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第6話 安堂ロミオは逃げ出したいっ!

 かくして急にやる気を出したジュリエットお嬢様と司馬涼子ちゃんの手動により、急遽きゅうきょ『安堂ロミオ捜索隊』が結成されて1時間。


 俺とマリアお嬢様はやる気スイッチの入った2人によってレストランから謎のヘリになかば強制的に押し込められ、どんぶらこ♪ どんぶらこ♪ と千の風になってお空を強制散歩させられ30分。


 俺たち4人は大地を踏みしめ、古びたアパートのとある1室の前に8時じゃないのに全員集合していた。




「ここがあの男のハウスね」

「……もうどこからツッコめばよいやら」




 不敵に微笑むジュリエットお嬢様を前に、頭を抱えて頭痛をこらえるような仕草をするマリアお嬢様。


 たまにこの姉妹の妹の方が凄く不憫に思えるのは俺だけでしょうか?




「ちょっと待ってくださいまし。今、鍵を取り出しますので」

「あの、涼子ちゃ――司馬様? 1つだけ質問してもよろしいでしょうか?」

「? どうかしまして、ロミオゲリオンさん?」




 制服のポケットの中を漁りながら、キョトン? としたあどけない表情で俺を見上げてくる幼馴染みの妹。


 その仕草は大変可愛らしいのだが……何故か俺にはおぞましいモノに見えて仕方がない。


 あぁ、聞きたくない。


 聞きたくないけど……聞かざるを得ない。


 俺は初めて風俗に行く童貞のように覚悟を決めて、見慣れた扉へと視線を移し、確認するように口をひらいた。




「この目の前の部屋は一体……?」

「ここはワタクシと未来の旦那さまの新居が完成するまでの間の仮住かりずまい。お兄さま風に言うのであれば『安堂ロミオハウス』ですわ」




 そうっ! ここは俺、安堂ロミオの生誕地にして安堂家の大事な拠点である我が家マイ・ハウスだった。


 い、今起こったことをありのまま話すぜ?


 さっきまでレストランに居たハズなのに、気がついたら我が家に居た。


 何を言っているのか分からんと思うが、俺も何が起きているのか分からん。


 というか、えっ? 


 なんでみんな我が家に居るの?


 嫌がらせ?




「あ、あの? 誠に質問しにくいのですが……何故自分たちは安堂ロミオ様のご自宅前に居るのでしょうか?」

「なんだロミオ。ヘリの中で司馬の姫が話してくれていただろう? まさか聞いていなかったのか?」

「すみません、お嬢様。プロペラ音がうるさくて、よく聞こえませんでした」




 ジュリエットお嬢様は「しょうがない奴め」と苦笑を浮かべながら、玄関の鍵穴に何か銀色の棒を突っ込んでカチャカチャしている涼子ちゃんに変わって、ここまでの経緯を説明してくれた。




「ボクたちがこの薄汚い馬小屋モドキへとやって来た理由はただ1つ。安堂ロミオの痕跡こんせきを探すためだ」

「安堂ロミオ様の痕跡を探すため……ですか?」

「あぁ。もしかしたら敵はボクたちに気づかれないように家に帰宅している可能性もあるからな。まずはその可能性を潰していく」

「『敵』って姉上よ……」




 何か言いたそうな顔をするマリアお嬢様だったが、扉の前でカチャカチャ♪ していた涼子ちゃんが「よし、開きましたわ」と言ってソレを遮る。


 涼子ちゃんはごくごく手慣れた手つきで、ウチの玄関の扉を引っ張った。


 途端に、ギィッ! と錆びついた音を立てながら開かれるマイハウス。


 もう扉が開いた瞬間、法治国家の終わりの音を聞いた気がしたね!




「あの……コレは不法侵入では? というかピッキング……」

「気にするな、ロミオ。法律くらい金でどうにでもなる」

「し、司馬殿? なんで司馬殿はそんなに手馴れているんじゃ……?」

「コレくらい淑女として当然のたしなみですわ」




 淑女のたしなみとは一体……?




「さぁ、中に入るぞ!」

「はい、ジュリエットさま!」

「いや、コレは普通に犯罪では――あっ!? 待つのじゃ2人とも!」




 まるで遠足へ向かう小学生のようにキャピキャピ♪ しながら、無断で我が家に上がりこむ乙女たち。


 まさか家主を目の前に、ごくごく自然に不法侵入を敢行かんこうするだなんて……彼女たちは令和のキャ●ツ・アイか何かなのだろうか?


 戦々恐々とする俺を無視して、勝手知ったる我が家と言わんばかりに3人は奥の部屋へと突貫――することなく、何故か玄関へ入ってすぐ隅っこの方へしゃがみこんだ。




「? ナニをしておるんじゃ、司馬殿?」

「部屋へ行くんじゃないのか?」

「いえ、その前にコレを回収しませんと」

「「コレ?」」




 そう言ってカチャカチャと隅っこの方で何かを弄る涼子ちゃんの手元を、にゅっ! と覗きこむ俺たち。


 彼女の手元、そこには……超小型のカメラが鎮座していた。


 ……えっ?


 なにコレ?




「し、司馬殿? そ、そのカメラは一体……?」

「安心してくださいまし。コレはごく個人的に楽しむために仕込んだカメラですわ」




 いや、安心できねぇよ!?


 なんでこのはナチュラルに人様の家の玄関に監視カメラなんか仕込んでいるの!? 家主の許可もなく!?


 しかも『コレは』ってことは、まだ他にもあるってことですよね!?


 怖ぇよ!?


 いやマジで怖ぇよ!?


 あと怖ぇよ!


 ナメクジに肌をわれたような不快感を全身で感じる俺の前で、超小型カメラにスマホを近づけて何やら操作を始める涼子ちゃん。


 そのまま淑女らしからぬ舌打ちをかまし、




「チッ……どうやらお兄さまは玄関からは帰ってきていないらしいですわね」

「ということは司馬の姫よ。安堂ロミオはやはりこの家には帰って来ていないということか?」

「いえ、お兄さまは緊急時のときは自室の部屋の窓から帰ってくることがありますので、まだ分かりませんわ」




 ねぇ、なんで知ってるの涼子ちゃん?


 アレなの? 安堂ロミオ検定3級なの?


 幼馴染みの妹のストーキング能力の高さに、さっきから身体の震えが止まらない。これが武者震いってヤツか?




「さぁ、いよいよ本丸です。行きましょう皆さん」




 そう言って涼子ちゃんは迷うことなく、俺の部屋へと歩みを進めていく。


 その後ろを同じくなんら迷うことなく着いて行くジュリエットお嬢様と、一体何が珍しいのか2人にツッコミを入れながらもキョロキョロと辺りを見渡すマリアお嬢様。


 別に見られて困るようなモノは何もないが、流石にちょっと恥ずかしい。




(あのマリア様? あまりジロジロ見ないで貰えますか? 恥ずかしいです……)

(み、見ておらぬ! 妾は見ておらぬぞ!?)




 あの、なんでそんなに焦っているんですか?


 えっ? なんか変なモノでも見ました? 


 親父のきたねぇ黄ばみパンツでも見ちゃいましたか?


 とツッコもうとしたが、それよりも先に涼子ちゃんが我が自室の扉を開け――俺は絶句した。




 扉を開けるとそこは……ドスケベの群雄割拠ぐんゆうかっきょ開催かいさいされていた。




「んなっ!?」

「こ、これは……っ!?」




 驚き目を見開くモンタギュー姉妹の視線の先、そこには色とりどりの桃色グッズが散乱していた。


 まず西側の時代錯誤なブラウン管テレビ(地デジ対応)の周りには大人のDVD『甘勃直樹あまだちなおき~やられたらヤリ返す、ま●ぐり返しだ!』シリーズ並びに『AVあぶない女刑事デカ』シリーズが積み重なっていた。


 それを先制パンチに東側の壁際には『爆乳ボイン! エッチなナースがお注射しちゃうぞ♪ ふるすろっとる☆』全10巻の成人漫画がこれみよがしに存在感を主張している。


 さらに北側の押入れの前にはロリロリしい女の子(全員18歳)が顔にホワイトソース(意味深)をまき散らしながら、ぶっといウィンナーを頬張りつつ、顔を赤らめている漫画が散乱していた。


 そこから逃げるように南側の窓辺に視線を向けると、下着という習慣にとぼしい女性が顔を赤らめている写真集でバベルの塔を作られている有様だ。


 極めつけは、部屋の中央にドン! と置かれたシリコン製の筒。


『我こそは性夷大将軍せいいたいしょうぐんである!』と言わんばかりに圧倒的なまでのカリスマと存在感を主張しているソレは、我が偉大なる従兄弟いとこ、大神金次狼お気に入りの07――




「「…………」」




 パタンッ。


 ――瞬間、ジュリエットお嬢様が無言で俺の部屋の扉を閉めた。

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