娼館では、残ったモジューラがクリスとイオルクに飲み物を出していた。
「あんた達、本気だったんだね」
「ああ」
「特にクリスには吃驚したよ」
「ちょっとな。上の三姉妹を見たら、やる気が出てきちゃってね」
モジューラは、エルフの姉妹を思い出す。
「あの子達は、街を離れるだろうね」
「そう思うよ。だけど、少しだけ手伝って貰おうと思ってる」
「無理させるんじゃないだろうね?」
「まさか。魔法を覚えて少し手伝って貰うんだよ」
「魔法? そういえば、あの子達は魔法を使えないねぇ」
「教えて貰う前に捕まったんだと」
「そうかい……」
「とりあえず、刺青を取る魔法を覚えてから、街の中で刺青を持っている者から刺青を取る手伝いをして貰うつもりだ。オレだけじゃ、手が回らない」
「あんた、そんな技術を習得しているのかい?」
クリスはコップを傾けながら頷く。
「イフューに刺青が刻まれるのは分かっていたからな。旅の途中で習得するつもりで修行してたんだよ」
「尊敬するね」
「愛のなせる業だな」
「うるせぇ!」
モジューラは、イオルクとクリスを見て微笑む。
「いいコンビだよ」
「「ん?」」
「何でもないよ……」
イオルクが飲み物を一気に煽ると立ち上がる。
「ヒルゲの屋敷に戻るぞ」
「何でだ?」
「あそこに死体を放置したままだ。腐る前に処分しないと」
「そういうことか。付き合うぜ。エンディに言えば、処分する場所なんかも教えてくれるだろうし」
「物騒な話を、こんなところでしないで貰いたいもんだね……」
イオルクとクリスは笑って誤魔化す。
「じゃあ」
「また、明日」
イオルクとクリスは、ヒルゲの屋敷へと戻って行った。
「本当に変わりそうだね……」
モジューラは変わり行く街の未来を少し想像すると、微笑んで後片付けを始めた。
…
翌日、ヒルゲの屋敷――。
イオルク達に倒されたハンターの死体は、エンディの指示で屋敷の傭兵により片付けられ、エントランスは綺麗に清掃もされていた。
そして、イオルクとクリスは用意された朝食を食べ終えると、早速、エンディの案内で屋敷の奥に隠された地下へと向かうのであった。
「広過ぎるだろ……」
クリスの溜息交じりの声が地下の空洞で響く。
イオルクもクリスと同じ気持ちだったが、同じ言葉を繰り返す必要もないと、自分の分の驚く声は飲み込み、腰に手を当てながら呟く。
「さて、どうしようかね?」
「まず、頂くものを頂こう」
「ん?」
「向こう側にある、金になりそうなものを全部こっちに持って来るんだよ。で、奴隷を戻して爆破だ」
「さすがだな。取れるものを全て奪う根性は」
「この三年で染み付いたからな。イフューを取り戻しても、早々抜けねぇよ」
「まあ、今回は賛成だ。ヒルゲにピン跳ねされてた街の人の利益をドラゴンレッグから頂いて賄うのも悪くない」
クリスは深く頷く。
「そうだ。世界中に迷惑掛けてんだから、これぐらいやっても罰は当たらねぇ。もしバレても、そん時はヒルゲのせいにしてアイツを差し出せば、何の問題もねぇ」
「アイツに、そういう使い道があるのか……」
「ただの思い付きだがな」
(思い付きか……)
イオルクは頭を掻いて気を取り直す。
「兎に角、アイツは放っとこう。やることをやらないと」
「だな。頂くものを頂いちまおう。向こうから運び込むのも、これだけの空間があれば問題ない」
地下は荷物を運ぶためか、奴隷を全てを収容するためか、かなりの大空間が確保されている。人が百人入って、大量の物資をここに置いても余裕があるぐらいだ。
何本か設置されている松明の灯りを頼りに、イオルクは空洞を見回しながら感想を口にする。
「……空気が淀んでる。長居をしたくないってのが本音だな」
「ここに女の子が居たって信じられるか? イフューは、ここに居たんだ」
「……正直、信じたくないな」
イオルクとクリスが、ここでの労働を想像していると、エンディが二人のところに訪れた。
「ここでは、貴方達が支配者です。指示をください」
クリスは腕を組むと、眉をハの字にしてエンディに問い掛ける。
「その言い方、直らないのか?」
「今更、無理だと思います」
クリスは溜息を吐くと、指示を貰いに来たエンディに頼む。
「悪いけど、命令の仕方が今一分からない。向こうの物資を持って来るように伝えてくれないか?」
「分かりました」
踵を返そうとするエンディに、イオルクが付け加える。
「もう一つ。今、人手がここに居る人達だけだから、彼らに頼んで荷物の整理も頼めるかな? 多分、そういう仕事は、俺達が指示を出すよりも慣れていると思うから」
「分かりました。指示を出しておきます。あと、昨日話されていた白剛石は、別に管理すれば、よろしいのですよね?」
地下空間にどれだけの物資が運び込まれるのか分からないが、ドラゴンレッグに居る奴隷も回収するとなると、ここは人と物で溢れ変えるような気がする。
イオルクは地下と屋敷を繋ぐ近くの一角を指差す。
「作業の邪魔になりそうだから、あそこへ一塊に避けといてくれるか? 俺がハンターの営業所に順次運んじゃうから」
「奴隷にやらせましょうか?」
「いや、自分のことだから自分でやるよ。それと……、奴隷はやめないか?」
「では、何と呼びますか?」
「そうだな……。お手伝いの人は?」
クリスが横から口を挟む。
「それだと、まるで家事手伝いみたいだ。男の職場にそれはねぇよ。普通に労働者でいいんじゃないか?」
「そうしよう」
「かしこまりました」
エンディから奴隷――もとい、労働者達に指示が出ると、一糸乱れぬ呼吸で労働者たちは仕事に従事し始めた。
それを見たイオルクが、クリスに話し掛ける。
「この連係プレイっていうかチームワークは、一種の財産だと思わないか?」
「どういうことだ?」
「単純な流れ作業なんかを延々と繰り返すのが得意そうだ」
「そうだな。それに鉱山で働くのは力仕事だから、皆、いい体付きをしてる。ティオンの手伝いも、直ぐに出来そうだ」
イオルクはクリスをじっと見る。
「何だよ?」
「……案外、イフューは凄い力持ちだったりして」
「…………」
クリスはコリコリと額を掻く。
「有り得なくはないな……。あって欲しくないけど……」
その後、特に見守っている必要はないが、イオルクとクリスは初めて見る作業に終始見入ってしまった。
そして、その間に隅へ避けられる白剛石を、イオルクはハンターの営業所へと運び続けた。
…
ドラゴンレッグ側の物資の運搬は、午前中から始めてお昼を過ぎても終わらず、全て運び終えるまでに、更に一時間ほど掛かった。
その後、エンディの指示でドラゴンレッグで働いている労働者達の回収が始まった。
「明日の昼頃には、全員、こちらに移動できるはずです」
「了解」
イオルクは、エンディの報告に返事を返すと、手狭になった地下空間に目を向ける。
地下の空洞は整理された物資で半分以上埋まり、ここで整理をしてくれた労働者の人数で一杯になり始めていた。
「これから回収した人も増えるし、ここに居ると全員窒息しそうだ。上の屋敷に上げてくれないか?」
「上げられるのですか?」
「問題あるの?」
「こんな汚い連中をですか?」
「…………」
言い方は悪いが納得してしまい、イオルクは頭を掻く。
「確か、この屋敷には馬鹿みたいに広い大浴場があったよな?」
「はい」
「回収した者から風呂に直行!」
エンディは少し驚いた顔をした後に、笑みを浮かべる。
「かしこまりました」
エンディが労働者達に指示を出しに向かうと、クリスがイオルクに声を掛ける。
「風呂場は?」
「一階の左の奥だ」
クリスが労働者達より先に地下を上がろうとする。
「何する気だ?」
「風呂を沸かすんだよ。あんなの掛け流しでお湯を換えないと、次の奴らが使えないだろ」
「ああ、なるほど」
「それに服も買い替えないと、また汚い服を着ることになる」
「そうだった」
「ついでにイフュー達も呼んで手伝って貰う」
「何を?」
「服屋で服の買占め。治療をするかもしれないから、ついでに回復魔法も覚えさせる」
「へ~」
「そして、メインである刺青の除去を習得させる」
「……お前、本当に助ける対象の女の子も利用するのな?」
「当たり前だろ。この街で高難度の刺青除去の魔法を早期習得できるのは、エルフのイフュー達しか居ないんだから」
「そりゃそうだけど……」
「じゃあ、行ってくる」
「素晴らしい行動力だな」
イオルクは、クリスを黙って見送った。
…
ヒルゲの屋敷の大浴場――。
クリスにより、賭け流しのお湯が浴槽に流され、服の買占めなどが終わった頃。風呂場に通された労働者達は戸惑ってイオルクを見ていた。
一人の労働者がイオルクに声を掛ける。
『あの……、我々が使って良いのでしょうか?』
イオルクは頷く。
「ああ、今までの垢をしっかり洗い流してくれ。石鹸も替えの服もあるからさ」
『はあ……』
「別にどっかに売ろうってわけじゃないんだ。一度、全員上にあげる。そして、街ぐるみで話をするんだ。その時、街の人達と対等で話をするために、身なりはきちんとしておこう」
『我々も加わるんですか?』
「ああ。……髪も髭も伸びてるな。見習い騎士式のざっくりな方法で、俺がやるか」
イオルクは奥に居る労働者にも聞こえるように声を張る。
「風呂が終わった人は、出口のエルフの女の子から服を受け取って、俺のところに来てくれ! 髪と髭を整える! ただし、髪型が全員同じでも文句を言わないこと!」
こうして、イオルクは労働者達の風呂への誘導と頭髪類を整える役を受け持った。ちなみに、髪も髭も手持ちの武器で、ざっくりと切るのがイオルクの言う見習い騎士式。
風呂場の出口では、イフューが服を渡す役をしている。理由は、彼女の目が見えないことと、それを労働者達が知っているためである。
…
一方、クリスはお湯を作る係を担当する。
噴水から橋板を渡して浴槽に繋ぎ、風呂へと続く途中に鉄製の橋板を一部設け、ファイヤーボールを詠唱して要らない木材や木の断片を燃やして、水をお湯に変える。
エルフのケーシーとエスは、そのクリスの横で魔法を学ぶことになっていた。
「いいか? 彼らの刺青も取ってやらなければいけないが、オレだけじゃ手に負えない。そこで、この街で一番の魔法の素質があるエルフの力を貸して欲しい。回復魔法を覚えて、イフューに使った技術を習得するんだ」
ケーシーが質問する。
「人間は手伝わないのですか?」
「手伝えない……が正解だな。回復魔法は詠唱する攻撃魔法より高度なんだ。呪文を唱えないから、体の感覚が全てになる。また、これは遺伝的な魔法の適正も表われやすい。オレも物にするまで時間が掛かった。だが、今回は時間がないから、エルフであるケーシー達の力が必要だ」
「必要……」
「ああ、必要だ」
ケーシーは少し嬉しそうな顔をする。
「そうやって、面と向かって必要と言われたのは初めてです。……何か嬉しい」
「じゃあ、手伝ってくれるか?」
「ええ」
「ありがとう。……エスは?」
「もちろん」
「ありがとう」
クリスは要らない木材を火に加えながら説明をする。
「まず、体に魔力が入って、出て行く時に魔法に変わる感覚を覚えてくれ。基本、魔法は外から魔力を取り込んで、それを目的のものに変えるだけなんだ。それを呪文というものでサポートしている。呪文を使うと勝手に体で取り込んで結果を出す。細かいことを言えば、もっとあるが時間がない。そういうもんだと思ってくれ。そして、エルフである二人は、一族の遺伝上適性が高いため、呪文を唱えただけで必ず発動する。出したい方向――その木材に火を点けることを意識して手を翳して呪文を唱えてくれ」
ケーシーとエスが頷く。
「じゃあ、オレの紡ぐ呪文を復唱して」
クリスに続いて、ケーシーとエスが呪文を紡ぐ。すると、クリスの言った通り、結果は直ぐに実証された。
二人のファイヤーボールは、しっかりと木材に向かった。
「上出来だ。どうだ? 感覚は残っているか?」
「ええ……。言った意味が少し分かる。私は、この使い方を知っている気がしました」
「あたしも」
クリスは溜息を吐く。
「オレは、感覚が分かるまで何十発と撃ったんだけどな」
「そうなの?」
「ああ、魔法を使う技術が遺伝に影響している証拠だな」
ケーシーとエスは、自分の中に流れる感覚に不思議なものを感じていた。
「じゃあ、回復魔法に移ろう。多分、魔法に対する感覚が敏感な体質だから習得も早いはずだ。オレが両手で回復魔法を使ってみせる。オレの手を片方ずつ握って、中で作られている魔法を感じ取ってくれ。今度は、それを具現化するんだ。ただし、一度じゃ分からないと思う。だから、分からなくなったら、さっきのファイヤーボールを撃って魔法を作る感覚を思い出す。そして、回復魔法を作る感覚に再挑戦。これの繰り返しだ」
ケーシーとエスが頷くと、クリスは両手を差し出して回復魔法を発動させる。
回復魔法を発動するクリスの右手をケーシーが掴み、左手をエスが掴むと、二人はクリスが作りあげる回復魔法の感覚を得ようと目を閉じて集中する。
暫くして二人が手を放すと、二人は直ぐに回復魔法を掛けようと試みた。
「魔力が集まらない」
「私も」
最初の回復魔法の試みは、残念ながら失敗に終わった。
「初めからは無理さ。オレ達人間は回復魔法を諦めて、攻撃魔法の呪文だけしか使えない奴も多いんだから」
「そうなのですか?」
「ああ。焦らずにやっていこう」
ケーシーとエスが頷く。
「でも、いきなり回復魔法を使おうとしたってことは感覚を掴んだってことだよな。もしかしたら、あとは魔力の取り込みの感覚だけかもしれない。ファイヤーボールを撃ってみよう。さっきは魔法全てに意識を集中したけど、今度は取り込むところに集中してみてくれ」
「「分かったわ」」
クリスの方は、こうしてエルフの少女二人に魔法の伝授をしながら、お湯に変える作業を行なっていた。
…
夕方――。
労働者達の入浴が完了する。
と言っても、本日、回収した労働者の人数は全体の半分の五十人近くでしかない。明日、残りの半分を回収し、今日と同じく風呂に入って貰う予定だ。ちなみに回収された全ての労働者達は、ヒルゲの屋敷を宿泊施設として暮らすことになっている。
そして、その入浴を済ませた労働者達だが、一堂に集められる場所として、イオルク達が戦ったエントランスに屋敷の中から机と椅子を用意して座って貰っている。ようやく今から、労働者達に状況を説明することになるのだ。
約五十人を風呂に入れるという大仕事を終えたクリスが説明を始める。
「久々にサッパリしたところで、オレから説明をしたいと思う。ヒルゲはこの街の支配者から退き、今はオレが支配者になっている。やり方はヒルゲと変わらず、力でヒルゲから立場を奪い取った」
労働者達には『今までと変わらないのか……』という諦め、『また強制労働を強いられるのではないか?』という不安が広がる。
「自己紹介をしておく。この街のスラムからの出で、クリスだ」
――スラムの出身。
この言葉に労働者達がざわめき出す。
「そして、オレに協力してくれたダチ――イオルク・ブラドナーだ」
クリスは隣に居たイオルクを紹介する。
「皆は支配者が代わって、これからのことが心配だと思う。実は、オレも街を取り返したはいいが、明確な目標――ゴールというものが見えていない。何より、自分勝手に街を変えてしまったらヒルゲと変わらない。オレはスラムで育ったからこそ、あの生活をしたくない。簡単に言えば、普通の生活がしたい。そして、普通に生活するために奴隷という立場から労働者という立場に戻し、対等に生活を出来るようにしていきたい」
労働者達は突然の言葉に戸惑っている。自分達の立場が一転するのだから、当然と言えば当然である。直ぐに信じられないし、納得もしない。
「まあ、現状はそんなところだが、皆の立場もある。ここに居る中には無理やりに家族と離れ離れにされた者や、自分の意思ではなく、この街へ強制的に連れて来られた者も居るはずだ。その皆に街の手伝いをしろっていうのは、都合のいい身勝手な話だ。それに正直に言えば、新たに増える労働者をこの街が直ぐに受け入れられるかというと難しい。そこで、今からの提案を考えて欲しい」
クリスがイオルクを見ると、イオルクは頷く。
クリスは自分の意見を支持してくれる親友に後押しされると続ける。
「まず、奴隷の身分解放。刺青の除去をする。次に皆の行き先だ。街を出て行くのもいい。ここに残り、街の再興を手伝ってくれてもいい。他に意見があれば、街のリーダーと検討する」
労働者達は、ざわざわと相談を始め、クリスは大きく息を吐くと暫く考える時間を与えるために黙る。
そして、ざわつきが静まり始めると、一人の労働者が手をあげた。
「何だい?」
『その、他の街に家族が居るんだ。だけど、そこまで行く手段――先立つものがない』
「そうか……。今までの給金はヒルゲに……。貴重な意見だ。その話は、相談してみる。何とかする形で努力する。だから、自分の行きたい道だけは決めといてくれ」
『ああ……』
クリスは、すまなそうに話し掛ける。
「悪いな、頼りない支配者で。こんなの初めてなんだ」
『それは分かるよ。俺だって、同じ立場になったら大混乱だ』
「そう言って貰えて助かるよ。一応、資金の捻出は、ヒルゲの屋敷の物を売っぱらっちまえばいいと思ってるからさ」
『いいのか?』
「構わないんじゃないか。正直、芸術なんか分からんし、訳の分からん絵や銅像なんかも要らん」
労働者の何人かが、クリスの言葉に笑いを漏らす。
それが安心させたのか、別の労働者から質問が出る。
『最初に言っていた刺青の除去は?』
「オレが習得してる。回復魔法とナイフで切り取る。さっき服を渡してくれたエルフの子の刺青は、除去に成功している。最初、ちょっと痛いぐらいだな」
労働者から、どよめきが起こる。
「さすがに一人だとしんどいから、この街のエルフの子に手伝って貰う予定だ。多分、スラムにも同じ様な人間も居るだろうし、そっちでも使う予定だ。他には?」
その後、些細なものから今後のことについての重要なものまで質問があがり続けた。
クリスは、一人一人聞いていたら埒が明かないと途中で切り上げる。
「悪いけど、聞き役がオレだけだから、全部答え切れねぇ。今から紙と鉛筆を配るから、名前と今後の希望を書いてくれ。統計を取ってリーダー達と相談する」
労働者達が頷くと、クリスは続ける。
「じゃあ、書けた者からオレに紙を渡して、休養を取ってくれ。食事も用意してる。寝るのは、ここになるかな? 明日増える労働者を合わせた百人分の寝床の用意は、直ぐには無理だから我慢してくれ」
寝る場所についても、労働者達は納得してくれた。
「あと、暫くうるさくなるかもしれないけど、そっちも我慢してくれ。今度は、スラムの連中を連れて来なくちゃいけないんだ」
『スラムの人間も?』
「街ぐるみで何とかするつもりなんでな。同じように説明会だ」
この若い支配者は、本当に街を変えようとしているのかもしれないと、労働者達は思い始めていた。