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第12話 白雪真白は楽しみたいっ!

 よく面倒事に巻き込まれるときは「巨乳が貧乳をなぐさめる時くらい面倒なコトになる」という慣用句が頻繁ひんぱんに使われるのは皆さんご存知のことだと思う。


 わたくし安堂ロミオ個人の意見としては「オッパイに貴賤きせんなし。巨乳も貧乳も、みなすべからく平等である」と考えている。


 が、昨今さっこんの食生活の欧米化による影響か、街を歩いていてもお乳の貧しいジャパニーズレディーを見かけることは少なくなった。


 これは決して俺の勘違いでも、気のせいでもない。


 現に日本人女性の平均バストサイズはC~Dカップであるという統計も出ているくらいだ。


 つまり巨乳が多くなった昨今、貧乳は文字通り「希少価値」が高く、ステータスと言っても差しつかえないのだ。


 だから貧乳は恥ずかしいことじゃない。


 胸を張れ貧乳!


 と、お胸の貧しい金次狼ママンに向かってそう力説していた我が叔父、大神おおかみ士狼しろうさんの言葉が今は懐かしい。


 ほんとあの時は死ぬかと思ったなぁ……士狼さんが。


『ゴメンめいちゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!?』と泣き叫ぶ我が叔父の顔面めがけて笑顔で拳を振るう金次狼ママンの姿が、今でも若干のトラウマだったりする。


 そして昨夜、そのトラウマを刺激せんばかりのモンタギュー姉妹の怒涛の折檻せっかんと言う名の拷問は、俺に新たなトラウマを植え付けるのに充分な威力を誇っていた。


 いやぁ、本当に昨日は「あっ、俺死んだわ」と何度思ったことか……。


 ねぇ知ってる? 


 拷問ってさ、調教と違って全然気持ちよくないんだよ?




「? どうしたんですかセンパ――ロミオさん? そんな遠い目をして? らしくないですよ?」

「申し訳ありません白雪様。少々考え事をしておりました」

「もうっ! ダメですよ、ロミオさん? 今は真白とデートしているんですから、真白のコトだけ考えてくれないとっ!」




 そう言ってムギュッ! と俺の腕に抱き着いてくる我が偉大なるプチデビル後輩こと白雪真白たん。


 ちなみに現在の時刻は午前10時少し過ぎ。


 俺は昨日の約束通り、ましろんとデートをするべく桜屋敷を離れ【おとぎばな】市の街を2人で散策していた。


 流石に週明けの月曜日ということもあり、学生の姿は見えない。




「ふふっ♪ 学院を休んでデートだなんて……ちょっぴり不良になったみたいでワクワクしますね。ね、センパ――ロミオさんっ!」

「そうですね。たまには『こういう日』があっても良いモノですよね」

「へへっ……流石はロミオさんっ! 気分転換って大事ですもんね!」




 と、いつもより上機嫌で俺に向かって微笑むましろん。


 そのたびに、たわわ♪ に実ったお胸のマスクド・メロンがその存在感を大いに主張するかのように、俺の腕にむにゅん❤ 押し付けられて……おいおい? 誘ってんのかぁ!?


 心の中でプチデビル後輩を全力で口説いてると、何故か急に不安そうな瞳でましろんが俺を見上げてきた。




「でもロミオさん、本当によかったんですか?」

「??? 何がでしょうか?」

「いや、その……真白の方から誘っておいてアレなんですが……お屋敷の仕事の方は大丈夫なのかなって?」




 あぁ、なるほど。


 そういう……。




「安心してください白雪様。キチンとジュリエットお嬢様には許可を頂きましたから」

「そうなんですか? よかったぁ~! それじゃ今日は心置きなくいっぱい遊べますね!」




 そう言ってさらに俺の身体に自分のむちむち❤ のダイナマイトボディーを密着させてくるプチデビル後輩。


 俺はその子犬のように無邪気に甘えてくる後輩の姿に、らしくもなくドギマギッ!? してしまい、そんな自分を誤魔化すように彼女の私服姿に意識を向けた。


 ホルターネックのトップに、デニム生地のミニスカート。そしてみんな大好き黒のニーソという組み合わせだ。


 とくにミニスカートから露出しているましろんの素肌とニーソの境目のぷにっ♪ とした太ももが最高で――って、ちょっと待て!?


 俺はここで重大な事実に気づいてしまった。


 そうっ、我が偉大なる後輩ましろんの背中がエロい――違う、えらいことになっているのだ!


 皆さんもご存知の通り、キャミソールと違ってホルタ―ネックは露出が多くなるモノだが……ましろんは何ら躊躇いなく思いっきり肌をさらしていた。


 本来ブラジャーの後ろ紐があるような所はもちろん、ウェストのなかばまでガバァッ! と開いていて、背中が丸見えで……チクショウっ!


 彼女は一体俺をどうする気だ!?


 なんだ、あの服は!?


 一体ブラジャーはどうなっているんだ!?


 ノーブラか?


 ノーブラなのか!?




「さてっ! それじゃさっそく。どこから回りますか、ロミオさん? ……ロミオさん? 聞いてますか、ロミオさ~ん? お~い?」

「ハッ!?」




 何かと規制が厳しくなっていく昨今、これからは着エロの時代だな! と俺が確信にも似た予感を感じていると、ましろんが「もしも~し?」と俺の目の前でフリフリと片手を振っていた。


 イカンイカンッ!


 どうやら少し思索しさくふけっていたらしい。


 俺は我が愛しの後輩に思考を読まれないように、知的でクールな笑みを浮かべながら、心の中で『その服、ブラはどうなっているんですか?』と口ずさみつつ、




「その服、ブラはどうなっているんですか?」




 と言った。


 まさに心と身体は一心同体。


 ……ねぇ俺? バカなの? 死ぬの?


 俺は自分自身に軽く絶望し――い、いけない!? 


 ましろんの瞳がどんどん湿っていって……はやく弁明しないと!?




「ち、違うんです! こ、これはその……背中にブラ紐が見えなかったので、もしかしたらノーブラなのかなと! だとしたら最高に素敵です……ね……あぁ」




 たまに思うのだが、俺はバカなんじゃないだろうか?


 何故俺は堂々と年下に向かって『ブラジャーの紐が見えないけど、ノーブラなの? 最高に素敵だね♪』なんてコトを口走っているのだろうか?


 変態なのだろうか?


 ましろんはほんの少しの間だけ沈黙を続けていたが、すぐさま小さくため息をこぼして、




「ハァ……相変わらずですねセンパ――ロミオさん。一応言っておきますけど、ノーブラじゃありませんからね? これは服の中にカップがついているんです。だからブラはしなくてもOKなんですよ。どぅーゆぅーあんだすたんどぅ?」

「い、イエスあいどぅっ!」




 お互い下手くそな英語でお茶を濁しにかかるが、何故かましろんは懐かしそうに「ふっ」と口角を緩めた。




「やっぱりセンパイはセンパイだなぁ……」

「そ、それはどういう意味でしょうか?」

「どういう意味なんでしょうね?」




 にししっ♪ と笑みを深めながら、俺の方に体重を預けてくる我が愛しのプチデビル後輩。


 もう傍から見たら完全にバカップルとしか見えないだろうな。


 なんてコトを沸騰しそうになる頭で考えていたら、


 ――ゾクリっ。


 と、突然鋭利な刃物を首筋に当てられたかのような鋭い寒気が俺を襲ってきた。




「? どうかしましたかセンパ――ロミオさん?」

「い、いえ。なんでもありません。それではさっそく行きましょうか?」

「はいっ!」




 花がほころんだような愛らしい笑みを向けてくれるましろんを引きつれて、トコトコとその場を後にする。


 ――フリをして、俺はさりげなく背後を確認すると…『ナニカ』居た。


 変なのが居た。


 ブカブカの黒のトレンチコートに身を包んだ謎の存在が、電信柱に隠れるようにして俺たちの方をうかがっていた。


 それも3人。


 えっ? ナニアレ? 


 あんなスタンダートな変質者、初めて見たよ俺?




『むぅぅぅ……っ!? ち、近い、近いぞ! もっと離れるのじゃ!』

『あの女……白雪家の人間でさえなかったら……』

『あ、あのマリア様? ジュリエット様? が、学院へ向かわなくても大丈夫なのでしょうか?』

『『田中、うるさい(のじゃ)』』

『は、はひぃっ!』 




 身体中から殺気を発散させ、歴戦の狙撃手のような鋭い視線でコチラをめつけてくるっこい変質者とおっきい変質者。


 その不審者2人の後ろで可哀そうなくらいオロオロプルプルしている、中ぐらいの変質者がいた。


 んん~? あのプルプル、どっかで見たことあるような……?


 というか、あのあの小っこい不審者とおっきい不審者、よく見たらジュリエットお嬢様とマリアお嬢様の気が……。


 いや、気のせいだな。


 なんせジュリエットお嬢様は今朝、田中ちゃんが運転する車でマリアお嬢様と一緒に学院に向かったハズだし、なんなら彼女たちを見送りしたまである。


 そんな2人が今ここに居るワケも理由もないし……うんっ。


 気のせいだな!




「ほらほらっ、時間は有限ですよロミオさん! 急いで、急いで!」

「あ、あまり腕を引っ張らないでください……痛いです」


『うぐぅぅぅぅっ!? あ、あんなに身体を密着させて……なんていやしい女なのじゃ!』

『……もう我慢出来ん。行ってくる』

『ま、待つのじゃ姉上ッ!? 今飛び出せば妾たちが尾行していたのがバレる!』

『うぅぅ~、なんでオラがこんな目に……お母ちゃ~んっ!』

『うるさいぞ田中っ! いいからおまえも姉上を止めるのを手伝うのじゃ!』

『は、はひぃっ!』 




 背後から尋常ならざる殺気の暴風雨を感じながら、俺は我が愛しのプチデビル後輩に腕を引かれて、街中へと消えていった。

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