王都の宿屋――。
宿では、クリスとイフューが話を終え、イオルク達が戻るといつもと違って、イフューは走る姿を見せてくれた。
イオルクがイフューに話し掛ける。
「本当に治ったみたいだな」
「はい、しっかり見えます」
「これも、俺の棒造りのお陰だな」
「そうかもしれませんね」
「「多分、違う」」
クリスとエスの声が重なった。
「エスって、大分捻くれてきたよな?」
「イオルクを学習した結果だろ」
「どういう意味だよ?」
「お前が馬鹿だって認識されたんだよ」
「何で?」
クリスはピクピクと眉を震わせる。
「ごく最近の例を出してやる。帰り際に神官が『神は懐が広い』って言っていた」
「どういう意味だ?」
「お前、あの聖なる棒のデザイン変えただろ!」
「変えたよ。あんなイケ面マッスルの神様よりも、魅惑の美少女の神様を彫るのが男の性だろう?」
「馬鹿か! ご利益が安産祈願になってただろうが!」
クリスの言葉を聞いて、ケーシー達にズーンと黒い影が落ちた。
「あ、安産祈願って……」
「それに祈りを捧げて治っちゃったの?」
「わたしの目って……」
イオルクは、やれやれと手をあげる。
「どうでもいいじゃないか。あんなもんは、一種の思い込みのための道具だよ。本当に必要なのは想いと竜の像。他は、おまけだ」
「おまけって……」
「偉そうなこと言ってるけど、神官に言われるまで神様の種類なんて分からなかったじゃないか。お前らだって、言ってるよりも全然信心深くない」
エスが額を押さえて話し出す。
「そういうことじゃないと思う……。何も知らないからこそ、ちゃんとお祈りする神様を選ばないといけないんだよ……」
「そうかもしれないけど、俺には、ご利益があると分かっていた」
「どうして?」
「本物の神様より、少し胸を大きく造ってサービスしといた」
エスのグーが、イオルクに炸裂した。
「神様に、何て貢物をしてくれてんのよ!」
「きっと、それでイフューの目は治ったんだ」
「絶対に違います!」
イフューも加わった。
「わたしの目は、そんな不埒なもので治ったんじゃありません! 皆の気持ちが治してくれたんです!」
「その何分の一かには、俺の不純な気持ちが含まれていると思えばいいじゃないか」
「思いたくない!」
ケーシーは額を押さえながら、クリスに話し掛ける。
「いつか天罰が落ちると思います……」
「その天罰すら笑い話にしそうな感じだがな。イオルクをドラゴンアームに連れて来たのは間違いだったんじゃないかと後悔している……」
イオルクがクリスを指差す。
「クリス、聞こえたぞ!」
「そうかよ」
「こうなったら、俺達の居ない間の、お前の嬉し恥ずかしの話をイフューから聞きだしてやる!」
「どうやってだよ?」
「今まで掛かった経費を前面に押し出して、あんなことやこんなことを……!」
「何度も言うが……。最悪だな、お前」
「女の子に、手はあげれないだろう?」
「さっきの方法も、十分にしちゃいけない方法だけどな」
「そうだよな。じゃあ、クリス相手なら拳で語り合ってもOKだ」
「OKじゃねぇよ」
「まあ、いいや。何について揉めてたかよく分からなくなってきた」
「また変なタイミングで会話を切りやがって……!」
クリスは拳を握る。
「ところでさ」
「何だよ?」
「海路でドラゴンウィングに行こうと思うんだ」
「ああ、オレもそれがいいと思ってた。ドラゴンチェストは通りたくないからな」
「同じ考えだな」
「じゃあ、あとで港に行かないとな。いつ船が出るかとか調べないと」
「一番早いので、明日の午後だって。帰りに調べてきた」
「気が利くな」
「ついでにクリスとイフューのご飯も買ってきた」
「本当に気が利くじゃないか」
イオルクはイフューを見る。
「イフュー。おかず一品に付き、一個ずつクリスとの甘い話を聞かせてくれ」
「「馬鹿!」」
クリスとイフューのグーが、イオルクに炸裂した。
エスが笑いながら、ケーシーに話し掛ける。
「本当に打ち解けたよね?」
「あの街に居た時のしっかりした姿は、何だったのかしら?」
「そうだね。でも、こっちの方がイオルクらしいし、クリスらしいかな」
「そして、イフューに突っ込みの才能が付加されていくのね……」
エスは笑いを堪え、ケーシーも釣られて微笑む。
クリスの故郷の街を出て二週間近く、イオルクとクリスは普段の旅人としての姿に戻っていた。