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材料編  78 【強制終了版】

 次の日の午前中――。

 ドラゴンテイルから、駐屯するアサシンの小隊と使者が訪れる。

 使者は街の前の血の流れた跡と、脇に片付けられた、穴の中の死体の山に目を細める。

「もう少し早く来ればよかったようじゃな。――少し死体を見る」

 使者は護衛のアサシン二名を連れて、死体の放り込まれた穴を覗き見た。

「どう思う?」

「はい。魔法と刃物によるものと思われます。魔法は火炎系のものを行使し、刃物の使い方は我々の戦いに近いようです」

「やはりか。ほとんどが急所を一太刀じゃ。しかも、鎧や防具の隙間から」

「しかし、この切り口と傷の幅から推測しますと、刀ではなく剣での傷のようです」

「剣じゃと? つまり、ワザと剣でこんな戦い方をしたのか?」

「恐らく。御存知の通り、我等の刀は人間の肉を斬るのに特化しています。一方の剣は鎧の上からでも斬ることを想定しています。つまり、切れ味よりも頑丈さが優先されます。特殊な鉱石を使った名剣であれば、切れ味、強度を両立できますが、これは違います」

「普通の剣で斬られた傷口だと言いたいのじゃな?」

「はい」

 使者は、別の死体を見る。

「……武器も一つじゃないのう」

「はい。一緒に捨てられている武器を使用したのかと」

「こんな戦い方をするのはイオルクしかおらんな。そして、魔法を使ったのがクリスか。二人で、この多人数と戦い抜いたか」

「間違いありません」

「まあ、まともな鎧もつけていない雑魚じゃ。後れを取るまい」

「はい。ですが、アサシンを思わせるこの技術――」

「うむ、やはり見ておきたかったのう」

 残念そうな顔を浮かべると、使者は街へと向かった。


 …


 街の入り口で、イオルクとクリスは揃って声をあげた。

「「げ」」

 使者のグーが、イオルクとクリスに炸裂した。

「開口一番の言葉がそれか!」

「キリさんもお元気そうで……」

「そっちは開口一番の前に手だもんな」

「相変わらずじゃな」

「お互いね」

 キリは腰に手を当てて呆れた顔をし、一方のイオルクとクリスは、とんでもない人が使者に来てしまったと頭を擦る。

「一悶着あったようじゃな?」

 キリの質問に、イオルクが頷きながら答える。

「収穫期までに来て貰えれば大丈夫だと思ったんだけどね」

「こちらも想定外じゃ。お陰で、イオルクの戦う姿が見れなんだ」

「あんまりいいもんじゃないよ」

 キリは街の入り口を一周目を這わせる。

「まあ、街の人間の態度を見ればな」

「ここには、誰も居ないけど?」

「フン、分かるわ。恐れられているのじゃろう?」

「……まあ」

「血も流さずに守られた人間が血の流れた戦いを嫌悪する資格はない。黙って殺されれば良いのか? 無抵抗主義を貫いて、殺されても文句を言わないのじゃな? ふざけろじゃ!」

「いや、まあ……。それも尤もなんだけど……」

(この人、どうも苦手なんだよな)

 イオルクは内心で溜息を吐いて、話を続ける。

「ドラゴンテイルの駐屯の話だよね?」

「そうじゃ。そして、今日、ノース・ドラゴンヘッドからの使者も到着する」

「はい?」

 イオルクがクリスを見ると、クリスは首を振ったあと、キリを見る。

「話が見えないんだけど?」

「わらわの提案で、ドラゴンテイルからこの街をアサシンが守り、ドラゴンヘッドからこの街を騎士が守ることにした。ノース・ドラゴンヘッドには連絡済みじゃ」

 クリスがキリを睨んでぼやく。

「渦中の、この街に連絡はないのかよ……」

「クリス如きに連絡は必要あるまい」

「こんなの有りか?」

「有りじゃ」

 キリのせいで、この街の人間が誰一人知ることなくノース・ドラゴンヘッドからの使者も来ることになってしまった。

 イオルクがクリスに話し掛ける。

「とりあえず、いつもの会合の場所でいいかな?」

「いいんじゃねぇか? ヒルゲの屋敷は完全に宿泊施設になってて使えねぇし、いつもの場所の方が会議できるもの揃ってる」

「だな。じゃあ、着いて来てください」

「何処に行くのじゃ?」

「この街の娼館」

 キリの眉間に皺が寄った。

「女の使者のわらわを娼館に連れて行くなど、ふざけておるのか?」

 クリスが両手を軽くあげて説明する。

「ヒルゲのせいで街の施設に限りがあるんだよ。奴隷として働いていた者とスラムの人間の家のない連中は、ヒルゲの屋敷を使ってる」

「スラムの人間が屋敷に寝泊りしておるのか……。凄い格上げじゃな……」

「無駄に広いんだよ。アイツの屋敷は」

「で、そのヒルゲは?」

「イオルクが飯を何回か与え忘れて、ダイエット成功してメタボ解消して健康になってるな」

「あのなぁ、御主達……」

 キリは項垂れたあと、ふと気付く。

「生かしておるのか?」

「まあ、俺が半分放置で忘れてたってのもあるけど」

 イオルクの答えに、キリは頭を押さえると続ける。

「のう、そのヒルゲ……。是非、ドラゴンテイルに引き渡して欲しいのう」

「どうして?」

「奴には、それなりに煮え湯を飲まされておるからのう」

「別にいいよ。女装させてリボンもつけて贈るよ」

「要らんわ! そんな気遣い! 気持ち悪い!」

 イオルクとクリスは、キリの突っ込みに笑みを浮かべる。

 この久しぶりの会話は、何処か元気が沸いてくる気がした。

「じゃあ、行きますか?」

「うむ」

 イオルクとクリスは、キリと護衛の二名を連れて街の娼館へと向かい、残ったドラゴンテイルのアサシン達は街の入り口付近に戻り、駐屯する施設を建てる検討をすることになった。


 …


 街の娼館――。

 リーダー達が集まるが、いつもと少し雰囲気が違う。高々ドラゴンチェストの一つの街のために、ドラゴンテイルという国の使者が訪れたことに緊張しているのだ。そして、この後には、ノース・ドラゴンヘッドからの使者も来るという。

 キリの前に紅茶が用意され、モジューラが緊張した面持ちで声を出す。

「お口に合うか分かりませんが……」

「ありがとう。気にすることはないぞ。今日は、我らが駐屯を御願いする立場でもある。対等と思ってくれてよい」

「で、出来ません!」

「そうか? では、それでも構わぬが、緊張せずともよいぞ。結果から言えば、何があっても駐屯させて貰うつもりじゃからな」

「はい……」

 モジューラは、キリの対面に座るリーダー達の席に戻り、何も会話がないまま十分ほど経った頃、ノース・ドラゴンヘッドの使者二名が娼館を訪れた。

「ジェム兄さんとイチさん⁉」

 ノース・ドラゴンヘッドの使者の顔を見て、イオルクは声をあげた。

 今までヒタ隠しにしてきた悪戯がようやく身を結ぶと、キリは笑いを堪えていた。


 …


 現われたのはノース・ドラゴンヘッドの白銀の鎧の騎士。トレードマークは、後ろ髪を縛ったスタイル。

「何故、ジェム兄さんが……」

 そして、もう一人、王女の親衛隊副隊長。ドラゴンテイルからノース・ドラゴンヘッドに来たアサシン。戦闘スタイルの違いから黒装束に銀の胸当てを付け、ショートカットの黒髪とパッチリした目も変わっていない。

「イチさんまで……」

 クリスがイオルクを突っつく。

「どういう知り合いだ?」

「俺の兄さんで、ブラドナー家の次男。名前は、ジェム。そして、ユニス様の親衛隊の副隊長を勤めているイチさん」

「兄貴に同僚か? で、どれぐらい偉いんだ?」

「騎士は、黄金、白銀、鋼鉄、鉄、銅、皮と位が分かれている。二人とも白銀の騎士で騎士団長クラスに偉い」

「また、随分と偉いのが来たな……」

 しかし、イオルクには別の理由が気になった。

「どうして、この組み合わせなんだ?」

 イオルクがジェムとイチを見て首を傾げると、ジェムがイオルクに話し掛ける。

「ドラゴンテイルに、私達から報告があって訪れた」

「報告? イチさんは分かるけど……」

(何で、ジェム兄さんが?)

 ジェムがイチと共に、キリの前に出て膝を突く。

「私がコスミと夫婦になったジェムと申します。先の返事、ありがとうございました」

「噂は聞いておる。コスミ、よい夫を見つけたな」

「ちょっと、待て~っ!」

 イオルクが吼えた。

「聞いてない! どういうことですか! ジェム兄さん!」

 ジェムは目をしぱたき、言葉を漏らす。

「いや……。そんなはずは……。キリ様からの手紙には伝えてあると……」

 イオルクがキリを指差し、ブチ切れる。

「あの人を信じていいわけないでしょう!」

 キリのグーが、イオルクに炸裂した。

「どういう意味じゃ! そして、指を差すな!」

「今、身を持って知らされたでしょうが! ワザと連絡しなかったんでしょう!」

「当然じゃ、イオルクの驚く顔が見たかったからのう」

 イオルクは激しく項垂れ、がっくりと地面に手を着いた。

「最悪だ……。かつての職場の上司が身内になるなんて……」

 イチが不機嫌を顔に浮かべる。

「どういう意味ですか……!」

「弟は、礼儀が少し……」

「知っていますけど、久々に聞くと……!」

 イオルクがは力なく立ち上がり、イチを見る。

「これから、イチ姉さんと呼ぶんですか……」

「これからはコスミと。それと、心底嫌そうな顔で言わないでください」

「だって……」

「もう一人、姉上が増えたというのに、これでは……」

「……もう一人?」

「フレイザー様は、ティーナ様を奥方に迎えました」

「もう、絶対にノース・ドラゴンヘッドに帰らない! 何で、隊長まで身内になってんですか! 俺は嫌ですよ!」

 ジェムは溜息混じりに声を漏らす。

「お前なぁ……」

「兄さん達! 即刻、離婚してくださいよ!」

 ジェムとコスミとキリのグーが、イオルクに炸裂した。

「「「馬鹿か!」」」

 イオルクはバリバリと頭を掻き毟る。

「どうすりゃいいんだ!」

 イオルクの姿にクリスとリーダー達は呆然としている。目の前で展開される訳の分からない家族構成と離婚要求……。

 分からないなりに、クリスがジェムに話し掛ける。

「よく分からないんだけど……。嫌がってんのは仕方ないんじゃないか? あのキツイ隊長が身内になったんだろ?」

「君は、イオルクにティーナのことをどういう風に聞いているのだ?」

「怒ると地獄の鬼みたいな感じだな」

 ジェムは額に手を当てる。

「大きな間違いだ……。そのまま伝えたら、イオルクは兄さんに殺されるぞ……」

「長男は、あのイオルクより凶暴なのかよ? そのティーナっていうのも、ブラドナーによく嫁いだな」

「失礼だな……」

 イオルクがジェムにクリスのことを補足する。

「そいつ、遠慮という言葉を知らないから。あと、馬鹿だから気をつけた方がいいですよ」

「お前に言われたくない!」

 今度はイオルクとクリスが揉め出した。

 それを見たジェムはコスミに話し掛ける。

「イオルクのところには、トラブルメーカーが集まるのかね?」

「ノース・ドラゴンヘッドを出て縛りがなくなった分だけ、より変な人が集まったようですね……」

 ジェムとコスミは激しく項垂れた。

 そして、街のリーダー達は激しく置いていかれた。


 …


 一悶着のあと、経過が話されることになった。

 まずは、街のことをクリスが代表して話す。

「街の復興は、概ね終わったと見ていいだろう。収穫期が来れば食糧問題にも片が付きそうだし、ドラゴンテイルからの駐屯が完成すれば、街を襲う馬鹿も居なくなるはずだ」

「うむ、任せよ」

 キリの返事を聞いて、ジェムが付け足す。

「その駐屯には、ノース・ドラゴンヘッドの騎士も加わる予定だ」

「そんな豪勢にする必要はないと思うけどな?」

 今一、全てを把握していないようなクリスに、ジェムは確認を含めて問う。

「キリ様の提案は聞いているか?」

「さっき、少しな。この街を結んだルートの警備だろ?」

「そうだ。姫様とキリ様の間で大きな計画がなされたのだ」

「計画?」

「無法状態のこのドラゴンチェストにルールを作るのだ」

「出来るかよ」

 クリスは直ぐに否定したが、イオルクはそう思えなかった。

「クリス。聞いてみる価値があるかもしれない」

「何でだ?」

「ユニス様は頭が切れる人なんだ。無駄と思うことはしないはずだ」

「そうなのか?」

「ああ。隊長を騙くらかす手際なんか鮮やかなもんだ」

「それ頭が切れるって言うのか? ノース・ドラゴンヘッドは、近いうちに滅亡しないだろうな?」

 ジェムとコスミは少し赤くなりながら俯く。ユニスの悪戯癖は、イオルクのせいで拍車が掛かっている。ある意味、ノース・ドラゴンヘッドの恥(?)かもしれない。

「で? その計画って?」

 クリスの促しに、ジェムは咳払いをして続ける。

「長期的な計画なのだが、徹底的に正当性を貫くのだ。ノース・ドラゴンヘッドからこの街の道を騎士が守り、安全なものにする。次に、この街からドラゴンテイルをアサシンが守り、安全なものにする。安全が確立されている南東のルートと、安全の確立されていない南西のルート……君なら、どちらを通る?」

「なるほど」

「更にそのルートの町では、決められた仕入れ値、正規の安全な物のみが売られるとすれば?」

「それが出来れば、闇取り引きや無法状態の危ない商品の出回りは減るだろうな。客が東側に流れれば西が衰退する。西も真似せざるを得ない」

「その通りだ」

 クリスは腕を組む。

「だけど、出来るのか? 足掛かりになる町は、この街だけだろ?」

「そうだ。ここから始める。イオルクのお陰でドラゴンテイルとの関係が強化された。ノース・ドラゴンヘッドだけでは無理だが、目的地であり終着点があるドラゴンテイルという存在が結ばれれば可能だ」

「確かに長期的だな。線で繋いだルートの全ての町を説得するんだから……」

 イオルクがジェムに話し掛ける。

「間にあるサウス・ドラゴンヘッドは? 勝手に進めて平気なんですか?」

「説得済みだ。ノース・ドラゴンヘッドが無償で旅の安全を保障するのだから、協力は容易かったよ」

「そうか……。しかし、街の復興が随分と大事になったなぁ」

「この街が立ち上がった、お陰だ」

 ジェムの視線に、リーダー達は少し謙遜した態度で頭を下げた。

 ジェムがクリスに話しを続ける。

「君が、この街の主だったな?」

「仮だけどな」

「ノース・ドラゴンヘッドの国から、君にお願いがあるのだが……」

「オレに? さっきの話か?」

「それもあるが、君に貴族になって貰いたいのだ」

「……は?」

「今のままでは、権利書の類がイオルクのままだ。君が苗字を持つことで、権利書の譲渡が可能になる」

 クリスは右手を勢いよくジェムに向けて開く。

「待った! オレまでイオルクの身内になるのは嫌だぞ! あんな、おっかない姉貴の身内なんて!」

「それはない……。というか、イオルクに何を吹き込まれた?」

「身内にならないなら問題ない。吹き込まれたことは忘れてくれ」

(気になる……)

 ジェムは咳払いをする。

「では、改めて交付するがいいか?」

「待った」

「どうしたのだ?」

「やっぱ、オレは要らない。街のリーダーに交付してくれないか?」

 ファンクが真っ先に声をあげた。

「何故だ! クリスにこそ相応しい! 一番の功労者ではないか!」

「それなんだけど……。オレ、街を離れなくちゃならないんだ」

「エルフのことか?」

「ああ。悪いけど、街よりあの子の方が優先なんだ。だから、権利書の譲渡は、イオルクから各リーダーの担当で分けて欲しい」

「しかし、それでは……」

 ティオンも加わる。

「そうだ! そんなのはおかしい! ヒルゲの支配から街を救った!」

 モジューラも加わる。

「刺青も除去してくれたしね」

 エンディも加わる。

「街の復興にも積極的に携わってくれました」

 ハンドラーも加わる。

「そして、一番汚い仕事……。街を襲う者から守った時、人を殺すということを請け負った」

 リーダー達は、だからこそとクリスを見た。

 クリスは頭を掻く。

「困ったな……」

 ジェムは微笑むと話し出す。

「分かりました。では、リーダー五名も貴族にして貰いましょう」

「「「「え?」」」」

「それを条件にしないと街が機能しない。それは、今の話を聞いてよく分かりました。それに権利書を分けている方が安全かもしれない。ヒルゲの支配を繰り返さないように五人のリーダーで権利書を分ける。どうですか?」

「それがいいな。オレは苗字だけを頂いとくよ。そうすれば街から離れても、心は一つのはずだ」

 クリスがジェムの意見に同意し、リーダー達は、その提案で納得してくれた。

 ジェムは、この街で築かれた関係に笑みを浮かべると、話を続ける。

「では、ノース・ドラゴンヘッドから正式に交付して貰うように手続きをします。イオルクは書類の受け渡しの記載をしておいてくれ」

「受け取る人が名前を記載するだけになるようにしておくよ」

 これで大まかな流れが分かり、場には張り詰めたものが解けた。そして、休憩になると少し雑談をすることになった。

 コスミはキリのところへ改めて報告に行き、クリスはリーダー達と今後のことを話し始めた。

 その場に残ったイオルクは、久々の家族との会話をすることになった。

 イオルクがジェムに話し掛ける。

「兄さん、お久しぶり」

「ああ、元気そうだな」

「家族の皆は?」

「変わらないよ」

「王様やユニス様も?」

「ああ」

「よかった。ところで……」

「ん?」

「俺の送った移民は?」

 ジェムは苦笑いを浮かべたあと、グーを炸裂させた。

「何で?」

「お前……。あの人達、結婚式の披露宴の席に雪崩れ込んできたのだぞ」

「……嘘?」

「本当だよ」

「べ、別にワザと狙ったわけじゃないよ」

 イオルクは両手を振って否定した。

「分かってるよ。ただ、お前のすることはタイミングが悪いよ」

「だって……。あ、でも! ユニス様は大喜びだったでしょう!」

「ああ、大笑いだったさ……。城中がな……」

 イオルクは頭を掻きながら、笑って誤魔化す。

「まあ、俺も結婚のことで驚いたから、お互い様ってことで」

「まったく……」

 ジェムは諦めの溜息を吐く。

「でも、本当なんですか? 隊長とイチさんが身内になったって?」

「嘘を言ってどうするのだ?」

「俺、絶対に姉さんと呼びませんよ」

「呼べないだろうな。お前の性格からすると」

「というか、ノース・ドラゴンヘッドに戻っても家に帰りません」

「あのなぁ……」

 呆れているジェムを無視し、イオルクは腕を組む。

「しかし、何で、ジェム兄さんがイチさんとくっ付いたんだ? フレイザー兄さんは、噂があったけど……。本当に結婚するとは思わなかったんだが……」

 ジェムはイオルクの反応を見て可笑しそうに笑うと、話し出す。

「お前が切っ掛けになって縁を作ったのだよ」

「俺?」

「お前がコスミを親衛隊に引っ張り込まなければ、話す機会なんて生まれなかっただろう。親衛隊の副隊長だから、私と会う機会も多くなる。そのうち、彼女の一途さや仕草が好きになっていってしまった。……そして、告白した」

「結構な年月が経ったからなぁ……。俺が色々していたみたいに、兄さん達にも色々があったんだろうね」

「そういうことだ」

 ジェムは微笑んで頷く。

「じゃあ、旅が終わったら、殴られるの覚悟で色々を聞きに行かなくちゃいけないな」

「ああ。ところで、どうなんだ?」

「何が?」

「お前の武器を切り裂いた武器についてだ」

 イオルクは溜息混じりに話し出す。

「情報はないですね。近いのがドラゴンテイルの技術って分かっただけです。詠唱する魔法で凍らせるものは、レベル5のブリザードだけ。そうなると、あの暗殺者は、この世界に知られていない魔法を使ったか、ドラゴンテイルの呪符のような処置を施した何かを使ったことになります。だけど、あの時、確かに呪文のようなものを、俺は聞いた」

「大魔法ではないような雰囲気だったし、威力的にはドラゴンテイルの呪符か」

「はい」

「信じられないかもしれないけど、あの暗殺者は管理者の魔法というものを使ったのかもしれない」

「あの伝説のですか? 神の使者ではなく、この世界を管理する者とか名乗って、自分達専用の魔法を使ったって言う」

 ジェムは意外そうにイオルクを見る。

「お前、よく知っていたな?」

「連れのクリスが魔法使いだからね」

「……そうだよな。お前の知識じゃなくて、何か安心した」

「どういう意味ですか?」

 ジェムは笑っている。

「ここまでにしよう。そろそろ話を再開するか」

「少し誤魔化された感があるけど、報告できるのはそれぐらいか。クリスに再開を連絡してきます」

 その後、会議が再開される。

 ノース・ドラゴンヘッドに渡った移民の話。ドラゴンテイルのアサシンの駐屯の話。ノース・ドラゴンヘッドの騎士の駐屯の話。前半に話した、今後の街の発展する方向性。イオルクとクリスの旅立ちの話。会議は、それらを話し終えて終幕した。

 そして、この日は使者であるキリ達とジェム達には、ヒルゲの屋敷の一番良い部屋を提供して、一泊して貰うことになった。

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