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第8話 安堂ロミオは逃げ出したい! ~ナゾ解明編~

【すまんロミオ、ベストフレンド! あーちゃんが俺の部屋を掃除したいって言うから、一旦我がシークレット☆ブックスたちをココへ避難させてもらうわ。時が来たらまた取りに来るから、そのときまで大切に保管しておいてくれ。頼むぞ、相棒! ~愛しの従兄弟より、世界中の『愛』をこめて~】


「……なるほどな。そういうコトか」

「はい、そういうコトですわ」




 机の上に置かれた置手紙を詠みながら、全ての合点がいったとばかりにため息をこぼすジュリエットお嬢様。


 とりあえずあの変態金次狼はあとで血祭りにあげるとして……ジュリエットお嬢様の誤解が解けてよかったぁ~っ!


 と俺が心底『ほっ♪』と胸を撫で下ろしていると、マリアお嬢様がスススッ! と俺の傍まで近づき、ポショッと俺にだけ聞こえる小さな声で、




(も、もちろん妾も分かっておったぞ! アレがロミオ殿の私物では無いことくらい!)

(……先ほどマリアお嬢様から疑惑の瞳を向けられたような気がするのですが?)

(そ、そんなワケなかろう!? 妾は最初からロミオ殿を信じて――)


「ところで司馬の姫よ。先ほどからボクの視界に入ってくるあの『金髪お嬢様との秘密の個人レッスン♪ ~いけませんお嬢さまッ!? それはワタシのミルクティー(意味深)で……あぁっ!?~』なる不愉快なDVDのパッケージは一体……?」

「あぁ、アレはお兄さまのお気に入りのAVですわね」

「「…………」」




 ……シテ……コロシテ……誰か俺をコロシテ。


 ジュリエットお嬢様の瞳が絶対零度へと到達し、マリアお嬢様がポッ! と頬を染めて俺から視線を外した瞬間、俺の心がバキバキと音を立てて折れた。


 もう何て言うか……死にたい。


 何がキツいって、アレだよね。ジュリエットお嬢様が小声で「ほんと無理……マジ無理」と連呼してくるのが一番キツいよね!


 ちょっとお嬢様? なんでわざわざ俺に聞こえる程度の声音でつぶやくの? ツンデレなの?


 俺の気を引きたくてワザと言ってるの?


 好きな子はイジメたくなっちゃうアレなの?


 小学2年生なの?


 おいおい? そう考えたら……可愛いじゃねぇか。




「他にもあそこの『パンスト大全集~働くOL編~』や『パンストのためなら死ねる!』フェチシリーズと『ハメンジャーズ』『ハメンジャーズ2~しこびゅるびゅるウォー~』などの性義のヒーローシリーズはロミオお兄さまの私物ですわ」

「「ひぃっ!?」」




 涼子ちゃんが1つ1つ丁寧に指をさしながら、我が私物のエッチなDVDのタイトルを高らかに読み上げていく。


 そのたびにモンタギュー姉妹の方から湧き起こる悲鳴のようなざわめき。


 そしてあふれ出る俺の脇汗。


 もうぬぐい去れない『金髪お嬢様との秘密の個人レッスン♪』


 いやぁ、もうビビるよね?


 本物の金髪お嬢様がここに2人も居る手前で披露される『秘密の個人レッスン』


 しかも『いけませんお嬢さまッ!? それはワタシのミルクティー(意味深)で……あぁっ!?』ときたもんだ。


 ……一体前世でどれだけの悪行を重ねればこんな事態を招くことが出来るのか? 


 神様はそんなに俺のことが嫌いなのだろうか? 


 と、俺が1人神殺しカンピオーネを覚悟していると、ジュリエットお嬢様は部屋の中央にドンッ! と置かれているシリコン製の筒を持ち上げてみせた。




「さっきから気になっていたんだが……このやけにブニブニしている物体はなんだ? トコロテンにしては弾力があり過ぎるような? それに……すんすん。なんだか海産物のような変な臭いがするぞ?」

「あ、姉上!? そ、それはっ!?」

「あぁ、それはですね――」




 その愛らしい鼻先をヒクヒクさせ首を傾げるジュリエットお嬢様に、我が幼馴染みの妹君である涼子ちゃんが耳打ちするように小声で何かを口にし始めた。


 最初こそ『意味がわからん』とばかりに眉をしかめていたジュリエットお嬢様だったが、涼子ちゃんの巧みな話術により【ソレ】が何かを察し始めるや否や、




「??? ………ッ!? ~~~~~~~~~ッッッ!?!?」




 一瞬で顔を真っ赤にし、ベテランの二塁間のような鮮やか動きで壁に向かって例のブツを思いっきり叩きつけていた。




「な、なななっ!? ななななぁっ!?」

「お、落ち着け姉上! 落ち着くのじゃっ!」




 ギョッ!? と目を見開き、親の仇のような瞳で床に落ちた例のアレを睨みつけるジュリエットお嬢様。


 どうやら初めてアレを見たらしい。


 おいおい、お嬢様の初めてを俺が奪っちゃったよ。あれ? そう考えたら、なんか興奮してきたなぁ。




「や、やはり『安堂ロミオ』はどうしようもないロクデナシのスケベらしいなっ!」

(ろ、ロミオ殿……?)




 ジュリエットお嬢様は唾棄だきすべき汚物のように、マリアお嬢様はほんのり頬を染め困惑した表情で唇を動かした。


 うん、もうモンタギュー姉妹の誤解を解くのは絶対に不可能だね☆


 あぁそうさ、俺はスケベさ! 


 ドスケベさ! 


 キング・オブ・ハレンチとは俺のことさ!


 でもソレのナニが悪い!?


 男の子って、基本スケベだからね? 


 スケベ標準装備だからね? 


 スケベの地平線を切り開く開拓者だからね?


 と、声なき声を心の中で叫んでいると、涼子ちゃんが訂正するように「待ってくださいジュリエットさま」と口をひらいた。




「ロミオお兄さまはスケベではありません! 訂正してください!」




 りょ、涼子ちゃん……っ!




「ロミオお兄さまはドスケベなんですっ!」




 りょ、涼子ちゃん……。


 違う、違うんだ涼子ちゃん……。


 誰も『レベルアップしてくれ!』ってお願いしたワケじゃないんだ。


 たまに思うんだけど、もしかしたら彼女は俺の事が大っ嫌いなのかもしれない……。




「……マリア」

「なんじゃ姉上?」

「ボクから言い出しておいてアレだが……もう家に帰らないか?」

「も、もう少しだけ探索を続けないかえ?」

「……何故おまえの方が少しノリ気になっているんだ?」




 もう心の芯が根本からポッキリ折れているジュリエットお嬢様とは対照的に、ほんのりやる気が身体からはみ出しているマリアお嬢様。


 一体何が彼女のやる気スイッチを押したのだろうか?


 あっ、俺? 俺はもう全てを諦めたよ☆


 何かもう1周回って逆に落ち着いてきたよね?


 今ならガンジーに助走をつけてぶん殴られてもニコニコ♪ しながら許すことが出来そうだ。




「さぁ、お2人とも! 時間は有限! さっそくロミオお兄さまの痕跡を探していきますわよ!」




 うむっ! と涼子ちゃんに同調するように小さく握りこぶしを作るマリアお嬢様。


 そんな新1年生ズとは対照的に、俺とジュリエットお嬢様は2人一緒に天井を仰いで小さくため息を溢したのであった。

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