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作製編  37 【強制終了版】

 十分後――。

 トルスティがアルスの居るゴール地点に現われた。

「何と言えばいいのか……。前代未聞のことが起きてしまいました」

「よく言いますよ。試験官のクセに指示を出すなんて」

「それは……、すみません。感情的になってしまって」

「兎に角、これで試験は終わりですよね?」

「いや、まだです」

「は?」

「ランクCは、受験者同士の競い合いがあります」

「この試験でパスしたんじゃないんですか?」

「これは実力者が試験の時間を割くためのE、DランクとCの実技を省くためのものなのです」

 まだあるのかと、アルスは溜息を吐く。

「で、競い合いって、何なんですか?」

「魔法を撃ち合うだけです」

「次こそ、死に兼ねないんですけど……」

「何故? 君は、使用者の魔法同士をぶつけられるほどの熟練者でしょう?」

「僕、レベル1の魔法しか使えないんです」

「……え?」

「レベル1の魔法しか使えないんです! だから、さっきの試験も走って逃げてたんです! 魔法同士をぶつけたのは、苦肉の策です!」

 アルスが声を大にして叫ぶと、トルスティはアルスを呆れた目で見る。

「君は馬鹿だったのですか……」

「仕方ないじゃないですか! トルスティさんがミストに試験を受けさせないって言うんだから!」

「そこまでする義理があるのですか?」

 アルスは項垂れる。

「この試験で終わりだと思ったんですよ……。これなら、さっきの試験で円の中に居て、時間切れで不合格になればよかった……。ランクCで競い合いなんて、相手は確実にレベル3以上の魔法使うに決まってるし……」

「次の試験は、逃げ場がないですからね」

「何かいい手はないんですか?」

「そう言われましても……」

 更に深く、アルスは項垂れた。

「なるようになるか……」

 諦めると、アルスはトルスティに向き直る。

「レベル2、3を使う気配があったら助けてください」

「何故、そのレベルだけ?」

「広範囲で躱せないからです」

「レベル1、4は?」

「さっき、躱して見せたじゃないですか」

「また、あれをやるつもりなのですか……」

 今度は、トルスティが項垂れた。

「手段なんて選んでいられませんよ」

「ただ避けられますかね?」

「そういえば、さっきも逃げれないようなことを言ってましたね?」

「部屋が狭いのです」

「どうして……」

「射程の短い魔法でも、ぶつけ合うためです」

「それを体に当てないで、魔法だけをぶつける方法はないんですか?」

「結局、貴族の作ったルールですから、力を見せ付ける必要があるのですよ」

「なんて要らない見栄なんだ……」

「まあ、尤もなのですが、私は従う以外の選択肢はありませんし……」

「上司に逆らえない部下なんですか?」

「管理職も辛いのです」

(この国、ダメかもしれない……)

 アルスは激しく項垂れた。


 …


 アルスの受けた(受けさせられた)試験は、時間短縮のためのもの。ランクCの競い合いまでは時間に余裕があった。トルスティから荷物を受け取ったあと、アルスは待合室で待っているリースに会いに行った。

「終わったの?」

「それが……、もう少し掛かるみたいなんだ」

「ランクFを受けた人達は、とっくに出て行ったよ?」

「色々あってね……」

 アルスが乾いた笑いを浮かべると、リースは疑問符を浮かべて首を傾げた。

「お腹空いてない?」

「お腹が空くには、中途半端な時間かな?」

「そうだよね。今日の受験者って、あの人達だけのはず。僕と同じ試験を受けた人が居なかったから、あの人達を待つのかな?」

 リースは欠伸をする。

「待ち疲れちゃった……」

「ごめんね」

「別にいい。そういうルールなんだから」

「貴族のハンター営業所か……」

 ハンターの営業所の中は、試験を受けるまでの賑わいがなくなっていた。この国では試験を受けるために利用されるだけの存在らしい。

 リースがアルスに質問する。

「試験、どうだった?」

「簡単だったよ。リースなら少し基礎を覚えれば、直ぐにでもハンターになれるよ」

「本当?」

「うん。年齢制限で引っ掛るかもしれないけど」

「そうだね」

「あと、ここで登録すると、登録されるタイプが魔法使いになるね」

「それ、イヤ。私、戦士とか剣士がいい」

「何で?」

「そっちの方を一生懸命に頑張ってるんだもん」

「どうしてリースは、そっち方面になりたがるんだろう?」

「いいでしょ」

「個人の好みを強制できないけど……」

 アルスはリースの魔法の才能は羨ましいが、本人の努力を否定するのは苦手だった。それにリースは着実に技術を身につけている。

「でも、魔法もしっかり使えるようにはなっとくよ」

「本当?」

「魔法にも間違い探しがあるんでしょ?」

「あるよ」

「やっぱり」

「詠唱なら、間違い探しは『耳』になるけどね」

「それで判断するの?」

「そう。使ってる呪文は共通だから、特定の単語を聞き分けて発動までの時間を予測するんだ」

「なるほど」

「お爺ちゃんは魔法を使えなかったから、僕達よりも大変だったんだろうな。発動の感覚は全部想像だから」

「アルスのお爺ちゃん、魔法使えなかったんだ?」

「使えなかったって」

「そういう人も居るんだね」

「友達に感覚の鋭い人が居て、看て貰ったけど、体の中に魔法を使う力が入っていかないんだって」

「初めて聞いた」

「僕も、初めて聞いたよ」

 それから暫くの間、アルスとリースは会話を続けていたが、やがて営業所の中がざわつき始めた。

「他の人達の試験が終わったみたいだ。行ってくるよ」

「うん、頑張ってね」

 アルスは手を振って試験会場へと戻って行った。

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