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材料編  49 【強制終了版】

 ドラゴンテイルの城の客間――。

 イオルクがテンゲンに解放され、項垂れて部屋に戻ってくる。

 酒の入ったテンゲンを相手にするのは、思いの他、重労働だった。クリスの看病をしなくてはいけないと言い訳をして、やっとの思いで抜け出ることが出来た。

 なのに自室の襖を開けた時、先ほど嫌というほど嗅がされた酒の臭いが充満している。イオルクが青筋を浮かべて向けた視線の先では、クリスが大の字でだらしなく寝ていた。

「この馬鹿ヤロウが! 心配してテンゲンさんを巻いて来たら、テメェは酔っ払ってご機嫌かよ!」

 イオルクは舌打ちすると、隣の布団に横になる。

「俺も、もう寝る! 馬鹿らしい!」

 イオルクはイライラしたまま、その日は眠りに着いた。


 …


 翌日――。

 アルコールを未だ分解中のクリスが大欠伸をして目を覚ます。

「頭、痛い……。迎え酒で中和するか……」

 その独り言に、速攻でイオルクから突っ込みが入る。

「ふざけるな」

「おお、イオルク。おはよう。早いな」

「お前は、朝からご機嫌だな?」

「勝利の美酒を浴びるほど飲んだからな……、奢りで」

「あまり集るなよ」

 ちなみにイオルクも、昨日はテンゲンに奢って貰っている身である。

 寝覚めの会話を終えて一息つくと、イオルクはクリスに本日の予定を伝える。

「実はさ。テンゲンさんに呼ばれているんだ」

「またかよ」

「ちなみに、キリさんも来る」

「行きたくねぇな」

「まあ、今回は大丈夫だと思う。それに、もしかしたら、伝説の武器を見れるかもしれない」

「マジ?」

 イオルクが頷く。

「確か……。この国の伝説の武器って剣だったよな?」

「そうだ。俺が一番見たい武器でもある」

 イオルクの戦闘スタイルを知るクリスは、以外そうにイオルクを見る。

「お前、武器なら何でもいいんじゃないのか?」

「それはそうなんだけど……。ここのアサシンの武器を覚えているか?」

「クナイとかってヤツだろ?」

 イオルクが頷く。

「じゃあ、何で、伝説の武器がクナイじゃないんだ?」

「ん? ……確かに」

「この国の長物は刀の類なんだ。刀は騎士剣と違い、切れ味重視のため薄い。もし、その薄さを補える強度を補強できる技術があるなら、全ての武器に応用できる」

「なるほどね」

 クリスは顎に手を持っていった。

「興味が湧くだろう?」

「少しな」

「少しだけか?」

「オレは鍛冶屋じゃなく魔法使いだしな。魔法の指南書でもあれば興味も湧くんだがな。それに――」

 クリスは力強く拳を握った。

「――オレは、お礼の20万Gの方が興味ある!」

「お前な……」

「ついでに付き合ってやるからよ。行こうぜ」

 イオルクは額をコリコリと掻いたあと、腰を上げる。

(昔は、俺だけがいい加減なことを言う担当だったのにな)

「じゃあ、行くか」

 クリスも腰を上げる。

「顔ぐらい洗ってから行かないと失礼だと思うぞ……」

「オレは効率的だから、朝飯食った後で歯を磨いて顔を洗う派なんだ」

「その体に染み込んだアルコールを、少しは誤魔化す気がないのか?」

「あの爺さんなら、笑って許してくれるだろ?」

(……許してくれるかもしれない)

 しかし、それに甘えていいわけもない。

「テンゲンさんは、兎も角。キリさんは拙いんじゃないか? 気に入らないと、お金の受け渡しなしとか――」

「顔を洗っていくか」

「……クリスって、案外制御し易いよな」

 二人は顔を洗ってから、テンゲンの待つ部屋へと向かうことになった。

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