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第10話 白雪真白は誘いたいっ!

 多少のトラブルとモンタギュー姉妹の小競り合いなどがありつつも、なんとか無事に【おとぎがな】市へと帰ってくることが出来た俺たちは、涼子ちゃんとお別れをし、桜屋敷へと帰るべく、ビクビク田中ちゃんが運転する黒塗りの高級車に揺られ街中を疾走していた。


 茜色に染まる景色を車窓から眺めながら、俺は誰にも悟られないように小さくため息をこぼした。


 いやぁ、今日は12連勤したサラリーマンのように疲れたよ……何ソレ? 社畜の連勤術師れんきんじゅつしかよ。




「ハァ……せっかくの休みだというのに、今日は散々な目にあったぞ」

「いや、姉上が余計なコトを言わなければ、こんなに疲れる思いはしなかったのではないのかえ? のぅロミオ殿?」

「ピピッ! バッテリー残量低下。省エネモードに移行します」




 ぷしゅうっ! と自分で効果音をつけながら、瞳を閉じて意識を失うフリをする俺。


 ホントこういう時はアンドロイドは便利でいい。


 マリアお嬢様の方からジットリとした視線を感じる。


 惚れられたかもしれない。




「おっとぉ。そろそろロミオのバッテリーが切れそうだ。急いでくれ運転手」

「は、はひっ! かしこまりまひたっ!」




 まるで絶頂直後の女の子のように、怪しい呂律ろれつでコクコクと頷く田中ちゃん。


 それっきり車内で会話らしい会話もなく、ただただ静かに身体を揺すられながら桜屋敷へと運ばれていく。


 目をつむっているせいか、ちょっとウトウトし始めた段階で、俺たちを乗せた車が桜屋敷へと到達する。




「ご、ご到着しまひたっ!」

「ごくろう」




 慌てて運転席から降りて、後部座席のドアを開ける田中ちゃん。


 お嬢様の運転手も大変だなぁ、と心の中で田中ちゃんにキュアエールを送りながら、ジュリエットお嬢様の後に続いて車を降りる。


 ちなみにマリアお嬢様はこのまま本邸ほんていの方へ戻るので、座ったままだ。




「今日は大義じゃったぞ、ロミオ殿。この後はしっかり疲れを癒して、明日に備えるのじゃぞ?」

「ありがとうございます、マリお嬢ア様」




 まぁ今回俺は何もしてないんだけどね。


 やったことと言えば、終始ジュリエットお嬢様のお傍でオロオロしたり、性癖を暴露されたコトくらいだ。


 ……ヤベェ、思いだしたら泣きそうになってきた。




「何をしている? 行くぞ、ロミ――おっ? アレは?」




 俺の手を引っ張って屋敷の中へ戻ろうしたジュリエットお嬢様の動きがピタリッ! と止まる。


 見ると、彼女の視線の先には、黒塗りの高級車が1台コチラに向かってやって来ていた。


 そしてそのまま田中ちゃんが止めた車のすぐ後ろへと停車し、パカッ! と後部座席が開いた。




「どうやら白雪の姫が帰って来たようだな」

「そのようですね。では自分は白雪様をお出迎えしてきます」

「あぁっ、頼む」




 ジュリエットお嬢様とマリアお嬢様に一礼しながら、やや早足気味にもう1台の車の方へと駆け出す俺。


 ピシッ! と姿勢を整え、お出迎えの準備を完了させると同時に、後部座席から色素の薄い髪をなびかせた美少女がゆっくりと姿を現した。


 雪原のような白い肌、透き通るようなつぶらな瞳、そして我が主にも負けないビック☆パイパイ。


 俺はそんな彼女に頭を下げつつ、名は体を表すと言わんばかりの美少女の名前を口にした。




「おかえりなさいませ、白雪様」

「ッ! せ、センパイッ!」

「へっ? うわっ!?」




 日本有数の華族である白雪家の長女こと我が愛しのプチデビル後輩、白雪真白たんは俺の姿を目視するなり、勢いよく俺の胸へと飛び込んできた――って、えぇっ!?


 な、ナニコレ!? 珍百景!?


 混乱する俺をよそに、何故か切羽詰せっぱつまった様子で必死に我がマイボディーに抱き着くましろたん。


 そのたびに彼女のお胸のダイナマイトがむみゅむにゅ♪ と形を変えていき、素晴らしい景色と感触を俺に与えてくれる。


 それと同時に、瞳を吊り上げたモンタギュー姉妹が慌ててコチラに駆け寄ってくる姿が目に入ってきて……おっとぉ? 


 コレは俺(社会的に)死んだか?




「お、落ち着いてください白雪様。自分は『安堂ロミオ』様ではなく、人造人間ロミオゲリオンで――」

「センパイ……お願いがあります」




 俺の訂正を無理やりさえぎり、ましろんはその果実のように瑞々みずみずしい唇を動かした。





「明日、何も言わずに真白とデートしてくださいっ!」





 瞬間、モンタギュー姉妹が視界の隅で盛大にコケたのが分かった。

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