ドラゴンテイルの城の客間――。
イオルクがテンゲンに解放され、項垂れて部屋に戻ってくる。
酒の入ったテンゲンを相手にするのは、思いの他、重労働だった。クリスの看病をしなくてはいけないと言い訳をして、やっとの思いで抜け出ることが出来た。
なのに自室の襖を開けた時、先ほど嫌というほど嗅がされた酒の臭いが充満している。イオルクが青筋を浮かべて向けた視線の先では、クリスが大の字でだらしなく寝ていた。
「この馬鹿ヤロウが! 心配してテンゲンさんを巻いて来たら、テメェは酔っ払ってご機嫌かよ!」
イオルクは舌打ちすると、隣の布団に横になる。
「俺も、もう寝る! 馬鹿らしい!」
イオルクはイライラしたまま、その日は眠りに着いた。
…
翌日――。
アルコールを未だ分解中のクリスが大欠伸をして目を覚ます。
「頭、痛い……。迎え酒で中和するか……」
その独り言に、速攻でイオルクから突っ込みが入る。
「ふざけるな」
「おお、イオルク。おはよう。早いな」
「お前は、朝からご機嫌だな?」
「勝利の美酒を浴びるほど飲んだからな……、奢りで」
「あまり集るなよ」
ちなみにイオルクも、昨日はテンゲンに奢って貰っている身である。
寝覚めの会話を終えて一息つくと、イオルクはクリスに本日の予定を伝える。
「実はさ。テンゲンさんに呼ばれているんだ」
「またかよ」
「ちなみに、キリさんも来る」
「行きたくねぇな」
「まあ、今回は大丈夫だと思う。それに、もしかしたら、伝説の武器を見れるかもしれない」
「マジ?」
イオルクが頷く。
「確か……。この国の伝説の武器って剣だったよな?」
「そうだ。俺が一番見たい武器でもある」
イオルクの戦闘スタイルを知るクリスは、以外そうにイオルクを見る。
「お前、武器なら何でもいいんじゃないのか?」
「それはそうなんだけど……。ここのアサシンの武器を覚えているか?」
「クナイとかってヤツだろ?」
イオルクが頷く。
「じゃあ、何で、伝説の武器がクナイじゃないんだ?」
「ん? ……確かに」
「この国の長物は刀の類なんだ。刀は騎士剣と違い、切れ味重視のため薄い。もし、その薄さを補える強度を補強できる技術があるなら、全ての武器に応用できる」
「なるほどね」
クリスは顎に手を持っていった。
「興味が湧くだろう?」
「少しな」
「少しだけか?」
「オレは鍛冶屋じゃなく魔法使いだしな。魔法の指南書でもあれば興味も湧くんだがな。それに――」
クリスは力強く拳を握った。
「――オレは、お礼の20万Gの方が興味ある!」
「お前な……」
「ついでに付き合ってやるからよ。行こうぜ」
イオルクは額をコリコリと掻いたあと、腰を上げる。
(昔は、俺だけがいい加減なことを言う担当だったのにな)
「じゃあ、行くか」
クリスも腰を上げる。
「顔ぐらい洗ってから行かないと失礼だと思うぞ……」
「オレは効率的だから、朝飯食った後で歯を磨いて顔を洗う派なんだ」
「その体に染み込んだアルコールを、少しは誤魔化す気がないのか?」
「あの爺さんなら、笑って許してくれるだろ?」
(……許してくれるかもしれない)
しかし、それに甘えていいわけもない。
「テンゲンさんは、兎も角。キリさんは拙いんじゃないか? 気に入らないと、お金の受け渡しなしとか――」
「顔を洗っていくか」
「……クリスって、案外制御し易いよな」
二人は顔を洗ってから、テンゲンの待つ部屋へと向かうことになった。