ヒルゲを引き渡すため、ドラゴンテイルに向かう途中、ヒルゲを連れたアサシン二人が殺された。襲ったのは、ノース・ドラゴンヘッドに現われた獣……。
アサシンのクナイは硬い毛を通ることもなく、獣を傷つけることも出来なかった。人外の力はアサシン達を力任せに引き裂き、引き裂かれた体からは内蔵が食み出していた。
獣はヒルゲに言葉を発する。
「大失態だ。あの町でドラゴンチェストの物価と無法地帯のルールの制御をしていたというのに……」
「申し訳ありません! どうか……、どうか命だけは!」
獣は鋭い視線でヒルゲを睨む。
「あれを出せ……。そして、私の前から消えろ!」
「わ、分かりました!」
ヒルゲは喉に手を突っ込み、嗚咽しながら皮袋を吐き出す。皮袋の封を解いて出てきたのは、赤いひし形の宝石だった。
それをヒルゲから受け取ると、獣は目の色を変えた。
「これは、何だ……!」
「言われた通り、守ってまいりました」
「これが魔力を結晶化させたものだと? この何も感じない石がか!」
獣が宝石をヒルゲに投げつけると、ヒルゲは宝石を拾い上げる。しかし、ヒルゲには、これが本物かどうか分からなかった。獣との信頼関係を証明するために託されていた大切な物のはずだったのに……。
獣はヒルゲを力任せに叩き潰した。一瞬で血の水溜りが広がり、辺りには不快な臭いが漂った。
「誰かが摩り替えたに違いない……」
獣は唸る。
「誰だ? ヒルゲの雇っていたハンターか? その可能性が高い……」
獣はヒルゲの死体を踏み躙った。
「ハンターだとしたら、既に何処かに流れている……。第五の武器を人間共に造らせねばならないというのに……」
獣は苛立ちを吼える。
「最悪、魔族から魔力の結晶を取り出すために、また数百年待たねばならぬ……。探し物が増えた……」
獣は死体をそのままに、その場を後にした。