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作製編   6 【強制終了版】

 二ヵ月が過ぎる――。

 イオルクのもとで、アルスは着実に成長をしていた。武器の使い方、魔法の使い方、そして、鍛冶屋としての技術……。ただし、武器の使い方は、イオルクが手取り足取りと、少々過保護になっている。

 魔法の使い方は、イオルクとクリスとの間で情報交換された内容をアルスに伝え、アルスが試行錯誤するという内容になっていた。ちなみにクリスの内容は本になっている。その本はエルフとの約束を守るため、役目を終えた時に灰になる宿命だ。

 一方の鍛冶屋としての技術は、日々の精進の末、また、イオルクの多大な手助けのもとで、何とか一本の剣を納められる成果が出たところだった。

 そして、そこが問題だ……。

「これ、あの領主に届けなきゃいけないんだよな……」

「最近、夢中になってて忘れてたよ……」

 鍛冶場の中ではアルスの初めて造った剣を前に、イオルクとアルスは困り顔で溜息を吐いていた。

「どうする? 届けるか?」

「届けないと……。お爺ちゃんの所に兵隊が押し寄せて来たら困るし」

「そうだよなぁ。片っ端から、ぶっ飛ばすわけにもいかないし」

「それに――」

「ん?」

「――お父さんとお母さんに会ってこないと……」

「そうだったな」

 イオルクはガシガシと頭を掻く。

「少し遠出しよう。王都まで足を運ぶ」

「正反対の場所だね?」

「ああ、その……」

「ん?」

「まだ、家族に養子を取ったことを伝えてなかった……」

「手紙、出してないの⁉」

 イオルクは気まずそうに頷いた。

「出すの面倒臭くて先送りにしてたら、今日になっちまった……。今度は、何て言われるんだ? 前、十年ぶりに帰って放置してたら、一年後、鬼のように怒られたんだけど……」

「いや、六十過ぎたお爺さんが怒られるって、ないよ」

「行きたくない……。出来れば会いたくない……。でも、被害を最小限に喰い止めるためには……」

(王都に、どんな家族が居るんだろう?)

 頭を抱えて悶絶するイオルクに、アルスは疑問符を浮かべる。

 そして、暫くするとイオルクは立ち直り、外の蔵から造り置きしていた武器の束を持って来る。

「結局、これも届けなきゃいけないからな」

「オーダーメイド?」

「ああ、怖い隊長の依頼でな」

「隊長?」

「そう」

 イオルクは乾いた笑いを浮かべると、準備を始める。

「アルスも支度しな」

「あ、うん。分かった」

 アルスは、二階の自分の部屋に走って行った。

「父さんが死んで、母さんが死んで……。兄さん達家族が住むだけになっちゃったんだよな……。まあ、そのガキが居るから賑やかなんだけど……、アルスは仲良くなれるかな?」

 イオルクは旅の準備を始めた。


 …


 イオルクは、いつも通りの大きなリュックサックを背負うスタイル。昔と違うのは、中身の大部分が納める武器で満たされていること。今は皮の鎧も着けず、武器を携帯するだけ。武器は、昔と変わらない。整備して使い続けた剣とダガーとロングダガー。ちなみに武器一式は皮の鎧から特製のベルトに昔と変わらない位置に備え付けてあり、特製のベルトは武器の重さでずり落ちないように肩掛けの皮ベルトが二本伸びる手作りになっている。

 一方のアルスは、リュックサックの代わりにイオルクの道具袋を背負い、剣を背中に縛り付けている。服装は貴族の服から鍛冶仕事にも耐えられるような丈夫な麻のズボンと長袖のシャツを引っ掛けるラフな格好だ。

「リュックサックは、途中の町で新しいの買おうな」

「うん。この格好は少し変だよね」

「帰りには服も買って来よう。毎回、手作りさせられたんじゃ堪ったもんじゃない」

 アルスの服は、何気にイオルクの手作りだったりする。

 家にしっかり鍵を掛けて山を下り始めると、アルスがイオルクに話し掛ける。

「僕、ここに来た時のこと、あまり覚えてないんだ」

「二週間ぐらい掛かったんだけどな」

「断片的にしか覚えてない」

「まあ、ほとんど放心してたからな」

「どうやって、生きてたんだろう?」

「半ば強制的に食いもんと飲みもんを口に突っ込んでたな」

 その言葉に、アルスは眉を歪める。

「……思い出した」

「トイレだけは自分で行ってくれたからよかったよ」

「僕も人としてのプライドが残っていたのがよかった……」

 アルスは項垂れて歩くが、暫くすると顔を上げる。

「拾ってくれたのが、お爺ちゃんでよかった……」

「もしかして、泣くところか?」

「そんなの求めてないよ……」

 イオルクは笑っている。

 また、からかわれたと、アルスは溜息を吐く。

「そうじゃなくて……。辛いことがあったのに、もう笑えるんだ」

「……そうか」

「お父さんとお母さんの魔法を受け継げなかったけど、別の世界も面白いかもって思い始めてる」

「いいのか? そんなに早く結論出して?」

 アルスは静かに頷く。

「自分でも、おかしいと思ってる。悔しい思いもあるのに、簡単に魔法を諦められないって分かっているのに……。毎日が充実してる……」

「マジでか?」

「うん、マジで。……マジって、何?」

 イオルクがこけた。

「勢いで返すなよ……。本気とか本当とかだよ」

「じゃあ、マジだ」

 アルスを見ながら、イオルクはチョコチョコと頬を掻く。

「……少し変わったな」

「僕も、そう思う。こんなに話さなかった」

「ふ~ん……。ちょっと分かるな」

「そう?」

「ああ、俺も親友に会って変わったからな。ただ居るだけで楽しいんだ。俺は言葉遣いまで影響が出たよ」

「そうなんだ」

「つまり、アルスは、俺を友達に近い存在だと思っているわけだ。爺さんとしての威厳はないな」

「そういうわけじゃないよ。お爺ちゃんは尊敬してる。色んなことを教えてくれるもん」

「そうか?」

「うん――あ、それがきっと楽しいんだ。知らないことを知っていってるから」

「なるほど。やっぱり男の子だな。好奇心旺盛だ」

「そ、そうかな?」

 アルスは男の子と言われたのを男らしいと言われたように、少し勘違いして気分がよくなった。

 二人は、ノース・ドラゴンヘッドの中央の町――魔法特区に向けて、ノース・ドラゴンヘッド最東の山を出た。

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