目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

作製編  11 【強制終了版】

 朝食が終わると、イオルクとアルスは鍛冶場へと向かい、鍛冶場の隅にある道具入れを二人で持ち上げる。すると、そこには地下への通路が姿を現わした。

 イオルクが先に通路を進み、アルスが後に続く。壁伝いに進み続け、鎖の付いた輪をイオルクが引くとガタンッと大きな音を立てて、外と内を繋ぐ換気口が開いた。

 換気口から光が入り、地下の部屋をぼんやりと照らし出す。

「ようやく使う時がきた。オリハルコンを錬成する釜であり火炉だ」

 イオルクが旅をして集めた鉱石――白剛石、青水石、赤火石、緑風石、黄雷石、オリハルコン。そして、エルフの里で口伝され、ドラゴンウィングで仕入れた鍛冶道具の造り方から造られた道具――白剛石の入れ槌、赤火石を溶かした後で焼成した受け皿、円形の赤火石の火炉であり釜、それに繋がる風を送る緑風石の円筒。

「これでオリハルコンを錬成して鍛えるんだね」

「まあ、他にも必要なものが有るんだけどな。後回しにしている」

 アルスは道具一式を見回す。

「砥石がないね」

「ああ。しかも、刀とは違う造りになっていて、別に造るものがある」

「刀とは違う?」

「そうだ。刀造りは、たたら製鉄で造られた玉鋼を何度も重ねて、折り返し鍛錬をして鋼を造る。これは刀自体に粘りを出すためであり、鉄と鉄との結合を強くするためだ。しかし、オリハルコンは固過ぎて、重ねて叩き続けるなんてことを繰り返せない……らしい」

 そうなると導き出される造り方は、一つしかない。

 アルスは確認を取る。

「量産する剣みたいに、鋳型に溶鉱炉で溶かしたオリハルコンを流し込むの?」

「そう伝わっている。故に受け皿を造ったように、溶かしたオリハルコンを流し込む型を造らなければいけないんだ」

「うん」

 イオルクが腕を組む。

「だが問題は、そんな造り方をしたオリハルコンに不純物や空気が入り込まないかだ。溶鉱炉で造った鉄だと、どうしても不純物が多く含まれるんだ」

 アルスは疑問が思い浮かぶと、質問する。

「少しいい?」

「何だ?」

「オリハルコンって、特殊な釜と火炉が必要なんだよね?」

「溶けないからな」

「その熱で、オリハルコンに入る不純物と空気が焼き尽くされるんじゃない?」

「どうだろう?」

「やってみないと分からない?」

「分からないだろうな。オリハルコンという金属の比重も分からないから、溶鉱炉からどういう風に出てくるか、想像も出来ない」

 イオルクは頭を掻く。

「……いきなり武器造りは出来なさそうだな。まず、実験だ」

「うん」

「合金にすると、熱がオリハルコンを溶かす熱よりも低くていいらしいから、そっちで砥石を造ってからオリハルコンを使った実験にしよう」

「分かった」

「そもそも伝承通りかを確認しないといけないし、オリハルコン専用の鍛冶場の試運転もまだだ。この釜と火炉が使えるかどうかも試してみないと分からない」

「大変な試練かもしれないね」

 実験の手始めにオリハルコンと白剛石を利用して、イオルクとアルスは火炉の中の赤火石に黄雷石とオリハルコンで着火してみることにした。


 …


 夕方――。

 地下の鍛冶場で、イオルクとアルスは、ぐったりとしていた。

「温度が洒落にならん……」

 火炉、兼、釜(以降、火炉)と、それに風を送り込む円筒は上手く動作した。しかし、オリハルコンで黄雷石を反応させて赤火石を燃料に変えた途端、火炉の中の温度は、上がりに上がった。

「火炉のつもりで試したのに釜状態だったよね。受け皿に溶解したオリハルコンと白剛石の合金がドクドクと……」

「最初だから、多めに赤火石を注ぎ込んだのも悪かったけど、合金造るなら、上の鍛冶場で十分だったかな?」

「う~ん……。赤火石が燃料だったから溶けたとも思えるし……。そんなことより――」

 アルスがイオルクを凝視する。

「何だ?」

「――赤火石は、着火の際に黄雷石を使用することで性質を石に変えるんだよね? 火炉には、その使用済みの赤火石使うんだから、お爺ちゃんは火炉を造った時に温度が上がるの知ってたんじゃないの?」

 伝承によると、燃料として使用済みの赤火石でオリハルコン専用の火炉は造られる。これは他の材料だと燃料として使用した赤火石の熱に耐えられないための古代人の工夫に他ならない。そして、その火炉を造ったイオルクが赤火石を燃料にした時の温度の上昇具合を知らないわけがない。

 イオルクが項垂れて答える。

「専用の火炉ん中なら平気かなって思ったんだけど、鍛冶場の熱処理が不十分だった……。換気口を増やさないとな」

「うん」

 イオルクが右手の人差し指を立てる。

「ああ、それと質問の答えだけど――赤火石の使用について」

「うん」

「専用の火炉を造るために使用済みの赤火石を造った時は、赤火石を火炉の形に組んで着火して大炎上した」

(じゃあ、学習済みだったんじゃ……)

「よく家が火事にならなかったね?」

 イオルクは遠い目で乾いた笑いを浮かべる。

「燃えたよ……。丸焼けだ……。今の家は、二号店だ」

(何やってんだろう……。お爺ちゃんって、時々考えなしで行動する気がする……。失敗から学んでないよ……)

 アルスは溜息を吐いた。

「兎に角、問題は換気なんだね?」

「ああ。火炉の方が大炎上を押さえたのは実証されたからな」

(ここで失敗してたら、二人して焼け死んでたのか……)

 アルスは火炉が伝承通りの耐久性を発揮してくれたことに、今更ながら安堵の息を吐いた。

「で、話を戻すけど、緑風石が余ってるなら、そこに風を外に送るマークを刻んだ月明銀とセットで置いて、換気した方がいいんじゃない?」

「いいアイデアだけど、どっちも稀少だからなぁ……」

 イオルクはアルスの提案を直ぐに採用したかったが、材料となる鉱石をあまり使いたくなかった。

「既存の換気口に合わせたものを二、三個造ろう。あまり換気し過ぎると熱したオリハルコンが冷めてしまうから、職人の俺達にだけ送風するように換気口の緑風石を調節するんだ」

「分かったよ、お爺ちゃん」

「緑風石の換気口は、アルスが造れよ」

「僕が? 造れないよ……」

「造れるようにならなきゃダメだ」

「でも……」

 イオルクはアルスを真っ直ぐに見る。

「いいか? お前には、俺の知識を全部与えてある。だけど、経験がない」

「うん……」

「緑風石の換気口を造れば、俺の特殊鉱石の知識を扱えるようになるはずだ」

「どういうこと?」

 首を傾げるアルスに、イオルクは再び右手の人差し指を立てる

「緑風石という特殊鉱石の経験から、俺の知識の伝えたい感覚を得ることが出来るってことだ。つまり、緑風石を使った経験というのが、俺とアルスの感覚を繋げて、他の特殊鉱石を扱う鍵になるってことだ」

「知識を使う鍵……」

「俺の知識と経験……、貰ってくれるんだろう?」

 イオルクがウィンクすると、アルスはしっかりと頷いた。

「自分で頑張ってみるよ」

「ああ、アルスに任せた」

 こうして、鍛冶場の換気口に緑風石の換気道具をアルスが造ることになった。

 そして、換気口の問題が一区切り付くと、イオルクは鎮火している火炉を見る。

「しっかし、オリハルコンは、これだけの火力がないと溶けないってことだよな」

 アルスも火炉に目を移す。

「そうだね。あと、一度、火炉ん中を空にしないと」

「……だな。何もない状態で、オリハルコンだけを溶かさないと不純物が混ざる」

 アルスは溶鉱炉状態で溶け出したオリハルコンと白剛石の合金を見る。

「やっぱり伝承通り、溶鉱炉のように使うべきなのかな? それとも、砂鉄からたたら製鉄して玉鋼を造る方法をオリハルコンでも取るべきなのかな?」

 アルスの疑問に、イオルクが腕を組んで答える。

「そこは昔と今で、技術に差があるかもしれないな」

「お爺ちゃんも、納得してないんだね?」

「ああ。製鉄においては、溶鉱炉とたたら製鉄。造り方においては、鋳型、鍛造、そして、ドラゴンテイルの刀造り。今は製鉄方法が二種類に、作成方法が三種類ある」

「うん。そして、伝承では溶鉱炉の使い方に、型へ流し込む――鋳型の方法だけ」

「俺が思うに、古代人の技術っていうのは、鋳型での武器造りを突き詰めていった結果なんじゃないかと思うんだ」

 アルスと違い、長い年月鍛冶に携わってきたイオルクには考える時間があった。その時間の中で生まれた仮定をイオルクは語る。

「俺は鍛冶屋としては少し歪なんだ。鋳型も使うし、鍛造でも造るし、刀も造る。どれか一つに拘るということをしていない」

「全部扱えるっていうのは稀なんだ?」

「大抵は、製鉄の工程で分かれるんだ。溶鉱炉か、たたら製鉄かでな。両方扱うのは珍しい」

「何で、お爺ちゃんは全部やってるの?」

「造り方には、全てに利点がある。大量生産するための鋳型。厚く硬度を上げて頑丈な武器を造る鍛造。硬さと粘りを両方求めた、ドラゴンテイルの刀造り」

「そうだったね」

「で、俺なりに考えた結論だが、鋳型は材料を極め、鍛造は叩く技術を極め、刀造りは純粋な材料の性質を引き出す技術だと考えた。鋳型というのは、一回勝負。大量生産のために、型に流し込むだけだが、その一回に粘りと固さ――靭性と硬度を封じ込めなければならない。つまり、材料を突き詰めないといけないんだ。繋ぎに炉の温度を上げる石灰や粘りを出す黄土を入れたり、獣の骨や貝を入れたりと研究を続けている。その最たるものが合金だろう。刀造りでは混ぜ合わせない」

 アルスは頷きながら耳を傾ける。

「次に鍛造。丈夫で厚い騎士剣が代表的だろう。この技術は叩くことで金属の強度を上げる事と、一つの金属の塊で靭性と硬度を追求することにある。一つの金属の塊を戦うのに最適な強度に仕上げる技術――焼入れと焼き戻しだ。熱した金属を水に入れ、急激に温度を下げることで硬度を作り出す焼入れ、逆に熱し直して硬度を落とす代わりに靭性を取り戻す焼き戻し、これらを繰り返して最適を見つけて一点物の最良を造り出す技術――これを突き詰めるには、入れ槌を振って自分の中に絶対の感覚を身につけるしかない」

 アルスは頷く。

「最後に刀造り。製鉄の段階から、鉄という金属を突き詰める。ケラに砂鉄を入れ、徐々に温度を上げて製鉄していく。温度を上げる段階で、途中、底から溶け出した不純物を捨て、鉄が溶け出す頃には不純物がほぼなくなっている。そして、残された鉄は不純物を含まない純粋な鉄だけになる。この時に出来た玉鋼も、更に使い分ける。靭性の部分を担う芯鉄と硬度の部分を担う皮鉄に使い分ける」

 ちなみに、玉鋼に硬度が分かれる理由をイオルクやドラゴンテイルの職人は知らない。ケラから取り出した玉鋼を薄く延ばして焼入れし、細かく砕く際の手に返る感触で選り分けている。

「この使い分けての突き詰めるという行為は、実はかなり凄い。不純物がないから錆び難く、亀裂の入る気泡や不純物を含まないことになる。更に、この材料で武器を造るだけでも凄いのに、もう一手間加えている。折り返し鍛錬というものだ。薄い金属板が折れずに曲がる特性を活かし、叩いて薄く延ばす→折って重ねる→叩いて薄く延ばす→折って重ねる……を繰り返して折れ難さを加えている」

「本当だね。材料、叩く、突き詰めるの三つに分かれてる」

 アルスは使う技術に上下はなく、それぞれの技術を高めていった先に理由があるのだと思った。

「で、現代には、この三つの造り方が残っているわけだが、一番古い製法は鋳型だと思うんだ。何てったって、簡単だからな」

「うん」

「一番最初に武器という形を造ろうとした人は、鍛造から入らなかったと思う。炉の温度を上げて溶解することに気付いたら、型に流すことにしたんだ。その結果、発展したのが材料の研究だったはずだ。最初は銅、次に鉄、焼入れにより鋼に変える技術……という具合にな。そして、古代人は、それ以上の金属を求めて見つけた」

「赤火石、緑風石、黄雷石、白剛石、青水石、オリハルコンだね」

 イオルクは頷く。

「きっと、鋳型中心だったから、材料となる鉱石を扱う技術が特化したんだ」

「そうかもしれないね」

「一方の俺達は、採取量の少ない特殊鉱石を扱うよりも、身近にあって硬度もある鉄を中心に扱うようになった。まあ、魔法のあるこの世界では、防具に月明銀を使うということもしてるが、今は置いとく。それで、鉄により進化した技術が、鍛造、刀造りになるってことだ」

「お爺ちゃんは、その二つが『古代人の時代にはなかったんじゃないか?』って言いたいんだね?」

 イオルクは『ああ』と頷いた。

「だから、最高の武器を造り上げるなら、古代人の造り方だけを再現しても、最高の武器にはならない」

(お爺ちゃんは、もう武器造りの工程と武器の完成形を頭に描いているのかもしれない……)

 アルスは、今まで既存の技術の話を中心にしていたイオルクが、自分の予想や構想を加えて話しているのを感じ取っていた。それにより、アルスの中にも、最高の武器というものを考える気持ちが芽生え始める。

「だったら、錬成するところから変えないとダメだよ。溶鉱炉だと、どうしても不純物が含まれる。だけど、たたら製鉄なら、不純物を限りなく減らせる」

 イオルクは笑みを浮かべて頷く。

「俺も、そう思ってた。都合がいいことに、集めたオリハルコンは砂単位だ。たたら製鉄が使える」

 イオルクの言葉に、アルスも笑みを浮かべる。

「だが、たたら製鉄の方法でオリハルコンを錬成するとなると――」

「オリハルコンが溶ける一歩手前まで、ゆっくり温度を上げて、残った純粋なオリハルコンを取り出さないといけないね」

 その工程を想像して、イオルクとアルスが溜息を吐く。

「実験するだけで、かなり赤火石を使いそうだね」

「闇雲に鍛冶屋の勘だけを頼れないしな。しっかりと資料を作らないと」

「あと、これから必要なもののリストアップをすることもね」

 既にオリハルコンの錬成、白剛石の合金の砥石、換気口につける緑風石と月明銀の装置を造ることは決定済みだ。

 イオルクはバリバリと頭を掻く。

「あ~っ! 面倒臭い!」

「短期は損気だよ。頑張って、やらないと」

「何で、俺はアルスに慰められているのか……。明日にしよう……」

「うん」

 しかし、明日にしようとしたのも束の間、イオルクは頭に手を置いたまま、呟く。

「もしかしたら……。その温度を調べているうちに、折り返し鍛錬が出来る火炉の使い方も分からないかな?」

「そこは鉄の歪み具合や熱せられた色を知っている鍛冶屋の勘が重要になるんじゃない?」

「全てが無駄とは言えないか……」

 資料を作るメモには、今までの経験を比較したことも重要な要素になりそうだった。

「あと、ここにはないけど、鍛冶屋はしも、自作になるよ」

「確かに……。古代人の残した資料にはなかった。熱したオリハルコンを掴めるか分かんないし、白剛石で造るか」

「贅沢な使い方だね」

「本当だよ」

 イオルクは片手をあげる。

「製法も、今のうちに考えとく方がいいかもな」

「造り方も?」

「俺さ……。切れ味を追求したくて、特別なものは刀の造り方に拘ってんだ。それだと伝承されてる造り方と丸っきり違うんだよ」

「伝承だと型に入れてからだもんね」

 イオルクが頷く。

「伝承の製法は騎士剣とかを造る鍛造じゃなくて、量産で使われる鋳型の方法なんだ。ある程度の型に流し込んでから、叩いて均等にして、焼入れして……って」

「でも、お爺ちゃんがやりたいのは刀造りの製法。やるにしても、鉄が前提の話だよね?」

「いや、黄雷石でも有効だった。それは試してる」

「そうなの? じゃあ、オリハルコンは?」

「型に流し込むって方法しか残ってない。だから、さっきみたいな予想が、俺の中に生まれたんだ」

 イオルクとアルスは、どうも伝承通りの造り方に納得できない。

「追求するなら、何か違う気がするね」

「そうなんだよな……。多分、オリハルコンを溶かすまではいいんだ。玉鋼も原料は砂鉄で、今まで集めたオリハルコンと同じようなもんだ。応用できる」

「うん」

 考えが纏まらず、イオルクは大きく息を吐き出す。

「少し復習しよう」

「うん」

「まず製鉄についてだけ」

「ノース・ドラゴンヘッドを始め、ほとんどの国が溶鉱炉を使っている。唯一、違う製法で製鉄しているのが、ドラゴンテイルのたたら製鉄」

 イオルクは片手を軽くあげて、アルスを促す。

「溶鉱炉から特徴を言ってみて」

「一気に温度を上げて溶鉱炉で鉄鉱石を溶かすと、不純物が溶鉱炉の上、鉄が下と、金属の比重で分かれて溶解する。これを利用して下の口から鉄を取り出すのが溶鉱炉の製法。だけど、これだと不純物の取り除きが甘い。溶解した鉄と不純物が僅かに交じり合ってしまっている」

「よく覚えてたな」

「うん。次にたたら製鉄。こっちはケラと呼ばれるものの中に砂鉄を投入し、ゆっくりと温度を上げていく。そして、鉄が溶け切る前に数回ケラの底を開けて、溶け出した不純物を外に出す。このため、最終的にケラには目的の鉄だけが残される。最後に、ゆっくりと温度が上昇して砂鉄が溶けて鉄の塊になり、玉鋼と呼ばれるものが出来る」

「こっちも正解だ。ちなみに、俺は鉄鉱石と砂鉄で、錬成する前の材料にも意味があるんじゃないかと考えている。鉄鉱石は塊で発見され、中にどれだけの不純物を含んでいるのか分からない。それに対して、砂鉄は粒子だ。その粒に含まれる不純物は極僅かだ。絶対に、その粒以上の不純物が含まれることがない。つまり、材料の時点で不純物の量にも差があると思われる」

「うん」

「で、実際にケラで精製したとして、温度の関係から不純物が先に流れ出す」

「玉鋼を造る時は、そこで何回か溶けた不純物を外に取り除いてる」

「だから、オリハルコンも、ゆっくりと温度を上げていって、溶鉱炉で溶かす前の少し低温の状態を長時間維持して、オリハルコンが錬成されるのを待ち続ければいいはずだ」

「過程は、そのはずだよね」

 イオルクはガシガシと頭を掻く。

「製法も、やっぱり折り返し鍛錬にしたいな」

「それが出来るかな?」

「分からん。だけど、型に流し込むって、手抜きな感じがしないか?」

「僕は、平然と伝承の方法を破っていいかの方が気になる」

「いいんじゃないか? 伝承の造り方より、手間隙掛ける分には?」

「そうなのかな?」

 イオルクは腕を組む。

「さっきも言っただろう。昔の連中が折り返し鍛錬を知ってたかも怪しいって。ドラゴンテイルの伝説の武器は刀だったけど、型に流し込んで造ったんじゃないか? もしくは、合金だったから折り返し鍛錬することが出来たとか?」

 アルスは思い出して口にする。

「そういえば、オリハルコンのみの武器ってないね?」

「多分、オリハルコンを扱えなかったんだよ。量とか固さとか技術とかの問題で」

「じゃあ、僕達で造れないんじゃないの?」

 首を振ると、イオルクは目に力を込める。

「……いや、無理してでも造ろう。ここでやらなきゃ、今まで培った努力が無駄になる。オリハルコンを使う以上、手抜きはしたくない。工程の一つも省きたくない」

 そのイオルクの目に、アルスは頷く。

「お爺ちゃんが言うなら、それがいいと思う」

「型に流し込むなんて楽な製法が取れない分、遠回りになっちまうけどな」

「最高の素材を使うんだし、それぐらいの苦労はしないといけないのかもしれないね」

「じゃあ、もう少し繊細に仕事をしよう」

「うん」

 最初の火炉使用は、使ってみて初めて分かるものだらけだった。結局は、自分達で何度も試して資料を作り上げるしかない。知らないものを三十年以上の知識に裏づけして、知っているものに変えるしかないのだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?