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作製編  12 【強制終了版】

 翌日、オリハルコン専用の鍛冶場――。

 受け皿で固まったオリハルコンと白剛石の合金をアルスは手に取る。

「あんなんで、よく混ざり合ったなぁ。この鉱石って、一体、何なんだろう?」

 地下にある白剛石の金敷は金属を叩くため、地面に埋め込まれている頑丈な金床だ。アルスは、それの角に合金を打ち付けてみた。

「両方とも傷一つ付いてない。この白剛石だけでも反則的な硬さなのに……」

 手の中の合金は、それ以上の硬度を持っているはずだった。

「ただオリハルコンは、ケチってるから……」

 どれぐらい硬度が上がっているかは、今のところ不明だ。

「もしかして、砥石の硬度も数種類用意して武器を研がないといけないとか……」

 十分考えられそうだった。

「オリハルコン……足りるかな?」

 アルスが複雑な顔で考え込んでいると、イオルクが姿を現わした。

「さて、オリハルコンの調査を始めるか」

 手に持っていたノートと鉛筆を鍛冶場にあった机に置き、イオルクは側の椅子を引っ張って座ると、オリハルコンの量、赤火石の量と調べるべきものを書き込んでいく。

「しまった。調査の前にオリハルコンを置く台座を用意しないと、観察できない」

 イオルクは火炉に向かうと、昨日使った比較的平らな赤火石を五個取り出す。

「コイツにオリハルコンを乗せて、溶ける量を量ろう」

「赤火石は、燃料に使った後も捨てられないね」

「そうだな」

 イオルクが立ち上がり火炉に向かうと、アルスも続く。

「さて、火炉を綺麗に片付けよう」

「うん」

 イオルクとアルスは、火炉の整備に入った。


 …


 火炉の整備を終え、使用後の赤火石にオリハルコンの粒を一つだけ載せる。それが溶けた時、伝って外まで流れるように使用済みの赤火石を丁寧に並べる。

「よし。赤火石の量を確認して、火炉に着火しよう」

「うん」

 黄雷石を赤火石の側に置き、オリハルコンの入った小瓶を近づけると、バチッと音を立たせ黄雷石が放電した。その後、赤火石が反応する範囲を広げ、赤火石が赤く熱を発し始めた。

「鞴(ふいご)を繋ぐぞ」

 イオルクとアルスが円筒を火炉に接続すると、円筒の石についているスイッチを回す。円筒の中に刻み込まれた月明銀が風を流す形態の意味に変わり、円筒が火炉に風を送り始めた。

「さて、暫く待とう」

「最初だから赤火石の量は少ないのに、もう、この熱だよ」

「普通の鉄鉱石なら、赤くなり始めてるな」

 火炉の熱が上がり切るまでの間、イオルクとアルスは話しをすることにした。

「お爺ちゃん」

「ん?」

「最終的には玉鋼を造る時みたいに……たたら製鉄? たたら製オリハルコン?」

「言い難いから製鉄にしとこう……。鉄じゃないけど」

「うん。それで、たたら製鉄するの?」

「そのつもりだ。このまま火炉に使用済みの赤火石のケラを組んで錬成して、もう一度、火炉を整備して武器造りだな」

「手間が掛かるね」

「そう思うよ。火炉は手造りの特別性。燃料は馬鹿にならない赤火石の高級品。黄雷石で着火したら、赤火石は火炉の壁か、受け皿にしかならない」

「伝承通りなら、型を造るのも赤火石だよね?」

「そうだけど、折り返し鍛錬で武器を造るなら型は要らない。何にせよ、凄い金食い虫だ……」

 イオルクは、がっくりと項垂れる。

 赤火石は、イオルクの旅が終わってから買ったものだ。燃料に使うと分かっているため大量に買い込んではいるが、そのせいで稼ぎのほとんどが消えている。これから、もっと必要になるのかと思うと、イオルクから乾いた笑いが漏れた。

 そんなイオルクにアルスが声を掛ける。

「ところで……」

「あん?」

「ドラゴンテイルの伝説の武器と赤火石の武器がぶつかったら、赤火石の武器は石になっちゃうんだよね?」

「隊長のレイピアは赤火石だから反応しそうだな。オリハルコンと黄雷石の合金の武器は、赤火石の天敵だろう」

「オリハルコンと赤火石の合金なら平気なのかな?」

「平気なんじゃないか?」

「…………」

 アルスは考え込む。

「どうした?」

「オリハルコンと赤火石の合金の伝説の武器がないのって、造れないからなんじゃないかと思って」

「ん?」

「本来なら合金を造るのも、この火炉を使うはずだよね? つまり、このオリハルコン用の火炉では、赤火石の合金は造れないよね?」

「着火する黄雷石に反応しちゃうから――そうだ……。上の鍛冶場で合金造れないんだった! 石として反応している赤火石で、オリハルコンと赤火石の合金は造れないんだ!」

 何で、オリハルコンと赤火石の合金の武器が造られていないのかが分かった気がした。もし、赤火石とオリハルコンの合金を造るなら、赤火石に代わる別の燃料が必要になるということだ。

「そして、もう一つ悲しいお知らせがあるんだけど……」

「悲しい?」

「合金の鍛冶道具を造る度に火炉の整備と赤火石の燃料が消費すると思う……。忘れてない?」

 イオルクが頭を抱える。

「忘れてた~~~! そうだよ! しかも、特殊な鉱石も溶かすのにも、火炉が壊れるぐらいの火力が要るんだった! まだ造ってない鍛冶屋はし、どうすんだよ! ……白剛石の入れ槌を造る時も、燃料の石炭や薪も倍は掛かったんだ。実際、初めて黄雷石を使った武器を造った時は、ドラゴンテイルの火炉を壊したし」

「あ~あ……」

「あの時は、本当に俺の火炉じゃなくて良かった」

「……そういう問題?」

「その代わり、滅茶苦茶怒られたけどな」

「お爺ちゃん、怒られてばっかりだね?」

「いいんだよ」

 イオルクは、そっぽを向く。

「そろそろ赤火石を足すぞ」

「誤魔化した……」

 アルスは赤火石の量を量ってノートにメモすると、火炉の中に赤火石を静かにくべる。火炉の中では、更に炎が猛る。

「問題山積みだな……」

「地道にやるしかないよ。赤火石は特に無駄に出来ないから、この実験も精密に無駄なくやらないと」

「……赤火石足りるかな?」

 その後も、徐々に赤火石を増やし、実験は続く。ノートには、びっしりとメモが書き留められた。その結果、オリハルコンの錬成に必要な赤火石の量の予測量と、折り返し鍛錬に必要な火炉として使う赤火石の量が導き出された。

 これにより、火炉は暫くの間、オリハルコンを錬成するケラとして使われることになった。

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