目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

材料編  93 【強制終了版】

 三ヶ月後――。

 場所はドラゴンテイル。その和風の城の中で、キリはテンゲンに文句を言っていた。

「イオルクは、何を考えておるのじゃ! 突然訪ねて来て、鍛冶修行をさせろなどと! あやつは戦ってこそ、価値があるというものであろう!」

「そう、いきり立つな。キリの旦那が、イオルクに負けたのだから仕方あるまい。その条件を出したのはキリじゃろうに……」

「わらわの夫が負けるとは思いませなんだ」

「見くびり過ぎじゃ」

 テンゲンは大きな溜息をついて、キリに尋ねる。

「ところで……。そのイオルクは、どうしておる?」

「今日も、刀匠と刀を打っております」

「腕は、どうじゃ?」

「見られますか?」

 キリが一振りの刀を取り出してテンゲンに渡すと、テンゲンは刀を鞘から抜き出し、刀身を確認する。

「驚いたな……。ちゃんと実戦で使える刀じゃ……」

「そうなのですよ。イオルクは何をトチ狂ったか、本気で鍛冶屋を目指しているのです」

「あれほどの男が……」

「理由を聞いても『ノース・ドラゴンヘッドで斬られたロングダガーのせいだ』の一点張り。『それに対抗できる切れ味は、ドラゴンテイルの刀だけだ』を繰り返すばかり」

「それほどの衝撃だったのじゃろう。そして、それに見合う武器がなくて、自ら造るしかないと決心したんじゃな」

「何故、お分かりに?」

「この刀のせいじゃ。上達が早いのは目的の刀が頭にあるからじゃ。そして、これだけの刀の出来に、イオルクは納得していない」

「何を考えているのか……」

「まあ、暫く様子を見よう」

 テンゲンとキリは、イオルクがどの程度の刀を造りたいのか分からなかった。それはエルフとの約束で語れない部分もあるため、イオルクが説明していないことに理由がある。

 最高の鉱石を扱うのに見合う腕を身につけ、過去に体験したロングダガーを切り裂いた武器に対抗できる武器が最終目標。ドラゴンテイルでは、この世界で最高の切れ味を持つ刀の造り方を習得し、その技術を使って武器を造ると決めていた。そのための妥協を許さず、イオルクは基礎の製鉄技術から、じっくりと教えを仰いでいた。

 そして、時間は流れていった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?