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第11話 モンタギュー姉妹は許さないっ!

「――では、どういうコトか説明してもらおうかロミオ?」




 桜屋敷に帰還して1時間後のジュリエットお嬢様のお部屋にて。


 何故か俺は制服姿のままソファーでふんぞり返るジュリエットお嬢様の足下に正座をしながら、カタカタッ!? と大人のオモチャのようにその身体を震わせていた。


 ちょっと視線を上げれば、彼女の美しいおみ足から覗くパンチラという名のフジキセキ、もといプチ奇跡を拝謁はいえつすることが出来るというのに、全然うまぴょいする気分になれない……。


 というか、今のジュリエットお嬢様が怖くて顔も見られない。


 そして何故か俺の隣に『ぽつん……』と立っているマネキンの存在も意味が分からなくて怖い。


 えっ? このマネキンは何ですか? 


 どういう用途で用意したワケ?




「どうしたロミオ? ボクは『説明しろ』と言ったんだぞ?」




 ジュリエットお嬢様は淡々と、でも逃げるコトは許さん! と言わんばかりに、言葉の節々ふしぶしからトゲを覗かせながら、俺に言葉をぶつけてくる。


 ふぇぇ……おしょんしょんが漏れそうだよぉ……。


 俺は恐怖で絡まりそうになる舌を何とか統率し、必死になって口を動かした。




「し、質問。せ、『説明』とは何を説明すればよろしいのでしょうか?」

「そんなコト、決まっているだろう?」

「明日、ロミオ殿が白雪殿とデートする件についてじゃよ」




 そう言って、ジュリエットお嬢様の横で補佐官のごとく寄り添い、ドM大興奮の鋭い視線を向けてくるのは彼女の妹君にして、心優しいうるわしのお嬢様、マリア・フォン・モンタギュー様だ。


 本邸ほんていに帰ると言っていた彼女が何故ココに居るのか……色々と尋ねたいことが山の如しだったが、マリアお嬢様があまりの剣幕で俺を睨んできていたので、言うのを辞めた。


 う~ん? 森の小動物程度なら余裕で窒息死させられそうな殺気を放つジュリエットお嬢様といい、常人ではまずありえない程の迫力を発するマリアお嬢様といい……これはもう俺、もしかしなくても殺されるんじゃないのか?


 しかし『説明しろ!』と言われましても、俺も何が何やら分かっていないワケでして……その、ね?


 俺が分かっていないのに説明なんか出来るワケもなく、何と答えるべきか必死に頭を回すのだけれど。




「一体どういう経緯いきさつがあって白雪殿とデートすることになったのか、キッチリ説明してもらわないとのぅ。のぅ姉上?」

「そうだなマリア。あぁ、大丈夫だぞロミオ。言いづらいならボクたちが勝手に聞き出してやるから。ロミオの身体に」

「それは、それはっ。いい考えじゃのぅ。流石さすがは姉上じゃ」




 何かもう迷っている時間も無い気がするなぁ。俺の寿命的に。


 モンタギュー姉妹はどこから取り出したのか、乗馬用のムチをビュンビュンッ! うならせながら、嗜虐的しぎゃくてきな瞳で俺を見据えてくる。


 あっ、ちなみにこの場に当事者でプチデビル後輩が居ないのは、「明日のデートのため」という名目でさっさとお部屋に逃げちゃったからだよ☆


 流石は俺の後輩、逃げ時をよく分かっていらっしゃる!




「実はボク、最近乗馬に興味があってな。ちょうど今、練習をしたくてたまらない気分なんだよなぁ」

「奇遇じゃのぅ姉上。妾もじゃ」

「おぉ、マリアもか。流石は姉妹、以心伝心じゃないか」

「妾たちは仲良し姉妹じゃのぅ」

「あぁ、まったくだ」




 あっはっはっはっ! と心の底から楽しそうに笑うモンタギュー姉妹。


 その間にも2人は俺の横にポツネンと立っていたマネキンにムチを叩きこんでいく。


 そのたびにマネキンから「バッッッツォォォォ――ンッ!」とドM大興奮の小気味よい音が聞こえてきて……はっは~ん? なるほどな。


 どうやら、もうすぐ俺もあぁなるらしい。


 今にも「ひぎぃっ!? らめぇぇぇぇっ!?」と聞こえてきそうなマネキンを横目に、俺はもはや哀願あいがんするよう2人にこびを売り始めた。




「ま、待ってくださいお嬢様っ! じ、自分もよく意味が分かっていないのです! な、ナゼ白雪様が自分をデートに誘ってくれたのか……むしろ自分の方が聞きたいくらいです!」

「ほほぅ、シラを切るというのか? このボクに?」

「姉上、荒縄も用意した方がよろしいかのぅ?」

「頼む。あと三角木馬も準備してくれ」

「了解じゃ」




 マリアお嬢様が拷問器具を取りに行くべく、ジュリエットお嬢様のお部屋を後にした。


 あ、アカン、アカンッ!


 このままじゃこのお部屋がSMルームにトランスフォームしちゃう!? R―18になっちゃう!?




「し、シラを切るとかではなく、本当に分からないんです! じゅ、ジュリエットお嬢様もアンドロイドは嘘を吐かないことを知っているでしょう!?」

「もちろん知っている。知ってはいる……がっ! ただ嘘を言わないだけで、真実を口にしているとは限らないだろう?」




 あぁ、これもうムリ♪ 


 今日、俺はきっとお星さまになるんだ☆


 いやぁ、驚いた!


 人間ってさ、死を覚悟するとすっごい穏やかな気持ちになるんだね?


 あまりにも穏やか過ぎて、伝説の超戦士として目覚めるかと思ったわ!




「……ハァ。まったくロミオ、キミというヤツは」




 そしてジュリエットお嬢様はその手にもったムチを俺に向けて振りかぶる――ことなく、何故かちょっと拗ねた様子で我が耳たぶをムギュッ! と軽く引っ張った。


 痛くはないけど……なにこれ?




「確かに優しくておっとりしている所はキミの美点だが、脇が甘い。甘すぎる。クヌギの蜜よりも甘い。おかげで余計な虫まで寄ってくる始末だ」




 ジュリエットお嬢様は一瞬だけ外面の仮面を外すと、ぷくぅっ! と頬を膨らませて、うらめしそうな視線を俺に投げかけてきた。




「あんまりボクを心配させないでね? ロミオくんの恋人はボクなんだから」

「も、申し訳ありません……」




 正直、何が悪いのか皆目かいもく見当もつかないが、女の子にこんな顔をさせている時点で俺が悪いのだろう。


『しゅん……』と肩を落とす俺を見て、ジュリエットお嬢様も少しは冷静になれたのか、おずおずと言った様子で、




「と、ところでロミオくん? 明日のデートはその……本当に行くの?」

「それは――」




 途端に先ほどの我がプチデビル後輩の切羽詰せっぱつまった顔が脳裏にフラッシュバックした。


 気がつくと俺はハッキリと頷いていた。




「――はい。行きます」

「ど、どうしても?」

「どうしても、です」

「うぅ~……なんで? 理由は?」




 ジュリエットお嬢様の湿しめった視線が肌を刺す中、俺は自分の気持ちを整理するように、ゆっくりと今の感情を言葉に乗せて具現化していった。




「自分でも上手く言えないのですが……今の白雪様を放っておいたらダメな気がするんです」

「放っておいちゃダメ?」

「はい。何ともうしますか……今、彼女の手を離したら一生後悔すると言いますか……」




 明日、ましろんとデートしないと何か取り返しのつかないコトになるような、そんな気がしてやまないのだ。


 理由も根拠も何も無い、漠然ばくぜんとした不安。


 でも、俺の心の深い部分に居る『安堂ロミオ』が叫ぶのだ。




 ――今、白雪真白の手を離してはいけない! と。




 離せばきっと俺は一生後悔する、と大音量で叫んでくるのだ。


 自分でも分からない。


 でも確信はある。


 そんなよく分からない感情を何とか言葉にしようとするのだが……やっぱり上手く言語化出来ず、俺の言葉はだんだんと尻すぼみになっていってしまう。


 なんとも情けない……。


 でも、そんな俺のつたない言葉も、ジュリエットお嬢様はだまって聞いてくれた。




「多分、今、自分は白雪様の人生のターニングポイントに立っているんだと思います。だから、その、え~と……」

「……うん、大丈夫だよ。ロミオくんがナニを言いたいのか大体分かったから」




 そう言ってジュリエットお嬢様は、先ほどと違って柔らかな笑みを俺に向けてくれた。


 その普段は見せない微笑みは、誰よりもキレイで、美しく、そして優しさに満ちていて、思わず数秒ほど見惚れてしまった。




「まったく。ボクを困らせるなんて酷いアンドロイドだよ、キミは」

「申し訳ありません……」

「悪いと思っているなら今度、ちゃんと埋め合わせをしてよね?」

「う、埋め合わせ……ですか?」




 うん、とジュリエット様はイタズラが成功した少年のようにニシシシッ! と笑い、




「次はボクとデートに行こうね? それで今回のコトはチャラ。OK?」




 と言った。


 あぁ……多分、俺は一生このお方にはかなわないんだろうなぁ、と彼女の桜が咲いたような笑みを前に心の中で苦笑しながら、迷うことなくハッキリと首を縦に振った。




「かしこまりました。不肖ふしょうこのロミオゲリオン、ジュリエットお嬢様のエスコートをさせていただきます」

「うん。楽しみにしてるね? さて、それじゃ……始めよっか?」

「かしこまり――はい? は、始める?」




 えっ? なにを? 


 と俺が口を開くよりも早く、ジュリエットお嬢様は満面の笑みのまま、ピッ! と地面を指さして、




「ロミオくん、四つんばいになって。そこに」

「えっ……よ、四つんばいですか?」

「うん、四つんばい」

「い、今ですか?」

「うん。今。すぐに」




 にっこり♪ とご機嫌に微笑みながら、バッドでも振るかのごとく乗馬用ムチをブンブン振り回すジュリエットお嬢様。


 気がつくと、ジュリエットお嬢様のお部屋がSMバッティングセンターへと早変わりしていた。


 ……あ、あれれぇ~? おかしいなぁ~?


 さっきまでいい雰囲気だっだよね? 


 こころよく俺を送り出してくれる雰囲気だったよね?


 それが何で『四つんばいになれ、このブタ♪』と女王様もビックリのシチュエーションになるワケ?


 えっ? 俺、もしかして地球と似た別の惑星にでも転移しちゃった?


 というか、何でお嬢様は喜々としてムチを振り回しているの?


 前世は女王様だったの?


 花びら大回転だったの?




「あ、あのお嬢様? 1つ質問よろしいでしょうか?」

「いいけど、手短にね?」

「ありがとうございます。では失礼して……お嬢様は明日のデートの件について理解してくれたんですよね?」

「うん、もちろん」

「で、ですよね!」




 あぁ~、よかったぁ!


 もうビックリさせないでよ、ご主人様♪


 と、俺が胸を撫で下ろした瞬間、ジュリエット様は曇りなきまなこで、




「頭では理解はしたよ? 理解して、理屈も納得したけど――でも感情の方は納得していないからね?」

「……えっ?」




 そ、それってどういう……?


 と、俺の思考をぶった切るように、ジュリエットお嬢様のお部屋がバンッ! と乱暴に開かれた。


 はじかれたように音のした方向に視線を向けると、そこには姉と同じく素敵な笑みを浮かべたマリアお嬢様が「待たせたのぅ」と俺たちに視線を寄越す姿が目に入った。


 彼女の愛らしい笑みも目を惹くのだが、それよりも目を惹くのは彼女が両手いっぱいに持っている謎の道具たち。


 手錠、荒縄、低温ろうそく等々……もはや俺の新たなるフェティシズムの扉を開けるためだけに用意したとしか思えないアイテムがいっぱいだ。


 そして彼女の後からプルプル田中ちゃんが引っ張ってきている三角木馬なる特級呪物も目に入ってきて……お、おやおやぁ?


 今日はコスプレパーティーとかそういうもよおしとかでしたっけ?




「さて、準備完了じゃ姉上」

「ご苦労マリア」




 さっと『鉄仮面』モードに切り替えたジュリエットお嬢様が珍しくマリアお嬢様をねぎらう。


 そんな姉に見る者全てを魅了しかねない愛らしい笑みを浮かべて「なぁに、これくらい問題ないわい」と答えるマリアお嬢様。


 2人は思考回路ショート寸前、今すぐ泣きたい俺に向かって、ムーンプリズムの力で女王様にメイクアップ。


 そのまま月に向かってお仕置きするかのように、ムチをしならせ、満面の笑みを頬にたたえてこう言った。




「さぁロミオ殿?」

「服を脱ぎなさい?」

「…………」




 ……どうやら今日は長い夜になりそうだ。

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