何ともギスギスした朝食も終え、いよいよ我が愛しの後輩、ましろんの初登校の時間が近づいてきた朝の7時30分。
登校準備も覚悟も完了させたプチデビル後輩と、優雅に、されど美しく
「ところでジュリエットさん、
「まさか。徒歩で通学していたら何時間かかるコトやら」
「そ、そうですよね!」
よ、よかったぁ~。と、あからさまに強ばっていた表情を緩めるましろん。
まぁ確かに、この桜屋敷が居を構えているカチカチ山はおとぎばな市を一望できる程の標高にあるのだ。
行きは
「行きは本邸の方から車を回させる手筈となって――っと、噂をすれば、か」
強化外骨格もビックリの外面の仮面を貼りつけたジュリエット様の視線が玄関の方へと移動する。
それに続くように俺とましろんも視線を移すと、小気味よいエンジン音と共にリムジンバスらしき黒塗りの外車が屋敷の敷地内へと入ってきた。
どうやらアレが今日のお嬢様たちの足らしい。
「お、おぉ~……さすがはお金持ち。車1つとっても気品を感じる……」
「君の家もさして変わらないだろうに……」
と呆れた表情で感心するましろんを見つめるジュリエット様。
まぁましろんは血統はともかく、根は庶民だからな。驚くのも無理はないぜ。
かくいう俺も最初の頃は生活水準の違いに驚いていたもんだ。
「――お待たせしましたジュリエット様、白雪様」
「待たせたのう姉上。それから白雪家のシンデレラよ!」
「……マリア、なんでオマエがココに?」
今日も運転手は田中ちゃん(25歳、独身、彼氏ナシ)なのかと思えば、運転席から出てきたのはガタイのいい大柄の男であった。
その引き締まった身体に巨木のごとき腕のせいで、今にも燕尾服がはち切れんばかりにパッツパツだ。
コレが女の子なら萌えていた所だが、野郎なら興味はない。
パツパツになるのは股間のマグナムだけで充分だ。
「『なんで』とはまた連れない挨拶じゃのう姉上。せっかく同じ学院に通っているんじゃ、姉妹仲良く一緒に登校しようではないかえ?」
「仲良く、ねぇ……。マリア、オマエ、何か企んでないか?」
「企むだなんてそんな人聞きの悪い。相変わらず姉上は疑り深いのぅ」
リムジンバスの窓からニヤニヤと顔を覗かせているのは、ジュリエット様の妹君にして昨日から私立セイント女学院のピカピカの1年生になったばかりのマリア様だ。
そんな彼女の奥には黒スーツを着込んだ3人の野郎共が俯くようにして静かに座っていた。
マリア様の護衛の奴らだろうか?
それにしては雰囲気はちょっと違うような……う~ん?
異様な雰囲気を醸し出す黒スーツの3人に視線を向けていると、クイクイッ! と控えめに執事服の裾が引っ張られた。
俺は野郎共に向けていた意識を
俺は我が後輩の愛らしい唇までロミオイヤーを近づけると、ましろんはナイショ話でもするかのように『ポショッ』と小さく耳打ちをしてきた。
(ねぇねぇセンパイ。あの変な語尾をした生意気な金髪娘は一体誰ですか?)
(あぁ、あのエロマンガに出演したら絶対に小汚いオジさん、もしくは事務員に分からセクロスさせられそうな女の子はジュリエット様の妹だ。名前はマリア・フォン・モンタギュー、昨日から私立セイント女学院の1年生になったばかりのお嬢様だよ)
(相変わらず比喩表現がぶっ壊れてますねセンパイ……でもそうですか。あの子がモンタギュー家の……)
どうやら初めてマリア様のお顔を拝見したらしいましろんは、何故かジトッとした眼つきを俺に向けてきた。えっ、なんで?
(……なんかセンパイの好みど真ん中の顔をしてますよね、彼女)
(そうなんだよ! あの整った容姿といい、パンストが絶対に似合うハイパードスケベえちえちボディといい、日頃頑張っている俺へ神様がプレゼントしてくれたとしか思えないくらい脇腹が抉られて痛いィィィィィッ!?!?)
(よくもまぁ自分に告白してくれた女の子を前に別の女の子をベタ褒めできますね? センパイのバカ……)
ぷくぅっ! と頬を膨らませながら俺のわき腹を
その表情はどこかイジけているような、ふて腐れているような、唇をツンッ! と
ダメだ、初めてのセクロスを体験した女子校生のような痛みが俺を襲ってまともな思考回路が出来ない!
俺は周りに気づかれないように表情だけはマグロ女の如く無表情を貫いているが、心の中ではゴロゴロと地面に転げまわっていた。
そんな脇腹を
「……そんなに密着するほどくっついて、仲がいいな2人とも?」
「まぁ真白とロミオさんは彼氏彼女みたいなモノですし、コレくらい普通じゃないですか? ねぇロミオさん」
「……ピピッ! エラー、エラー。回答にお答えできません」
「ふふふっ、
「あははっ、
「「…………」」
「な、なんじゃなんじゃ? この重苦しい雰囲気は一体なんじゃ!?」
2人が放つ異様な圧力にあてられ、アワアワと取り乱し始めるマリア様。
言動がエキセントリックというだけで、中身は普通に常識人であるマリア様には2人の放つ殺気にも似たプレッシャーは
そんな3人のお嬢様の意識が逸れたタイミングを縫うように、ガタイの良い運転手の兄ちゃんが俺のすぐ傍まで近づいてきた。
「失礼しますが、アナタが噂のアンドロイドである【汎用ヒト型決戦執事】人造人間ロミオゲリオン様でしょうか?」
一体どんな噂が立っているのか気になる所だ。
「
「私は田中の代理で本日だけ運転手を務めさせていただく
「先日のお礼、ですか?」
はて?
何かお礼のプレゼントをもらうようなコトしたっけ?
俺の優秀な頭脳がここ数日の出来事を思い返すが……何故かマリア様の怒った顔しか再生されなかった。
というかセクハラした記憶しかないんですが………えっ? そのお礼なの?
もしかしてマリア様って痴女さんなの?
セクハラされて喜んじゃう変態さんだったの?
「……なにか不愉快な勘違いをされているような気がするのじゃ」
眉根をしかるマリア様を尻目に、鬼塚さんが「受け取ってくれますか?」と困り顔で尋ねてくる。
貰えるモノは処女だろうと全てもらっておくのがロミオスタイルなので、俺はコクンと頷いた。
「よかったぁ~。ではどうぞ、コチラがプレゼントです」
そう言って鬼塚さんが燕尾服の下に手を差し込み、ゴソゴソと何かを漁る仕草を見せる。
う~ん、男の体温で温められたお饅頭とかだったら嫌だなぁ。
なんて事を考えていると、鬼塚さんの手が燕尾服から引き抜かれた。
そしてその手にはお饅頭の箱。
……ではなく、10センチほどに切られた鉄パイプが握られていた。
「ほいっ、プレゼント♪」
そのまま目にも止まらぬ速さで鉄パイプを振り上げ、
――ドゴッ!
と肉と骨を砕く音を立てながら俺の脳天へと叩きこまれた。
刹那、俺が崩れ落ちるタイミングと同時に車の中で待機していた黒服2人が飛び出しくる。
「ロミオッ!?」
「センパ――むぐぅっ!?」
「ば、バカ者ッ!? だ、誰がそこまでヤレと
黒服共は声を荒げる3人の口を片手で塞ぎながら、邪魔だ! と言わんばかりに俺の胴体を蹴り上げる。
ドムッ! という嫌な音と共にゴロゴロと地面に転がる俺の身体。
そんなゴミのように捨てられた俺の視界には、ジタバタと暴れるジュリエット様とましろんの姿が目に入った。
「~~~~ぷはっ! は、離せこの痴れ者が! ボクが誰だか分かってやっているのか!? ボクはモンタギュー家次期正統――ムガムガッ!?」
「むぅ~~っ!? むぅぅぅ~~っ!?!?」
「チッ、うるさい2人だ。おいおまえら、はやく黙らせろ」
「「了解」」
鬼塚さん、いや鬼塚がそう短く口をひらくと、黒服2人はポケットからスタンガンを取り出すなり、ジュリエット様とましろんの首筋に当て、
――バチィッ!?
「「~~~~っ!? ………ふぐぅ」」
ダランッ、と2人の身体から力が抜けたのが傍目からでも分かった。
「やっと静かになっただか。って、この小柄の金髪の娘っ子、おっぱいが凄いだよ!? 大きすぎだべ!? 見てくんろぉ、指先が沈むだよ! 気持ちいいだぁ~♪」
「こっちの白雪家のお嬢も中々だぜ? 最近の娘は発育がよろしくってお兄さんたち嬉しいなぁ、へへっ!」
「おいっ、楽しむのは後だ。とっととその小娘共を車に押し込め。ずらかるぞ」
「「へいっ」」
ジュリエット様とましろんの胸を無遠慮に揉みし抱き
どうやらこの野郎共の頭は鬼塚であるらしい。
グニグニと野郎共の指先により、変幻自在に形を変える2人のおっぱい。
正直、あの黒服2人をぶっ殺してやろうかと思ったが……身体が上手く動かない。
どうやら結構いいのを貰ってしまったらしい。
ズキズキと痛む脳天。
無理やりリムジンバスに押し込まれるジュリエット様とましろん。
涙目で抵抗しようとするマリア様。
一連の出来事を
そしてジュリエット様とましろんが車の中へ押し込まれたのを確認すると同時に、リムジンバスが発進。
そのままゴミのように転がる俺をその場に置いて、お嬢様3人と野郎共4人を乗せたリムジンバスは桜屋敷を後にしていく。
俺の前を通り過ぎて行くリムジンバス。
その窓から覗くジュリエット様の苦悶と恐怖に満ちた顔。
――助けて!
と言外に語るその蒼色の瞳を視界に納めた瞬間。
――カチリッ。
と俺の中で『何か』のスイッチの入る音がした。