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作製編  25 【強制終了版】

 一日明け、宿屋で一泊したアルスとリースは、イオルクの実家のあるノース・ドラゴンヘッドの王都を目指していた。リースは、ご機嫌で小さなリュックサックを背負って歩き、アルスは少し困り顔で大きなリュックサックを背負って歩いていた。

 原因は、昨晩。日課の武器の鍛練と魔法の鍛練。しないわけにはいかないことをリースが見ていたこと。リースは、アルスが戦い方を知っていることを知ることになる。二日前は、鍛冶屋であって、戦い方を知らないものとばかり思っていた。つまり、自分が復讐を果たす上で必要な戦う技術をアルスが持っていないと思っていた。この戦うという技術を、どうやって手に入れるかが最大の問題だったが、幸いにも家族になった少年はそれを持っていた。

 リースは笑顔でアルスに振り返る。

「ねぇ、アルス」

「……何?」

「私に武器の使い方を教えて」

 アルスは溜息を吐く。この質問は、何回目か……。

 復讐を諦めて普通に暮らして欲しい女の子に、戦い方を教えることなんて出来るわけがない。

「リース……。僕はリースに危ないことはして欲しくないんだけど」

「じゃあ、アルスが代わりにやっつけてくれる?」

「襲われた時は、リースを抱えて走って逃げるよ」

「ちっが~う!」

「……何が?」

 リースは腰に手を当て、眉を吊り上げる。

「私が言っているのは、街を襲った盗賊をやっつけること!」

「そんな何処に居るかも分からない盗賊、放っときなよ」

「ダメ!」

 アルスは頭に手を持っていく。

「困ったなぁ……。これじゃ、護身用の魔法の呪文も教えられない」

「魔法は要らない」

「どうして?」

「同じ目に合わせるから」

(この子……。最初に会った時は、普通の優しい大人しい子だったのに……)

 アルスは溜息を吐く。この暴走する女の子を止めるには、どうすればいいのか……。

「リース……。一言だけ言っておくけど、女の子には盗賊団は倒せないよ」

「どうして、言い切れるの?」

「多分、リースは僕より強くなれないのが理由の一つ」

 リースは疑問符を浮かべて首を傾げ、昨日と同じ草原の中の道を歩きながら、アルスの説明が続く。

「いい? 魔法使いをなしに強さを考えると、頂点に居るのが騎士の人。次に盗賊。その次に体を使って仕事をしている一般人。その次が、ただの一般人」

「どんな分け方なの? それって?」

 リースは『意味が分からない』という顔をしている。

「騎士っていうのは戦いを専門職にしている人。毎日、体を鍛えて、毎日、戦うことを考えている人。一番強いのは分かるよね?」

「うん」

「次に盗賊。悪いことをしている分だけ、戦うことに慣れてる。そして、真面目な盗賊と不真面目な盗賊に分けられて、ほとんどが不真面目な盗賊」

「……ますます意味が分からないんだけど」

 アルスは思い出し笑いをする。

「だろうね。僕も、お爺ちゃんから聞いた時は分からなかったよ。盗賊って、基本、楽して奪う人達でしょう? だから、武器を使い慣れてても、真面目に訓練してないんだ。真面目に訓練できる人なら、真面目に働くからね」

(なるほど……)

「だけど、中には盗賊家業に目覚めて、天職と感じて努力し出す人も居るらしいんだ。そういう人達は凄く強い。盗賊なのに努力してるからね」

「……聞いてて、凄い違和感がある」

「同感……。僕も初めて聞いた時は、同じ気持ちだったよ。でも、そういう人達が居るからハンターのビンゴブックが成り立つし、手配書が出回るんだ。そして、そういうのが不真面目な盗賊達を取り纏める親分になる」

「理由を聞けば、納得」

「うん。で、次に体を使ってる一般人。戦闘訓練をしてないけど、力はある。そして、最後に一番弱い一般人になる」

 リースは頷く。

「更に分割すると、人間には遺伝と性別というものがある。魔法使いの才能が両親の資質に影響するように、騎士の体の強さも両親の遺伝の影響を受け継いでる。騎士の家系だったお爺ちゃんの体は、同じ歳の僕よりも一回り大きくて、筋肉もつき易かったんだって。だから、僕を見ると『へなちょこ』という言葉が出たんだ。特に僕は、両親が魔法使いだったから、筋肉がつき難いみたい」

「そうなんだ」

「それでも、お爺ちゃんにしっかり鍛えて貰ったけどね。次に性別。男と女だと、どうしても筋力に差が出ちゃう。体の大きさなんかも。それを無視して筋肉ムキムキのリースなんて、僕は見たくない」

(それは激しく嫌かもしれない……)

 リースは想像すると、眉をハの字にして項垂れる。

「だから、一般人の僕やリースが盗賊団を倒すのは不可能に近い」

(……それでも諦められない。でも、それだと……。何で、アルスは武器と魔法の鍛練を続けているんだろう?)

 リースには疑問が残ったが、次のアルスの言葉に、疑問は何処かへ行ってしまう。

「だから、盗賊団を倒すの諦めない?」

「諦めない! 筋肉ムキムキになってもいいもん!」

「えぇ……」

 アルスは本気で嫌そうな顔をした。

 そして、そんな会話の中で会いたくもない者と対峙する。

「金と荷物を置いて行け」

 アルスとリースの前に、盗賊が現われた。


 …


 ぼさぼさの髪。汚い無精髭。血走った目。半分壊れた皮の鎧。手には錆びたナイフ。それが現われた盗賊の姿だった。

(何で、こんな時に……。まあ、向こうから見えた時から旅人とは思えなかったけど……)

 アルスは見渡しのいい草原を見回す。どうやら仲間の居ない一匹狼のようだ。そして、立っている姿勢、行き届いてない装備から、取るに足らない相手と判断する。

「リース、下がって」

 アルスがリースを自分の後ろに下げると、リースは一般人であるアルスを心配そうに見詰める。

(一対一なら、殺さないで済みそうだ)

 アルスは左足の横に下がる大剣に左手を掛け、右手で大剣吊るしている革帯のボタンをパチンと外す。そして、鞘の付いたままの大剣の柄を両手で握った。

「ず、随分と、ご大層なメイスだな?」

 盗賊は大剣の大きさに驚かされ、一方のアルスは盗賊の言葉に確信する。

(お爺ちゃんの言った通り、鞘が付いていれば大剣とも気付かない。これから、これはメイスとして大剣を封じよう)

 アルスは真っ直ぐに、盗賊にメイスを構えたまま話し掛ける。

「このまま通してくれれば見逃してあげるよ」

「ガキが生意気言ってんじゃねぇよ。こっちは、久しぶりの獲物なんだ」

「そうか」

 盗賊はナイフを振り被って、真正面から襲い掛かってきた。リーチの違う武器に対して、振り被ってくるのは余りにお粗末過ぎる。ナイフを振り下ろしてくるのが丸分かりだ。

(体のキレも悪い!)

 アルスは盗賊の体が更に開いた瞬間、振り上げもせず、薙ぎ払いもせず、ただ突き出した。

 後ろから見ていたリースには、盗賊がアルスの武器に自分から突っ込んだように見えた。タイミングを合わせただけで倒せるぐらいに、この盗賊は弱かった。倒れた盗賊はピクリとも動かない。

 アルスは大剣を元の左腰の横に固定して、リースに振り返る。

「気絶しちゃったね。もう、大丈夫だよ」

 リースは無言で頷き、倒れている盗賊を見続けている。その前で、アルスはリュックサックを降ろしてロープを取り出すと、気絶する盗賊を縛り上げた。次の町で、ハンターの営業所にでも突き出す予定だ。

「この人、私達を殺そうとしたの……?」

「どうかな? 僕達がお金を置いて、怯えて逃げ出せば殺さないと思うけど」

(だけど、コイツはアルスにナイフを向けた……。こんな奴らが居るから……)

 リースは地面にしゃがみ込み、盗賊の手から落ちたナイフを握ると、ゆっくりと立ち上がって、それを盗賊に向けた。

「コイツらが居るから……。こんな奴が居るから……!」

 リースは両手でナイフを握り締め、倒れている盗賊に走り出そうとした。

「!」

 しかし、リースの体は前に進まない。ビクともしない。自分のお腹の辺りをしっかりと両腕が押さえている。

「放して! コイツを殺すんだ!」

「殺そうとする人間を放せるわけないじゃないか!」

「コイツは、また人を殺す! そうすれば、また人が死ぬ!」

「だから、次の町で突き出すよ!」

「私が殺す!」

「リースが殺さなくていい! 次の町で、裁きを受ける!」

「それじゃダメなんだ!」

 リースは髪を振り乱して、アルスの拘束を解こうと暴れ回る。アルスは、それを押さえ付けるしか出来なかった。

 暫く暴れ回ったあと、リースが諦めてペタンと座り込んだ。

「どうして……。殺させてくれないの……」

「リースが手を汚す必要はないよ」

「だって、コイツらがこんなことをしなければ、街の皆が死ぬことはなかった……」

「だけど、これは無益な殺しだよ。この人は、次の町で裁かれる」

「私が殺しても同じじゃない……」

 アルスは首を振る。

「違うよ。リースみたいな子供の手を汚さないために、代わりに手を汚して裁いてくれる大人が居るんだ。その人達がリースを守ってくれているんだ」

「それでも……。それでも許せないよ……」

(リースの言っていることは間違いじゃない。僕が言っているのが綺麗ごとだ。だけど、それでもこんな子が手を汚すのはダメなんだ。それが大人の役目だ)

 アルスは、リースの頭にそっと手を置く。

「リースが許せないように、僕も、リースがそんなことをするのを許せないよ」

「何で、アルスはそんなに甘いの……」

 アルスは少し俯く。

「お爺ちゃんに、人を殺す虚しさを沢山聞いたから……。それと、僕も人を殺した不快な思いを知っているから……」

「……え?」

「僕は、人を殺しているんだ」

「……嘘?」

 何も答えないアルスに、リースは言いたくないことを言わせてしまったと、言葉を止めた。


 …


 本来なら目的の二つ先の町まで進むことも出来たが、訪れた一つ目の町でアルスとリースは盗賊をハンターの営業所に引き渡したあと、宿に泊まることにした。

 何処の町にでもあるような小さな木造の宿の小さな一室で、アルスはリースとしっかり話し合うことにした。お互いを知るのに、まだまだ知らないことが多過ぎる。

 何より、リースの中にある闇と、どのように向き合わなければいけないかをリースと一緒に考えなければいけない。人を殺すことを簡単に出来るようになってはいけない。それはイオルクがアルスに教えてくれた大事なことでもある。

 アルスは部屋に置いてある椅子に座り、リースはベッドに腰掛けていた。

「リース、ちゃんと話し合おう。お互いの意見を押し付け合っても、何の解決にもならない」

「うん……」

「僕も話せることは、正直に話すから」

「うん……」

 リースは少し視線を上げ、小さな声で確認する。

「アルスが人を殺したって……、本当?」

「本当だよ。お爺ちゃんと出掛けて、盗賊に襲われた時に初めて殺したんだ」

「仕方なく?」

「仕方なくだった。殺されるわけにはいかなかったから」

「…………」

 リースは、その言葉が少し信じられなかった。目の前のアルスが人を殺している。何か嫌なものがある。

(……あ。だから、私を止めているのかもしれない。私が人を殺せば、アルスもそういう気持ちになるんだ)

 でも、根本的なものが分からない。


 ――何で、人は殺したり、殺されたりするのか?

 ――殺されたから殺すのはいけないのか?


「分かっているのは、許せないということだけ……」

 だから、ナイフを握った。悪いことをする人――人を殺そうとした悪人を排除したいと思っただけだ。

「何で、いけないの……」

「もう、拘束して動けなかったから。あの人は裁かれるんだ」

「でも、人を殺していたかもしれない。また、人を殺すかもしれない」

「だからと言って、あそこで殺す必要はないと思う」

「何で……」

「僕達は悪い人を追って殺す人間じゃない。僕は鍛冶屋でしかないんだ。そして、リースは鍛冶屋の娘になったんだ。役割が違う。それをするのは、この国の騎士の役目だ」

「…………」

 暫く黙ったあと、リースはポツリと呟く。

「私……。本当は、何がしたいんだろう……。アルスみたいに鍛冶屋になるとか、そういうのがなくて、ただ仇を討ちたい思いで一杯……」

 リースの言葉を聞いて、アルスは少しだけ視線を落とす。

「少しだけど、気持ちは分かるよ。僕も目の前で大事な人を殺されたから……」

「アルス……」

「あの時は、震えて何日も眠れなかった。両親の安らかな眠りを祈ることも、殺されたことに怒ることもしないで、自分が殺されるかもしれないという恐怖に震えていた。僕は弱虫だった。胸の中に渦巻いていたのは恐怖だけだった。そして、その時、何になりたいかなんて考えてなかったよ」

「考えてなかった?」

「リースと同じだったってことだよ。何も考えられなかった」

 アルスは、ここで大事なことを思い出す。

「……僕は大馬鹿だ」

「アルス?」

「お爺ちゃんは、その僕に手を差し伸べてくれたのに……。僕は、リースをほったらかしだ」

(同じ境遇で、誰よりも分かっていたはずなのに……)

 アルスは、あの恐怖から引っ張り上げてくれた力強い腕を思い出す。一緒にナイフを造って、恐怖で支配された心に勇気をくれた……。ならば、今、復讐に囚われているリースに、何をすべきか考えなければいけないのが自分の役目だった。

「ごめん……」

「どうしたの?」

「しっかりと考えていなかった……」

「何を?」

「リースのこと。何がしたいのか分からないなら、何がしたいのかを考えなきゃいけなかった」

「……一緒に考えてくれるの?」

「考えなくちゃいけなかったんだ」

(どうしたんだろう?)

 アルスはピシャンと自分の頬を両手で叩く。

(しっかりしろ! 僕は成り行きとはいえ、リースの家族になったんだ!)

 アルスは、リースをしっかりと見る。

「まず、これだけは言っておく。アイツらは許さなくてもいい。それは僕も同じだ」

「同じだったの?」

「うん。許すのは殺された人達への冒涜だと思う」

「うん」

「それでも、率先して殺すのは反対だ。気持ちは変わらない」

「うん」

「リースは、人殺しをしたいわけじゃないんだよね?」

「許せない。だから、殺したいと思ってしまう……」

「分かった」

(許せないことが同じことを仕返すに結びついているんだ)

 アルスは一息吐いて、自分を落ち着かせる。

「こんな世界だから、人が人を殺す場面もある。その時、自分を守るために戦う場面もあるかもしれない。みすみす殺されるわけにはいかないし、リースを殺させるわけにもいかない。逆にリースも、僕を殺させたくはないはずだよね?」

「うん、死んで欲しくない」

「そういう場面は戦おう。僕もリースも一生懸命に」

「うん」

「だけど、それ以外の場面で、率先して殺しに行くようなことや、危ない場面に首を突っ込むのは控える。理由は分かるよね?」

「私達が騎士じゃないから」

「うん、その通り」

「でも、また盗賊を見たら――」

(止まれないかもしれない……)

 アルスは、ゆくっりと頷く。

「その時は、僕が止める」

「許せないのに止まれない……」

「力ずくでも止める。そして、何度でも止めてあげる」

「うん……」

 俯くリースを見て、アルスは同じことを仕返すということに嫌悪感を持たせようと、少し話を変える。

「ねぇ、率先して殺すのは悪いことだと思わない?」

「悪い?」

「率先する――明らかに自分からだよね? 何もしてない相手を殺す。町の人がされたこと。卑怯だよね?」

「うん」

「何も動けない相手を殺す……、似てない?」

「……似てる」

「一緒のことをしちゃダメだよ」

「……………」

 リースは頭の中で考える。しかし、考え続けても答えは見つからない。

「じゃあ、どうればいいの?」

「突き出すだけでいい。しっかりと大人が裁くから」

「裁いてくれる?」

「裁いてくれる。それにそっちの方が大事かもしれない。盗賊に自分の罪を分からせるんだからね」

「罪を分からせる?」

「そこで、反省してくれる人が居るかもしれないのは?」

「反省するかな?」

「する人も居ると思うよ。そして、反省した人は、今度は一生罪の重さを背負っていく。それは、とても辛いことなんだ」

「罪を一生背負う……」

 アルスは頷く。

「僕は、そういう苦しんでいる人を知ってる」

「知ってるの?」

「うん。僕の両親を殺した人だよ」

「…………」

 リースは息を飲む。

 アルスは殺した仇を知っている。そして、それを知っていて、今まで生きてきた。

「魔法特区……。その町で会わせてあげる」

「……うん」

 顔を強張らせたリースを見て、アルスは少し分かってくれたと安心する。だから、リースが知りたがっていたことを許可しようと決める。

「それと身を守るために武器の使い方を教えるよ。これは殺すためじゃない」

「……いいの?」

「しっかり生きるために、武器を握る意味を覚えて」

 アルスの目はリースを信じていると言っている。信じているから教えるのだと……。

 リースは頷きながら答える。

「しっかりと考える。このままじゃいけない気がするから」

「うん、少しずつ分かっていこう。人を傷つけるということ。武器を手に取るということ。そして、自分自身と向き合って、後悔しない選択を出来るようになろう。僕も一緒に考える」

「アルスの考えと違うかもしれないよ?」

「それでもいい。僕が間違っているかもしれない」

「アルスも間違うの?」

「間違ってばっかりだよ」

 アルスは微笑んだ。

「さっきも、リースのことを考えないで、自分ばっかりだった。リースが答えを見つけてないなら、一緒に考えなきゃいけなかったのに」

「それは間違いなの?」

「僕は間違いだと思った。家族になったお爺ちゃんは、弱虫の僕を放っとかなかった。怯える僕を立たせる勇気をくれて、僕は勇気を貰った。それが答えの一つだった」

(他にも色んなことを教えて貰った)

 アルスは、イオルクに教えて貰ったこと全てが答えだと感じていた。

 リースは自分を指差す。

「私の答えは?」

「リースは僕と違って強いけど、その分、復讐に囚われている気がする。だから、『復讐するということは、どういうことか』『相手を傷つけるのは、どういうことか』を知っている僕が教えて、それを知ってから一緒に答えを出そう」

「うん……」

「明日、武器の怖さから教えるよ」

「分かった」

「それと――」

「何?」

「――昼間、リースを諦めさせるために少し嘘をついちゃった」

「嘘?」

 リースは何が嘘かを思い出せず、疑問符を浮かべる。

「騎士と盗賊と一般人の話」

「ある程度、納得できたけど?」

「武器の性能を加えると、がらりと変わるんだ」

「そうなの?」

「うん。ごめんね、嘘ついて」

 リースは小さく微笑む。

「許してあげる。私を気遣った優しい嘘だから」

「本当にごめんね」

 リースはベッドから立ち上がると、アルスの手を取る。

「明日、全部教えて! 今日は終わり!」

 リースは、今度は力強い笑顔を見せてくれた。アルスは、その笑顔に引っ張られるように微笑む。

「夕飯を食べに行こうか?」

「うん!」

 アルスとリースは部屋を出る。

 二人は、この日、少し本当の家族になったような気がした。

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