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第4話 ロミオゲリオンは逃げ出したいっ!

 マリアお嬢様からご相談を受けた翌日の日曜日の早朝。


 いつものように執事服にトロピカルチェンジし、キュアロミオへと――違う、ロミオゲリオンへと変貌した俺はモンタギュー姉妹と共に『とある』超高層ビルの最上階へとやって来ていた。


 そこは明らかにVIP御用達の高級レストランで、その……なんだ?


 俺の場違い感がスゲェんだけど?


 なんかもう、ちょっとした異世界に迷いこんだ死に戻りボーイの気分なんですけど?


 例えるなら、父親がバ美肉おじさんとしてネットでキャピキャピしている所を目撃しちゃった息子の気持ちと言えば分かってもらえるだろうか。何ソレ? この世の終わりかよ?


 と1人落ち着かずソワソワッ!? していると、優雅に紅茶を飲んでいた『鉄仮面』モードのジュリエットお嬢様が声をかけてきてくれた。




「どうしたロミオ? そんなにキョロキョロして? 何か物珍しいモノでもあったか?」

「あぁいえ……少々緊張してしまいまして」

「大丈夫じゃよ、ロミオ殿。今日のこのフロアは妾たちの貸し切り故、人目を気にすることなんぞ何もないぞい」

「マリアの言う通りだ。ロミオは何も心配せずドーンと構えていればいい」

「か、かしこまりました」




 もはやこういう場所には幼少期の頃から行き慣れているのか、至極リラックスした様子で待ち人を待つモンタギュー姉妹。


 服装は真っ白な制服姿でこの場に似つかわしくない格好だというのに、まったくもって違和感が無いのが凄い。


 ほんと、こういう所で育ちの違いを感じるよね!


 これが近所の牛丼屋だったら、俺もその店のヌシのようにふてぶてしい態度でドーンと構えるどころか、まるで実家のような気軽さで業務用冷蔵庫の中に入って『イエ~イッ♪』とお淑やかに中指をおっ立てて写真撮影☆ からのSNSにアップし、青い服を着たサンタさんを特殊召喚する所だが……うん。さすがは高級レストラン、その場に居るだけで身が引き締まる思いだね!


 こういう時は小粋なトークで身も心もほぐすべきだな!




「それにしても、いい場所ですねココ。ゴミ箱1つとってもセンスを感じますよ」

「ロミオ殿、ソレはゴミ箱ではない。インテリアじゃ」




 よし、もう黙っていよう。


 俺は待ち人が来るまで、息を殺して2人のそばに控えることにした。


 風俗の待合室で身内と遭遇したときのような落ち着かない雰囲気の中、待つこと15分。


 レストランの入り口からウェイターさんの「お待ちしておりました」という声音が耳をくすぐってきた。


 と、同時にジュリエットお嬢様とマリアお嬢様は口に含んでいた紅茶を飲み干し、ゆっくりとカップを机の上に置いて振り向いた。




「どうやら来たようだな」

「まったく、妾たちを呼び出しておいて自分が遅れるとは……文句の1つでも言ってやるかのぅ」




 そんな事を口々に呟きながら、入り口の方へと視線を向ける彼女たち。


 そんな主たちの視線を追うように俺も入口の方へ意識を向けると、そこにはお嬢様たちと同じ制服に身を包んだ、赤茶色の髪をした少女が立っていた。


 品の良さを感じさせるたたずまいに、整った顔立ち……なのだが、徹夜でもしたのか、少々やつれて見える。


 どんよりとした瞳で、今にも倒れてしまいそうな足取りでコチラに向かって歩いてくる少女を前に、俺はそっと天をあおいだ。




 ……あぁ、神様。アナタは何故このような小粋なイタズラが大好きなのですか?




 もう明らかに見知った顔を前に、自分でも頬が引きつったのが分かる。


 ジュリエットお嬢様も幽鬼ゆうきのような足取りの少女を前に、さすがの『鉄仮面』モードをたもてなかったのか、ギョッ!? と目を見開いている始末だ。


 逆にマリアお嬢様は見慣れているのか、飄々ひょうひょうとした口調で少女の名前を口にした。




「司馬殿ぉ~。コッチじゃ、コッチ」

「……あぁ、マリアさま。もう来ていらしたのですね? 申し訳ありません、ワタクシが呼び出しておいておきながら、遅れてしまうなん――てぇっ!?」




『司馬殿』と呼ばれた赤茶色の髪をした少女の瞳がコチラを捉えた瞬間、彼女のリトルマーメイドのような瞳がクワッ!? と力強く見開かれた。


 そのまま淑女らしからぬ駆け足で、ダダダダダッ! と闘牛のように一直線にお嬢様たちのもとへと猛ダッシュし始める。


 それには流石のマリアお嬢様もギョッ!? としたのか、慌てて「待て! 待て!?」と口をひらいた。




「と、止まれ司馬殿! 別に妾たちは怒ってなぞおらんから、もっとゆっくり――」

「――お兄さまッ!」




 ガバッ! と慌てふためくモンタギュー姉妹……の脇をすり抜け、赤茶色の髪をした少女、改め司馬涼子ちゃんが勢いよく俺の胸元へと飛び込んできた。


 懐かしい抱き心地と共に、額をグリグリと俺の胸板に押し付ける涼子ちゃんを前に、呆気あっけとられたように口を『ぽかん……』と開けるモンタギュー姉妹。


 涼子ちゃんは「そんなの関係ねぇ!」オッパッピーと言わんばかりに、目尻に涙の雫をむすびながら、感極まったようにその花の蕾のような唇を震わせた。




「今までどこに行っていたのですか!? お兄様が居ない間、涼子は寂しゅうございました! もう2度と涼子を離さないでくださいまし!」

「……あぁ~、司馬殿? これは一体……?」

「ハッ!? わ、ワタクシとしたコトがはしたない……」




 これは大変お見苦しい所をお見せしました、とペコリとモンタギュー姉妹に向けて頭を下げる涼子ちゃん。


 もちろん俺に抱き着いたままで……。




「紹介が遅れてしまいましたね? お初にお目にかかりますジュリエット様。マリア様のクラスメイトの司馬涼子と申します。そしてコチラが――」




 いまだ状況を飲みこめていないモンタギュー姉妹に、涼子ちゃんはヒマワリが咲いたような満面の笑みを浮かべて、ハッキリとこう言った。




「――ワタクシの未来の旦那さま、ロミオお兄さまです!」

「「……はっ?」」




 心底嬉しそうに喋る涼子ちゃんの声が鼓膜に反響する中、ドスの利いたモンタギュー姉妹の声音だけはやけにハッキリと聞こえた。

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