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材料編  52 【強制終了版】

 ドラゴンテイルからドラゴンチェストに続く砂漠――。

 イオルクとクリスは黙々と北東を目指していた。竜の尻尾の付け根と胴体の付け根の砂漠は、北東を目指すのが一番早く抜けられる。また、ドラゴンテイルには砂漠前に酒場や宿屋がなかったのも早く抜けるための理由だ。

「この国は、本当に余所者に優しくないよな?」

「ああ。テンゲンさん達に貰った水と食料で抜けるしかない……。水はクリスの魔法で何とかなるか」

「そんなことねぇよ。砂漠の早抜けは、魔法使いには辛過ぎるぞ」

「俺は、もっと辛い。黄雷石がリュックに目一杯詰まってるからな」

「聞いただけで、だるくなってきた」

「だな」

「違う話をしようぜ」

「何かあるか?」

「任せる」

 イオルクが少し考える。

「なあ。何で、モンスターって居ないんだ?」

「は?」

「いやさ。ハンターになったら、モンスターを狩ってお金に替えれるって言うから、旅の路銀稼ぎにハンターになったんだけど、砂漠でしか出会ってないんだよな」

 クリスは溜息を吐く。

「お前、いつの時代の話をしてるんだ? モンスターがわんさか居たのは、大昔だ」

「そうなのか?」

「そう。何で、いきなり激減して居なくなったかは分からんが、大暴れしたりしてんのは砂漠の甲殻モンスターぐらいだ」

「じゃあ、砂漠以外には居ないのか?」

 クリスは、また溜息を吐く。

「……何で、戦う専門のお前が知らないんだよ?」

「ドラゴンレッグの兵士とか盗賊団ばっかりを相手にしてたし、基本、必要のない情報は無視してたからな」

「お前は興味が湧いた時にしか情報を集めないのか……」

「子供の頃、本なんかに載っていたモンスターの絵はよく見てたよ。だから、最初は世界中を回ればモンスターを見放題かもしれないと思ってた」

「そんなに溢れ返ってたら、人間全てが狩られるだろ……」

「そのことに気付いて『違うんだなぁ』と感じていた」

「まあ、時々、目撃情報もあるから、完全に絶滅はしていないんだろうけど、人間との境界を守ってるんだから、好き勝手に乱獲してはいけません」

「…………」

 イオルクは視線を斜め下に背けた。

「何で、黙るんだよ?」

「乱獲しちまった……」

「は?」

「ドラゴンヘッドの砂漠で蠍のモンスターを路銀稼ぎに……」

「話を聞いてたか? 砂漠のモンスターは大暴れしてるんだ」

「じゃあ、セーフか?」

「セーフだ」

 イオルクは胸を撫で下ろす。

「じゃあさ。ハンターになっても、モンスター倒して路銀を稼ぐって難しいのか?」

「難しいな。確かに砂漠なんていう悪条件でモンスターの固い外皮を手に入れるのは骨が折れるから売り物にはなるけど……、盗賊捕まえる方が稼ぎになるな」

「知らなかった」

「これだから、騎士団に入っていたエリートは」

「騎士団に居たけど、エリートじゃないけどな」

「微妙な奴め」

 クリスは舌を打った。

「ちなみにさ。ここでモンスターに出くわしたら、どうするんだ?」

「数が少なきゃ、無視。多けりゃ、大技使って一網打尽だな」

「後者は、俺には無理だな」

「魔法はいいぞ」

「まったくだ。ドラゴンヘッドを出た時、昨日まで使ってた財布を持って来てさ。お金を詰め忘れたから、砂漠で仕方なく乱獲したんだよ」

「相変わらず馬鹿だな」

「日中の暑い中を駆けずり回って、最後は、何処に居るか分からなくなったんだ」

「そのあと、死ぬのか?」

「ここに生きてるだろうが! ……倒したモンスターを運ぶ巨鳥を呼んで、飛び去って行く方向から大体の目的地を割り出したんだ」

「なるほどね。……ん?」

「どうした?」

「その巨鳥に、お前の荷物を運んで貰えば良かったんじゃないか?」

「……運んでくれるのか?」

「確か、そういうサービスもやってるはずだぞ」

「今から呼ぶか?」

「今更だな。砂漠に入って一日半経ってるだろ? あと、二時間ちょっとで抜けるんじゃないか? そんだけの距離を運んで貰うのは勿体なくないか?」

「そうだな……。何か、損した気分だ……」

「オレは、お前ががっかりしているのを見て気分が晴れたけどな」

「思ってても口に出すな! そして、改めてお前の性格が歪んでいるのを認識した!」

 クリスは声を出して笑う。

「あと少しだ。さっさと行こうぜ」

「……ったく」

 二時間後……。

 イオルクとクリスは砂漠を抜けると、最初の町の宿で久々に通貨を使用して一泊することにした。

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