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第13話 白雪真白は楽しみたいっ! ~どきどきデート編~

 かくして学院をお上品におサボりした愛しの後輩ましろんと街中を散策しながら、ゆる~い感じでデートがスタートした。


 近くのカフェに寄ったり、個人経営しているオシャレな服屋を覗いたり、ナウなヤングにバカ受けのボウリングを楽しんだりと、真っ当過ぎるデートを楽しむ我がプチデビル後輩。


 俺とましろんの歴史から見ても、こんな真っ当過ぎるデートは初めてだった。


 おいおい?


 真っ当なデート過ぎて夢なんじゃねぇの、コレ? 


 と、疑心暗鬼に駆られる俺の真横で、ましろんは先ほどクレープ屋で購入した苺クレープをハムハムッ! と上機嫌で頬張っていた。




「そう言えば、何気にセンパイと一緒にクレープを食べるのって初めてじゃありませんか?」

「そうですかね? というか白雪様? 自分は『安堂ロミオ』様ではなく『ロミオゲリオン』です。そこの所、お間違いなきようお願いします」

「別に今は誰も見ていないんですから、いいじゃないですかぁ~。センパイもそんな堅苦しい言い方はやめて、普段通りで話してくださいよぉ」

「んん~……まぁ、それもそうか」




 ましろんに勧められるがまま、アッサリと『ロミオゲリオン』の仮面を外し、素に戻った俺は、某奇妙な冒険に出てくる空条さん家の承太郎くんのように『やれやれだぜ……』と言わんばかりに肩をすくめながら、手に持っていたチョコクレープを1口んだ。


 途端にチョコレートの甘ったるい香りが鼻腔を突き抜け、思わず頬が緩んでしまう。




「あぁ~、久しぶりに甘いもん食べたから唾液腺が爆発しそうだ。超うめぇや、コレ」

「そんなに美味しいんです、ソレ?」

「控えめに言って中の下――うぉっ!?」




 あまりの美味しさに俺の衣服が弾け飛ぶイメージが脳裏を支配すると同時に、ましろんがひょいっ! と俺の方に身を寄せ、


 ――ぱくっ。


 と、我がチョコレートクレープを美味しそうに頬張った。


 ましろんはもにゅもにゅ♪ とクレープを咀嚼そしゃくしながら、にぃっ! と瞳を三日月みかづき状に歪め、




「1口貰いますね?」

「うん、ソレって普通貰う前に言わない?」

「にひっ♪ 細かいコトは気にしちゃダメですよ、センパイ? ほら、甘いモノでも食べて気分を変えていきましょう!」

「ヤダ、俺の後輩が超サバサバして――ぷがっ!?」




 グイッ、ベチョッ! と擬音が聞こえてきそうなくらい無理やり、ましろんの苺クレープが俺のお口を蹂躙じゅうりんしてくる。


 ちょっとチミィ?


『あ~ん』させるにしても、もっとお淑やかに出来なかった?


 こんなアグレッシブな『あ~ん』は生まれて初めてだよ、俺?


 ましろんは「ほらほらセンパイ、食べて食べて♪」と自分の苺クレープをグイグイ俺に押しつけてくる。


 えっ? なにコレ? 新手の拷問?


 と、我らがプチデビル後輩の感性を若干疑いつつ、俺は正直に苺クレープを1口頬張った。


 う~ん、生クリームの優しい甘さと苺の酸味が鮮やかに脳天を突き抜け、




「あっ、美味しい。この苺クレープもなかなか」

「でしょ? って、センパイ食べ過ぎですよ!?」

「ごめん、苺クレープが俺に食べて欲しいって聞かなくて……」

「意味が分かんないですよ!? この……えいっ!」




 はむっ! ととっとこハム野郎よろしく、俺の持っていたチョコレートクレープにむしゃぶりつく我が愛しのプチデビル後輩。


 気がつくと、俺とましろんは互いのクレープを奪い合うように貪り喰っていた。


 コレはもうデートというか、悪友との放課後の帰り道じゃないの?


 と思わなくもなかったが、まぁましろんも楽しそうだし、いっか!




『しゅ、衆人観衆しゅうじんかんしゅうの中、食べさせ合いっこだと……っ!? い、いやしい……実にいやらしい。ボクのロミオに色目を使うとは、あの売女ばいため。後で覚えていろよ?』

『こ、コレみよがしにイチャイチャし腐ってからに……あのド腐れハレンチ娘めっ! 恥を知れ、恥を! って、あぁっ!? だから近いと言っておろうが!』

『あ、あの……お2人とも? 周りの人たちが怖がっていますので、あまり殺気をまき散らすのはどうかと……』

『『うるさい(ぞ)! 静かにしていろ(おれ)!』』

『ひぇぇ……』


「んん~?」

「? (モゴモゴ)どうかしたんですか、センパイ?」

「いや……さっきから妙に首筋がチリチリするような?」




 俺のチョコレートクレープを食べて満足したらしいましろんをその場に、首だけキョロキョロと動かして辺りを見渡してみる。




『ッ!? マズイ、ロミオが勘付き始めた!?』

『あ、あそこじゃ! あそこの陰に隠れるぞ、姉上!』

『分かった、ついて来い田中! 遅れるなよ!』

『うぅ、どうしてオラがこんな目に……お母ちゃ~んっ!?』




 ……あれ? 急に首筋に感じていた妙な圧力感が無くなったような?


 気のせいだったのかな? と首を捻っていると、クイクイッ! とましろんにそでを引っ張られた。




「センパイ、センパイッ! 次はあそこに行きましょう!」

「あそこ? 男性器?」

「ハハハッ、死ね☆」




 とくに意味のない罵倒が俺を襲う!




「あそこですよ、あそこ。ほら!」




 そう言ってましろんは、とある6回建てのビルを指さした。


 一瞬、恋人たちが愛を語らう大人のホテルかな? と思ったがそうじゃない。


 ましろんが指さしたのは、




「書店?」

「はいっ! 実は今日、真白が贔屓ひいきにしている女性向け雑誌『パンパン』の表紙を、あの新進気鋭の中学生モデル【TAMAMO】ちゃんが飾るんですよ! これはもう買わなきゃ損ですよね! ね!?」

「うわぁ、圧がすごいやぁ……」




 というかナニ、その雑誌?


 すげぇ卑猥ひわいに聞こえるんですけど?


 と、口にしようかと思ったが、お目目をキラキラさせて、「行こ行こ!」と散歩をねだるバカ犬のようにクイクイッ! と俺の裾を何度も引っ張る我がプチデビル後輩を前に、なんとか飲みこむ。


 クソ、可愛いなコイツ?


 お持ち帰りしてやろうか?




「そう言えばセンパイ、最近TAMAMOちゃんに会いましたか?」

「いや玉藻ちゃんどころか、そのバカアニキにすら会ってねぇよ」

「そうですか……残念です。会っていたら、またサインを貰って来てもらおうと思っていたのに……」




 心底残念そうに肩を落とすプチデビル後輩。


 もうここまで言えば優秀な諸兄しょけいの皆さまにはお分かり頂けていると思う。


 そう、現在中高生を中心に爆発的な人気を誇っているカリスマ中学生モデル【TAMAMO】は何を隠そう我が残念な叔父、大神士狼さんの愛娘である大神おおかみ玉藻たまもちゃんである。


 あれは今から4年前、ちょっとした諸事情により、金次狼ママンの手によって急遽きゅうきょ読者モデルの【TAMAMO】としてデビューすることになった当時小学4年生の玉藻ちゃん。


 当初は幼馴染みが非処女だったくらいの軽い感覚でデビューした玉藻ちゃんだったが、気がつくと中高生や女子大生、果てはOLにまで絶大な人気を誇るまでに急成長し、今や読者モデルの枠を超えドラマやバラエティー、果ては映画にだって出演のオファーがくるカリスマ人気タレントになってしまった。


 まぁ見た目だけなら絶世の美少女だし、なにより士狼さんゆずりのコミュニケーション能力と人たらしの才能があるから、芸能界向きの性格をしてると言ってもいいだろう。


 そのせいもあってか、我が後輩は玉藻ちゃんもとい【TAMAMO】にご執心なのだ。




「今日の主賓しゅひんはましろんだから、俺はどこにでも着いて行く所存ですぜ? ソレが例え、あの子のスカートの中でもな」

「んん~、相変わらず発言はキモいですけど、そういうセンパイのノリのいい所、真白、大好きですよ!」

「ふふふ。そうだろう、そうだろう――えっ? キモい? 先輩キモい? マジで?」




 今の台詞はロミオ的にポイントが高いと思ったんですけど?


 内心激しく動揺する俺の手をリード代わりに、ましろんは「レッツごぉ~♪」と楽しげに進みだす。


 その足取りは今にも空を飛びそうなくらいかろやかだった。

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