊。テンゲンはクナイを手放し、イオルクの剣はクナイだけを叩きつける。
(……捨石にさせられたか)
この展開はイチでも経験している。その経験を活かそうと追撃の剣を振る体勢を整えた時には、既にテンゲンは別のクナイを装備していた。
(イチさんよりも早い……)
イオルクが追撃を諦めると、観客達は大きく息を吐いた。戦いのレベルが一段階上がったことを観客達は理解させられていた。
…
観覧席――。
クリスは目を擦る。
「オレ、目で追えないわ」
「そうであろうな。わらわも所々追えん」
「それでも見えるんだ」
「まあな」
「オレは、段々自分が一般人なんだと自覚させられてきたよ」
クリスが少し項垂れているのを見ながら、キリは顎に手を当てる。
「しかし、妙じゃな」
「何が?」
「御主じゃ?」
「オレ?」
「御主、イオルクに違和感を感じていたであろう?」
「ああ」
「でも、本気のイオルクの攻撃を目で追えない」
「そうだけど?」
「目で追えないものに違和感など感じるか?」
「……言われてみれば」
クリスは腕を組む。
「御主、何に違和感を感じていたのじゃ?」
「キリさんが『説得のお陰』だって言ってから、思考停止しちまったよ」
キリはクリスの襟首を掴み、縦に振りまくる。
「ええ~い! 今直ぐに思考を再開しろ!」
「無茶苦茶な……」
「さっさと貴様の違和感を思い出せ!」
(何だ? この扱いは?)
観覧席では、暴走が始まっていた。
…
武舞台――。
久し振りの強敵に、テンゲンは笑みを溢していた。
「楽しいのう。戦いはこうでなくては」
テンゲンが軽くステップを踏み出す。
「戦い方は一つじゃない。恵まれた体格――その体が命取りになることを教えてやろう」
テンゲンがイオルクに再び接近する。
すると、イオルクが剣を振ろうとした瞬間に横に動き、イオルクが反転しようとする瞬間に、また切り返した。テンゲンはイオルクの後ろを取るとクナイを振るう。
だが、そこに上から剣がクナイと激突する。
「器用な奴じゃのう」
後ろ向きのまま、剣が肩から背に伸びている。
「狙いが反れた。防御だけで精一杯か」
イオルクはクナイを弾くと、後ろを取られないように武舞台の場外ギリギリで構えを取る。
(前も、こんな展開になったような気がするな)
イチとの戦いを思い出しながら、イオルクは大きく息を吐く。
(この人、強過ぎる。手加減なんて出来ない)
ノース・ドラゴンヘッドの展開と似てはいるが、内容が違う。あの時よりも、展開する予想にずれが生じる。イチの戦いを参考にするのは、逆に危険なように感じる。
(テンゲンさんの戦いを見て思い出してきた――なりたかった騎士の姿を……。俺が目指していた戦いが見え始めてきた)
イオルクが剣を鞘に納めると雰囲気が変わる。
「本気で行かせて貰って、よろしいでしょうか?」
(何じゃ? 言葉遣いが……)
テンゲンは疑問を抱きながら答えを返す。
「構わぬよ。しかし、逃げてばかりで勝てるのかね?」
「私から攻めさせて頂きます」
(良い心掛けじゃ)
イオルクを迎え撃つため、今度は、テンゲンが受けの構えを取った。
…
観覧席――。
キリに首を締め付けられながらクリスが思い出した。
「あれだ!」
「何じゃ!」
「思い出したんだ!」
「何⁉」
キリがクリスを開放する。
「言葉遣いだよ!」
「何だ、それは?」
「アイツ、本気になると敬語になるんだ」
「何じゃ? その気持ちの悪い設定は?」
「気持ち悪いはないだろう……」
クリスは少しイオルクに同情する。
「しかし、本気になっただけでは、御爺様には勝てんだろう?」
「もう一つ思い出した」
「ほう」
キリは腕を組んで、クリスに視線を向ける。
「アイツと旅していて手持ちの武器しか使ってなかったから忘れてたけど、本来は、武器を選ばねぇんだよ」
「武器を選ばない?」
「アイツ、戦場でいつも隊の中で一番悪い武器を持っていたんだ」
「……普通、一番の実力者に一番良い武器を持たさぬか?」
クリスは右手の人差し指を立てる。
「この話、知らないか? アイツの居た隊は見習いだから支給された武器を隊員が選んで使うんだけど、アイツ、仲間の生存率を上げるために、最後に残った武器で戦場に出るんだ。だから、手持ちの武器は統一性がない」
「仲間のため……」
「理由は知らないし、聞いてないけどな」
「何故、聞かないのじゃ?」
「ダチだからだ」
「ダチ……」
再びクリスの襟首をキリが掴む。
「それが何の理由になるのじゃ! わらわは真相が知りたいのじゃ!」
キリはクリスの襟首を掴み、縦に振りまくる。
(今のはいい話だって感動するところだろ……。この人、こういう人だっけ……。プライバシーの壁とか、友達だから踏み込めない領域があるだろうに……)
観覧席での暴走は続く。
…
武舞台――。
イオルクはテンゲンに向かって、ただ普通に歩いていく。まだ、武器も抜いていない。それを見たテンゲンは、異様な落ち着きと静けさを持つイオルクに警戒する。
そして、イオルクが動いた。ゆっくりと近づいていたイオルクが、武器も構えず全力でテンゲンに向かって走り出した。
得体の知れない戦闘方法にテンゲンが細かくステップを踏み、方向転換を繰り返す。小回りに関しては体格の大きいイオルクよりテンゲンの方に分がある。前に向かうイオルクには急な方向展開は出来ないと考え、テンゲンが大きく横に移動する。
しかし、ここでイオルクは剣を抜くと武舞台に突き刺し、両足の力に両手の力を加えて直角に曲がった。
「何じゃと⁉」
地面から引き抜かれ、そのままテンゲンに向かう剣がクナイで防がれる。イオルクは剣を両手持ちから左手の片手持ちに切り替え、更に腰の後ろに右手を回すとロングダガーを取り出した。
「こやつ……、両利きか⁉」
イオルクとテンゲンの剣閃がぶつかり合う。剣とクナイ、ロングダガーとクナイがぶつかった衝撃でイオルクとテンゲンが弾かれ、僅かに距離が出来るとガチャガチャと音が響いた。
離れた距離は直ぐに埋まり、イオルクとテンゲンの戦いが再開する。
「何じゃ⁉」
その最初のイオルクの攻撃。テンゲンが間合いを見誤る。
イオルクの右手と左手の武器が換わっていた。さっき持っていたロングダガーがダガーに換わり、剣がロングダガーに換わっている。
「くっ!」
テンゲンが徐々に後退を始める。途中でガチャガチャと武器の換装が行われる度に、変わる間合いと武器の威力。
「儂の間合いを錯覚させる技術をこんな形で真似しおって……!」
テンゲンが更に場外の方に追い込まれていく。観客もキリも信じられないようなものを見るように固まっている。
(これは、儂の攻撃方法よりも一段階上じゃわい。威力を犠牲にして間合いを錯覚させる儂の技術と違う。儂らは確実に殺せれば良いから威力は要らん。しかし、この小僧は武器を換装して間合いを変更している。基礎がしっかり出来ているから威力も変わらん)
更にガチャガチャと武器の換装の音が続く。
(拙いのう……。負けてしまうわい……。国民の前では負けたくないのう……)
ガチャガチャと武器の換装の間で変な音がした。しかし、そんな音に注意を払っている暇もない。テンゲンは武舞台の淵に追い詰められ観念する。
イオルクは攻撃を止めると、剣とダガーをゆっくりと鞘に納めた。
武舞台は静まり返っている。これから、何が起きるのか?
「…………」
イオルクとテンゲンは静かに睨み合い、イオルクがゆっくりと片手をあげる。
「俺の負けだ」
言葉遣いと共に、イオルクに再び緩い雰囲気が漂っていた。
その負けを宣告した言葉に、テンゲンは納得がいかない顔を浮かべた。それは奥の手を出すところまで、覚悟を決めたこともあったからだ。
しかし、目の前のイオルクからは、さっきまでの闘志が完全に消えてしまっている。
「クリス!」
イオルクはクリスを手招きするが、呼ばれたクリスは、何で呼ばれるのか分からない。
「すまん……。慣れない戦い方したから、ダガーと鞘の間に右手の親指挟んで折れちゃった」
会場中が肩透かしを食らった瞬間だった。
キリは観覧席で頭を押さえている。
「あれだけの戦いをしておいて……! 何じゃ、この締まらない終わり方は!」
キリの咆哮と共にスタートを切ったクリスが、イオルクにノンストップでグーを炸裂させた。
「お前、やっぱり馬鹿だろ! あそこまで追い詰めたんなら、嘘でもいいから場外に落とせよ!」
「だって、親指痛いんだもん……」
「子供か!」
クリスは一喝すると、仕方なくイオルクの右手の親指に回復魔法を掛け始めた。
…
テンゲンが観覧席へと引き返すと、キリが声を掛ける。
「何とも締まらない終わり方ですね」
「あの男、よく分からんわい」
「まったくです」
「最後は、ワザとかもしれんがのう」
「何故でしょうか?」
「クリスと言っていた小僧の言う通りじゃ」
「…………」
それほどテンゲンが追い詰められていたのかと、キリは武舞台のイオルクに目を向ける。
「まあ、これ以上、技を見せたら、あの小僧にどんどん流出しかねんし、ここらが潮時だったのかもしれん」
「イオルクの力を知らしめるだけなら十分です。これ以上、戦いを続けることもないでしょう」
「うむ」
テンゲンの戦いという大きなイベントが終わり、少し張っていた空気が緩むと、キリは、もう一つの戦いが残っていることを思い出した。
「そういえば……」
「まだ、何かあるのか?」
「あのクリスという者も戦うことになっているのですが……」
「儂は、もう戦えんぞ」
「では?」
テンゲンは椅子に座ると侍女にお茶を頼み、クリスの相手を口に出す。
「あれがいい。我らの一族の呪符師とやらせれば」
その相手に、キリは眉間に皺を寄らせる。
「それは卑怯ではありませんか?」
「何がじゃ?」
「我らの呪符は呪文を唱えず、念だけで発動するからです」
「じゃが、普通に儂と戦うつもりだったんじゃろう? 何か策があるんじゃないのか?」
キリは暫し考えると、テンゲンの言葉に納得する。確かにクリスは、そういう条件で承諾していた。
対戦相手を用意するため、キリは、一時、観覧席を空けた。
…
武舞台――。
武舞台のイオルクの治療は直ぐに終了しし、イオルクは軽く手を閉じたり開いたりして確認する。
「いい腕だな」
「当然だ」
鼻を鳴らすクリスに、イオルクは改めて尋ねる。
「なあ、クリス。本当に戦うのか?」
「金が懸かってるからな」
「冗談抜きに、お前の方が、分が悪いと思うんだけど」
「まあな。魔法使いは詠唱時間を確保してなんぼだからな」
「分かってて戦うのか?」
「…………」
クリスは少し真剣な面持ちなる。
「実は金もそうなんだけど、試したいことがあってさ」
「試す?」
「近接戦闘のリハーサルの意味も込めて、この前から練習している戦闘スタイルを、ここで試そうと思うんだ」
(二重詠唱のあれか)
いつになく真剣なクリスの顔に、イオルクは溜息を吐いて諦める。
「呪文詠唱の時間稼ぎは、俺の役割だと思ってたんだけどな」
「悪いな」
「じゃあ、少しだけアドバイス」
「ん?」
「クリスは、俺とテンゲンさんの戦いに着いてこれるか?」
「無理だな。本気になった二人の戦いを目で追えなかった」
「じゃあ、それまでは目で追えてたんだな?」
「ああ」
(いい動体視力してるじゃないか)
「実は、俺もテンゲンさんの動きを完璧に追えていない。それでも俺やテンゲンさんが戦っていられるのは加速する手足の先端を見てるからじゃなくて、動きの少ない体の稼動部分――関節とか肩周りを見て予想してるからなんだ」
クリスはチョコチョコと頬を掻く。
「……もしかして、オレって、いいところまで動体視力があるのか?」
「あると思うよ。近接戦闘をこなせば、予測できるようになるかもしれない」
「そうか」
クリスはニヤける。
「だが、今回に限っては間に合わない」
「うっ……」
それが現実である。
「だけど、クリスの相手がテンゲンさんみたいな相手じゃない限り、攻撃は目で追えると思っている」
「問題は目で追えても、気付いた時にはざっくりやられてるってことか」
「気付いてたのか?」
「さっき、気付いた。軽装で素早さ重視のアサシンと戦うんなら、魔法使いは不利だってな」
クリスの話を聞いて、イオルクは自分の背中に手を回す。
「何やってんだ?」
イオルクは背中から取り出したものをクリスに差し出す。
「何処から出した?」
「背中の盾の下から」
(何で、そんなところに仕舞っている……)
クリスは自分の疑問をぶつけるのを堪え、視線をイオルクの手に持っていく。
イオルクの持っていたのは少し歪なデザインの手甲だった。長手袋のように手を突っ込むのであろう手甲は、布地と金属で出来ている。手袋の部分は、第二関節まで露出し、手甲も関節部分に合わせて金属板を貼り付けてある。唯一まともなところは腕を守る外側部分である。
「変な形の手甲だな」
「お前専用に造ったもんだ」
「オレ用?」
「お前、魔法使いだから余計な金属がついていると重くて邪魔だろう? だから、布地と手甲を合わせて長手袋みたいにしてみた」
イオルクから長手袋風の手甲を受け取ると、クリスは手甲を装着して確かめてみる。
「本当だ。凄く軽い」
「最悪、それで受け止めれば、腕は持って行かれないはずだ」
「へへ……。ありがたいね」
「もう一つ」
イオルクがクリスの右手を掴み、掌を開かせる。
「何だ? この金属辺は?」
「月明銀と呼ばれる金属で、ノース・ドラゴンヘッドでは銀の鎧の材料にも使われ、魔法に対する防御力を格段に上げる効果がある」
「それが何で、掌に?」
「この金属には、もう一つ効果があるんだ。月明銀に形態変化の図形を刻むことにより、魔法に形態変化を持たせられる」
「球状や壁に変える、あれのことでいいか?」
イオルクが頷く。
「その小さなプレートには安定の意味の図形を刻んだ」
「何で、また?」
「クリスの二重詠唱の精度は甘い」
「このヤロウ……。はっきりと……」
「だから、今だけ補助を入れる」
「今だけ?」
イオルクは頷く。
「俺のクリス観察の推測から行くと、クリスは一度実行したものを使いこなすのが恐ろしく早い。だから、今回も二重詠唱を安定して使用すれば、瞬く間にものにするはずだ」
「そんな都合良くいくかね?」
「俺は、そう思ってる」
クリスは『ふ~ん』と手甲の具合を確かめながら、話半分で聞いている。
「試していいか?」
「え?」
クリスが呪文を唱え始め、右手と左手から時間差でエアボールを放つ。時間差で放ったのは、相手に二重詠唱の手の内を見せずに一発ずつ撃ったと思わせるためである。
「なるほど……。確かに安定しているな……。そっか~、オレの魔法はブレてたんだな。気が付かなかった」
「月明銀のプレートは、ちゃんと作用しているみたいだな」
「ああ、バッチリだ」
「この試合終わったら、プレートを取れよ。お前自身の成長の妨げにしかならないからな」
「分かってるって。ありがとな」
イオルクは頭を掻く。
「何となくだけど……。今回の試合、ただの思いつきの参加じゃない気がしてな。少しお節介させて貰った」
「イオルク……」
クリスは軽く笑う。
「試合が終わって落ち着いたら、イオルクには話すよ」
「何のことか分からないけど……、了解だ」
イオルクはクリスの肩を叩くと武舞台を下りて、キリとテンゲンの居る観覧席に向かった。
「ふぅ……」
クリスは、一息つくと真剣な顔に切り替わった。
…
観覧席――。
イオルクが観覧席に着くと、キリが隣の席を叩く。イオルクは軽く会釈をして隣の席に座った。
「クリスと何を話しておったのじゃ?」
「当然、勝つ算段を」
イオルクの言葉に、キリは満足気に笑う。
「良い心掛けじゃ」
テンゲンも話しに混ざる。
「しかし、我らアサシンの技の前に、魔法使いが挑むのは無謀な気がするがのう」
「それでも、クリスはやるでしょう」
「随分と評価が高いようじゃが?」
「きっと、俺達の予想を超えると思っています」
テンゲンもキリも、イオルクが嘘をつくとは思っていないが、大方の予想を覆すことは出来ないと思っていた。
しかし、そんなことより……。
((しゃべり方が中途半端なままだな……))
久々の本気モードに、イオルクの言葉遣いが、またおかしくなった。
そして、武舞台には仮面をつけた対戦者が現われた。