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材料編  87 【強制終了版】

 王都の宿屋――。

 宿では、クリスとイフューが話を終え、イオルク達が戻るといつもと違って、イフューは走る姿を見せてくれた。

 イオルクがイフューに話し掛ける。

「本当に治ったみたいだな」

「はい、しっかり見えます」

「これも、俺の棒造りのお陰だな」

「そうかもしれませんね」

「「多分、違う」」

 クリスとエスの声が重なった。

「エスって、大分捻くれてきたよな?」

「イオルクを学習した結果だろ」

「どういう意味だよ?」

「お前が馬鹿だって認識されたんだよ」

「何で?」

 クリスはピクピクと眉を震わせる。

「ごく最近の例を出してやる。帰り際に神官が『神は懐が広い』って言っていた」

「どういう意味だ?」

「お前、あの聖なる棒のデザイン変えただろ!」

「変えたよ。あんなイケ面マッスルの神様よりも、魅惑の美少女の神様を彫るのが男の性だろう?」

「馬鹿か! ご利益が安産祈願になってただろうが!」

 クリスの言葉を聞いて、ケーシー達にズーンと黒い影が落ちた。

「あ、安産祈願って……」

「それに祈りを捧げて治っちゃったの?」

「わたしの目って……」

 イオルクは、やれやれと手をあげる。

「どうでもいいじゃないか。あんなもんは、一種の思い込みのための道具だよ。本当に必要なのは想いと竜の像。他は、おまけだ」

「おまけって……」

「偉そうなこと言ってるけど、神官に言われるまで神様の種類なんて分からなかったじゃないか。お前らだって、言ってるよりも全然信心深くない」

 エスが額を押さえて話し出す。

「そういうことじゃないと思う……。何も知らないからこそ、ちゃんとお祈りする神様を選ばないといけないんだよ……」

「そうかもしれないけど、俺には、ご利益があると分かっていた」

「どうして?」

「本物の神様より、少し胸を大きく造ってサービスしといた」

 エスのグーが、イオルクに炸裂した。

「神様に、何て貢物をしてくれてんのよ!」

「きっと、それでイフューの目は治ったんだ」

「絶対に違います!」

 イフューも加わった。

「わたしの目は、そんな不埒なもので治ったんじゃありません! 皆の気持ちが治してくれたんです!」

「その何分の一かには、俺の不純な気持ちが含まれていると思えばいいじゃないか」

「思いたくない!」

 ケーシーは額を押さえながら、クリスに話し掛ける。

「いつか天罰が落ちると思います……」

「その天罰すら笑い話にしそうな感じだがな。イオルクをドラゴンアームに連れて来たのは間違いだったんじゃないかと後悔している……」

 イオルクがクリスを指差す。

「クリス、聞こえたぞ!」

「そうかよ」

「こうなったら、俺達の居ない間の、お前の嬉し恥ずかしの話をイフューから聞きだしてやる!」

「どうやってだよ?」

「今まで掛かった経費を前面に押し出して、あんなことやこんなことを……!」

「何度も言うが……。最悪だな、お前」

「女の子に、手はあげれないだろう?」

「さっきの方法も、十分にしちゃいけない方法だけどな」

「そうだよな。じゃあ、クリス相手なら拳で語り合ってもOKだ」

「OKじゃねぇよ」

「まあ、いいや。何について揉めてたかよく分からなくなってきた」

「また変なタイミングで会話を切りやがって……!」

 クリスは拳を握る。

「ところでさ」

「何だよ?」

「海路でドラゴンウィングに行こうと思うんだ」

「ああ、オレもそれがいいと思ってた。ドラゴンチェストは通りたくないからな」

「同じ考えだな」

「じゃあ、あとで港に行かないとな。いつ船が出るかとか調べないと」

「一番早いので、明日の午後だって。帰りに調べてきた」

「気が利くな」

「ついでにクリスとイフューのご飯も買ってきた」

「本当に気が利くじゃないか」

 イオルクはイフューを見る。

「イフュー。おかず一品に付き、一個ずつクリスとの甘い話を聞かせてくれ」

「「馬鹿!」」

 クリスとイフューのグーが、イオルクに炸裂した。

 エスが笑いながら、ケーシーに話し掛ける。

「本当に打ち解けたよね?」

「あの街に居た時のしっかりした姿は、何だったのかしら?」

「そうだね。でも、こっちの方がイオルクらしいし、クリスらしいかな」

「そして、イフューに突っ込みの才能が付加されていくのね……」

 エスは笑いを堪え、ケーシーも釣られて微笑む。

 クリスの故郷の街を出て二週間近く、イオルクとクリスは普段の旅人としての姿に戻っていた。

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