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第33話 悪役令嬢は本当に『悪役令嬢』だったのか?

 耳を澄ませロミオが遠ざかって行く音を確認し終えたマリアは、その豊満な胸をほっ! と撫で下ろした。


 これで少なくともあの男が死ぬことはない。


 黒煙と火の手が燃え盛り、いよいよ息をすることさえ苦しくなってきた部屋の中で、マリアは1人苦笑を浮かべた。




「ようやく行ったか、あのバカ者め」




 そう言ってマリアは部屋の隅へと視線を向けた。



 ――そこには彼女が脱出するための換気口が……なかった。



「何をしておるのかのぅ、妾は……」




 酸素を喰らい、彼女を焼き殺そうと大きくなる炎から少しでも遠ざかろうと、まだ燃えていない部屋の中央へと移動する。


 おそらく自分はこれから死ぬのだろう。


 凪のように酷く落ち着いた気持ちで今の現状を分析してしまう自分に、マリアは思わず笑みをこぼしてしまう。




「不思議じゃのう。もっと慌てふためき錯乱するかと思っておったんじゃが……存外人間の最期なんてこんなモノなのかものぅ」




 死にたくない! と泣きわめくでもなく。


 生きたい! と強く願うワケでもない。


 ただただ静かに『その時』が来るのを待つ自分に、いささか驚きを覚える。


 が、すぐさまその理由を思い至り、何とも言えない表情になった。




「まぁ、これはコレでハッピーエンドというヤツかもしれんのぅ」




 なんせ犯罪者の娘が最後の最期には人の命を助けた上でこの世を去れるのだから。


 きっと神様もあの世でビックリ仰天ぎょうてんしていることだろう。


 人命救助が出来た上に、これでモンタギュー家からお荷物が居なくなる……まさにイイコトくめだ。


 コレ以上のハッピーエンドが他にあろうか?


 自分のような女にはあまりに上等過ぎる終わり方だ。




「……もうそろそろかのぅ」




 だんだんと熱に犯されたように頭がぼぅっとしてきて、身体に力は入らなくなってくる。


 呼吸をするたびに喉が焼かれるような痛みが走る。


 だというのに、どんどん意識が遠ざかっていく。


 どうやらお迎えが近いらしい。


 マリアは全てを諦めたように、ゆっくりと瞳を閉じ――

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