延長した会合――。
街を出る人間がドラゴンチェスト南東から各地に散って行く計画は、ほとんどの者がドラゴンチェストの別の街に帰るが、中にはドラゴンウィングの北西など、かなり遠いところを要求する者も居る。なるべく同じ方角に帰る人間を纏め、護衛に付けるハンターの人数も減らしたい。
残ったメンバーはアンケートから地道に統計を取っていき、時間を掛けて各地に散る人々の人数と経路を割り出し、必要になるハンターの人数を纏め切った。
その過程で記された地図には世界中に散って行く様が、幾通りもの矢印で描かれていた。
その地図を見て、モジューラが話し出す。
「やっぱり、ドラゴンレッグ出身者は居ないね。あそこの国から出て来た人間っていうのを見たことがない」
モジューラの言葉に他の皆も頷く。
ファンクは自分達の町とドラゴンレッグを指でなぞる。
「しかし、地下で繋がっていた。完全に独立しているとも言い切れない」
「そうなんだよね……。何のために繋がっていたんだか……」
「それは鉱石の販売だろう。この街から鉱石を売って資金を得ていたのだから」
「それだけかねぇ」
モジューラとファンクの会話を聞いて、考えさせられたイオルクが疑問を口にする。
「関係ないことだけど、この街から鉱石がかなり売られてたんだよな?」
ファンクが『そうだ』と答える。
「今後、どっかで鉱山を開拓しないと需要と供給のバランスが崩れないか?」
「確かに……。今後はドラゴンウィングからの仕入れが中心になるだろう。あそこは土地が広くて多くの鉱山もある」
クリスが口を挟む。
「それよりも、おかしくないか? ドラゴンレッグは、戦争を仕掛ける側だよな? 武器の材料になる鉱石をドラゴンチェストで売ったら、その鉱石で自分達の国と戦う人間が武器を造っちまうじゃねぇか? 普通、供給を止めないか?」
「それも変だな」
イオルクが別の意見をクリスにあげる。
「じゃあ、他国の鉱石を売らせないで自国の鉱石を売って資金にしてたとかは?」
「それがあるか。ヒルゲが上前を撥ねてたんなら、十分に考えられる」
モジューラは少し気になることが頭を過ぎると、腕を組む。
「ヒルゲとドラゴンレッグが繋がっていたのか……。一体、いつから繋がっていたんだろうね? 何だか怖くなってきたよ」
ファンクとモジューラに、イオルクが質問する。
「全然、気付かなかったのか?」
「気にしている余裕もなかったな。今だからこそ、鉱石の出所を話せる。街の噂では、秘密の鉱山をヒルゲが所有しているのではないかという話が、ほとんどだった」
「私もだね。女の奴隷の管理が仕事だったから、男の奴隷にまで気が回らなかったよ」
イオルクは、しみじみと呟く。
「この街も大変だな。今後、何で生計を立てるんだ?」
それに対して、ファンクが再び地図を指す。
「今までヒルゲにより、売り買いの制限が成されて規制もあったが、その規制が解かれればドラゴンチェストだけの商売だけじゃなくなる――この街は交易のポイントになるのだ。ドラゴンアームとドラゴンテイルを結ぶ場所に位置するこの街は、今後、発展するはずだ」
「でも、ドラゴンテイルの人間って閉鎖的じゃなかったか?」
「いや、ドラゴンアームの神聖な水は、全ての国が行事の催しなどで使用する。それはドラゴンテイルも例外ではない」
「そうなんだ」
「世界の常識だぞ」
クリスが指摘する。
「イオルクは、少し世間知らずなところがあるんだ。騎士だったり、貴族だったりで。そのくせ、時々、オレらの知らないことを知ってたりもする」
「騎士だったり、貴族だったりでか?」
「ああ」
「それで、世界中旅して回ってるってのもあるな」
「ほう」
ファンクは感慨深げにイオルクを見た。
「しかし、騎士だったら、逆にそういう貴重な水を取り扱う場面に立ち会うのではないか?」
「興味なかったからな。水なんて、どれも同じだと思ってたし」
「……君の上司は苦労しただろう?」
「苦労掛けた記憶しかない」
ファンクは呆れて溜息を吐き、モジューラは可笑しそうに笑っている。クリスは、もう慣れたらしく軽く笑っている。
ファンクが気を取り直して話を戻す。
「雑談でドラゴンレッグのことが少し分かったのはいいが、ここまでにしよう。街を出て行く者のための必要経費の算出だ。細かい計算は後になるが、300万~500万Gぐらいは掛かるだろう」
「最高500万Gの用意か。まあ、上手くいけば300万Gで済むから、200万G余計に余るか」
「いや、出来れば500万G全てを提供して貰いたい」
「ん?」
「恐らく収穫期になるまで食糧問題は解決しない。街の利益の一つであった鉱石の販売や裏で売っていた商品がなくなり、売り上げは暫く落ちる。別の商品を売って、それが定着するまで利益は減るだろう。つまり、別の特産品なり、宿場町として定着させるなりするまで、耐える時期が発生するということだ」
「なるほど……。白剛石返そうか?」
「要らないな。売れもしない鉱石など」
「…………」
イオルクは微妙な顔で溜息を吐いた。
「500万Gは提供するよ。正直、街を興すのが簡単だと思ってたツケだと思ってるから」
「助かる」
「それにしても、ファンクって堂々と言うよね?」
「商人だからな。現実主義なのだよ」
イオルクは納得すると話を終えた。
そして、イオルクに代わり、クリスが纏めに入る。
「色々と話は逸れたが、三、四日で街を出る者の事柄は終わらせよう。刺青の除去、資金を渡す額、ハンターの依頼。イオルクは、手紙も書き忘れるなよ」
「分かった。あ、そうだ」
「何だ?」
「テンゲンさんとキリさんにも出しとこう。この街をなるべく通って貰って、金を落として貰うんだ」
「なるほど……。一ついいか?」
「いいよ」
「住所分かるか? それと、あの国に手紙届くのか?」
「そう言えば……。城勤めしてた時、イチさんがお仲間に直接手渡して、その人が持って行っていたような気が……」
「つまり?」
「自分で届けないと届かないと思う」
「イオルクが行けよ」
「何で、俺なんだよ?」
「刺青の除去が終わってないから。それに労働者達の農耕器具の量産は、まだ先だ。明日の午前中にでも手紙を書いて、イオルクはドラゴンテイルに行って来い」
「まあ、行くけど……。もう少し、頼み方ってのがあるんじゃないか?」
「お願いします。行って来い」
「聞いたことのない頼み方を言いやがる」
クリスは無視すると話を締める。
「以上だ。明日、オレは刺青の除去を終了。ファンクとモジューラで資金の調整と街の修繕を開始する準備。イオルクは、ノース・ドラゴンヘッドへの手紙を書いてから、ドラゴンテイルに行く」
「お金は?」
「行く前に声掛けてくれ。オレの方の登録証に500万G入れとく」
「分かった」
イオルクとクリスの会話を聞いて、モジューラがまた呆れる。
「あんた達、それで信頼関係が築けてるんだねぇ」
イオルクとクリスは首を傾げる。
「何だかんだで、そんな大金をポンと渡すんだから」
イオルクは乾いた笑いを浮かべる。
「……慣れだな」
「慣れ?」
「クリスに集られるのは、もう慣れた」
「信頼関係じゃないのかい……」
「諦めかもしれん」
最後の最後は締まらなかった。