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第9話 安堂ロミオは逃げ出したい! ~仁義なき姉妹喧嘩編~

 かくして『安堂ロミオを捜索し隊っ!』という大義名分のもと、我がプライバシーをストーカーとモンタギュー姉妹に蹂躙じゅうりんされ続け6時間強。


 ティッシュの箱の底から漫画のページの間、果てはトイレのタンク内まで、文字通り隅から隅まで調べ上げられた我が安堂家。


 無駄のない洗練された無駄な動きで次々と家宅捜査を行うお嬢様たちを前に、俺は「くっ!? 殺せ!」と快楽ちが確定している女騎士のような面持おももちで立ちつくしていた。


 いやぁ、もう凄いよ?


 彼女たちがエアコンの吸い込みグリルを開け始めたときは、「もうそこまでされたらお手上げだわ☆」と思わず賞賛の声をあげそうになったくらいだ。


 ほんと彼女たちはイイお母さんになれると思うよ。


 まぁ、結局出てきたのは親父がひっそりと隠し持っていたジュニアアイドルのDVDだけだったんだけどね。




「今日はワタクシのために集まっていただき、誠にありがとうございました」 

「気にするな、司馬の姫よ。今回はボクの好奇心を満たすためにやったようなモノだ」

「それに『安堂ロミオ』殿の痕跡こんせきは見つけることが出来なかったしのぅ」




 我が家の玄関の前でペコリと頭を下げる涼子ちゃんを前に、いつもの乱暴な物言いでふんぞり返るジュリエットお嬢様と、ワザとらしく肩を竦めるマリアお嬢様。


 涼子ちゃんは、どこかホッとしているように見えるマリアお嬢様へと視線を向け、今にも触れたら消えてしまいそうな儚い笑みを浮かべ、




「確かに痕跡は発見することが出来ませんでしたが、収穫はあったので問題ありませんわ」

「「収穫?」」

「おっとぉ。いえ……こちらの話ですから、お気になさらないでくださいまし」




 そう言って「おほほほほっ」と笑う涼子ちゃんのポケットからは、男物のパンツらしき布きれが見え隠れしていたが……俺は何も言わなかった。


 少なくとも気づかないフリをしていれば、みんな幸せでいられるんだ。……例えソレが仮初かりそめの幸せだとしても。


 今日ほど自分が事なかれ主義の日本の民であることを自覚した日はないね!




「ではもうこんな時間ですし【おとぎばな】市へ帰りましょうか。すぐに使いの者をコチラに回しますので、少々お待ちくださいませ」




 涼子ちゃんがポケットから「もしもし、ワタクシですわ」とどこかへ電話している姿をボケーと眺めていると、ジュリエットお嬢様がクイクイッ! と俺の執事服の裾を引っ張ってきた。




「? どうかしましたか、お嬢様?」

「いや……今日は何だか元気が無いように見えてな。大丈夫かロミオ? どこは調子でも悪いのか?」




 いつもの無感情・無表情の『鉄仮面』モードのジュリエットお嬢様の瞳が、若干心配そうにゆらゆらと揺れていた。


 おっとぉ? これはいけない。


 どうやら俺の自慢のポーカーフェイスが崩れていたらしい。


 我が愛しのお嬢様を心配させてしまうだなんて、たるんでいるぞ俺!


 気を引き締めろ!


 心の中で自分自身を叱咤しった激励げきれいしながら、疲れを無理やり飲みこんで、いつも通りの『ロミオゲリオン』の仮面を顔に張り付ける。




「いえ、お嬢様たちのお力になることが出来ず、自分の不甲斐なさを猛省していただけです。心配していただきありがとうございます」

「別にロミオのせいじゃないさ。悪いのは全て『安堂ロミオ』だ。まったく……恋人を心配させるだなんて、人間のクズもいい所だ。なぁロミオ?」




 ヤダな、泣いてないよ?




「どうしたロミオ? 身体が震えているぞ? ま、まさかどこか故障でもしたのか!?」

「ゴホンッ! ……姉上よ? 少々ロミオ殿と距離が近いのではないかえ?」




 抱きつかんばかり俺に近寄っていたジュリエットお嬢様との間に、無理やり自分の身体を押しこむマリアお嬢様。


 おかげでマリアお嬢様と密着するような状態になってしまい……ほほぅ?


 今日もマリアお嬢様のお胸のマスカット・オブ・アレキサンドリアはたわわ♪ に実っているようで、ロミオ嬉しいです!




「そういうマリアも距離が近いぞ? 忘れたのか? ロミオはボクの恋人だぞ?」

「姉上も忘れたのかえ? ロミオ殿はあくまで恋人『役』じゃろ?」

「「…………」」




 バチィッ! と2人の間に火花が散った――ような気がした。


 ふぇぇ……仲良くしようよぉ……。


 思わず心の中で萌えキャラ化しながら、2人の発する覇王色に当てられて身を硬くする俺。


 もう本当に勘弁してくれ。


 硬くなるのはおティムティムだけで充分だ。




「えぇっ、ではそのようにお願いしますわ。――お待たせしました、皆さま。あと数分で迎えの者がやって来て……ッ!? お、お2人とも? ど、どうかしまして?」




 電話を終えた涼子ちゃんが俺たちの方向に振り返った瞬間、モンタギュー姉妹の放つ覇気に当てられビクッ!? と身体が小さく跳ねた。


 その顔色からは困惑とも恐怖ともつかない色が浮かび上がっていて……ほんとゴメンね?




「何でもないさ。なぁマリア?」

「うむっ。気にすることはないぞ、司馬殿」




 笑顔で涼子ちゃんに「何でもない」とジェスチャーを送るモンタギュー姉妹。


 そんなやり取りをしている間でも、ジュリエットお嬢様はその小さな両手を俺とマリアお嬢様の間に差し込んで引きは無さそうとプルプルッ!? 震えていた。


 対してマリアお嬢様も何故か必死に踏ん張って、『絶対にここはゆずらねぇ!』と両足をメスブタのごとくプルプルさせながら俺から離れようとしない。


 結果、2人の力がいい感じで拮抗きっこうし合い、この一帯だけマグニチュード3くらいの震えに達しようとしていた。




「いやでも、お2人とも震えておりますよ? 大丈夫ですか?」

「も、問題ない。人間は震える生き物だから……なっ!」

「姉上の言う通り……じゃっ! 人は悲しみに震え、期待に震え、喜びに震える生き物じゃから……なっ! 何もおかしなコトは……ないっ! ぞっ! ふんっ!」

「そ、そうですか」




 コレ以上は関わらない方がいいと思ったのか、珍しく愛想笑いを浮かべながらモンタギュー姉妹から距離をとる涼子ちゃん。


 これは本当に珍しいモノを見た。


 今度青子ちゃんに教えてあげよう。


 そんなコトを考えながら、俺はモンタギュー姉妹の仁義なき姉妹喧嘩を静かに見守るのであった。

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