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第14話 白雪真白は楽しみたいっ! ~わくわく迷子編~

 お目当ての雑誌を購入し、ウキウキ気分でましろんと店内を散策すること数分。


 俺は再びうなじ辺りにチリチリとした殺気を感じ、警戒するように周りに意識をいていた。




「さてっ! 目的も完遂したことですし、ゲームセンターにでも行きましょうかセンパイっ! ……センパイ?」

「んっ? あぁゴメンゴメン、ちょっと今後の日本経済について考えていたわ」

「壮大な嘘を吐かないでくださいよ……。というか、アレ?」

「どったべ、ましろん?」

「いや、なんだかいつの間にか不思議な雑貨屋さん? に足を踏み入れちゃったみたいで」




 そう言って辺りをキョロキョロと物珍しそうに見渡す後輩に釣られるように、俺も視線をあっちこっち彷徨さまよわせる。


 まぁ雑貨屋と言っても、書店と併設へいせつされたようなショボイヤツだ。


 どうせ文房具とかボードゲームとかありきたりなモノしか陳列ちんれつされていないだろうよ。


 と、高をくくって棚の1つに視線を落とすと、そこには。




「??? なんですかね? この赤と白のストライプ模様の置物は? インテリアでしょうか?」

「……Ohオゥ




 そこにはピンク色のコケシや、やたら粘液性のある液体が入ったペットボトル、果てには赤と白色のストライプ模様が目に眩しい立方体の置物がその存在感をおおいに主張していた。


 はい、雑貨屋ではなく『大人のオモチャ』屋さんですね。


 ありがとうございます。




「んん~? 『Presentoプレゼント forフォウ Loverラバー』? つまりコレは恋人への贈り物ってことですかね?」




 そう言って我らがプチデビル後輩は赤と白色のストライプ模様の置物を手に取ってシゲシゲと観察し始めた。


 その横で俺は全身からブワッ!? と冷や汗を垂らしながら、必死になって頭を高速回転させていた。


 ば、バカな!?


 何故ここにTE●GAが!?


 お、俺たちはさっきまで書店できゃっきゃうふふ♪ していたハズだ……それなのに何故大人のオモチャ屋さんに瞬間移動を?


 ハッ!? まさかどこかに特級呪霊がひそんでいて、俺たちを領域に閉じ込めたのか!?


 いやそれは非現実的過ぎる。


 もっと現実的かつ堅実的な現象が起こったに違いない。


 とすれば、考えられることは1つだ。




 ――俺たちは、今、スタンド攻撃を受けている!




 俺は全身に緊張をみなぎらせながら「試供品」と書かれた07ホールを手に取っていじくり回しているましろんへと視線を向けた。




「インテリアにしては変な所に穴が空いているし、それに何かブニブニしてる。ちょっと気持ちいいかも」

「ましろん、落ち着いて聞いてくれ。俺たちは今――」

「へっ? 何ですかセンパイ?」




 そう言ってましろんは、


 ――ズボッ!


 と、試供品の07ホールの穴に指を突っ込んだ。


 ………………これはもう完全にアウトなのでは?




「うわっ!? この中、柔らかくてウネウネしてておもしろ~いっ!」

「…………」




 キャッキャッ! しながらたくみな指使いで試供品の07ホールを蹂躙じゅうりんしていく我がプチデビル後輩。


 彼女が真実を知ってしまったら、一体どうなってしまうのだろうか?


 もう絶対にバレるワケにはいかなくなった。


 というかチミ? いつまで07ホールとたわむれているつもりなんだい?


 ちょっ、誰か!? モザイクかけてモザイク!


 瞳をキラキラさせ、グニグニ♪ グチュグチュ❤ と試供品の穴を弄るましろんの指先に、脳内でき●いろモザイクをかける。


 その間にも彼女になんて声をかけるべきか、必死になって頭を高速回転させる俺。




「? どうしたんですかセンパイ? 汗、凄いですよ?」

「い、いやぁ、暑くてね! ちょっと冷房が弱いのかな、ココ?」




 ましろんがいぶかしそうに俺の顔を見てくる。


 その瞳は俺の表情から心の中を読もうとしているようで……い、イカン!?


 このままじゃバレる!?


 一体どうしたら!?


 と、俺がパパ活中に職質された中年サラリーマンのように混乱していると。



 ――ピピピピピッ!



 俺のポケットの中に入れていたスマホが雄叫びをあげ始めた。




「す、スマンましろん。着信が入った。ちょっと待っててくれ」




 俺はコレさいわいと言わんばかりに断りを入れてから、ましろんに背中を見せ、スマホを取り出した。


 よし、落ち着けロミオ・アンドウ。


 大丈夫、なんとかなる。


 だからまずは落ち着いて電話に出よう。


 自己催眠をかけるように何度も心の中で「大丈夫! ぜったい大丈夫だよっ!」と最強の呪文を口にしながら、俺はスマホの画面に視線を落とし、




『着信者:ジュリエット・フォン・モンタギュー』




 逃げ場などなかった。




「…………」




 待てど暮らせどコールが鳴りやまない。


 留守電になる瞬間、一瞬だけ途切れてはすぐさま鬼のように再コールが始まる。


 ヤダなぁ……。


 出たくないなぁ……。




「センパイ? 電話、出ないんですか?」

「……今出るよ」




 我がプチデビル後輩にうながされ、俺はしぶしぶスマホの通話ボタンをタップした。


 途端にスマホのスピーカーからお嬢様の酷くご機嫌ナナメな声が鼓膜を震わせた。




『ロミオ、ボクだ』

「お、お嬢様? ど、どうしたんですか、こんな時間に電話してきて? 今は授業中のハズですよね?」

『そんなことはどうでもいい。……なぁ、ロミオ? ボクは今、非常に機嫌が悪い』




 えぇ、それはもう出る前から分かっていましたよ?




『ストレスで胃に穴が空きそうだ』

「そ、それは大変ですね。じ、自分でよければお嬢様のストレス発散をお手伝い致しますよ?」

『それは助かる。じゃあお言葉に甘えて、今日屋敷に帰ったら――』




 ジュリエットお嬢様は何のうれいも感じない爽やかな声音で。




『――ロミオが1番痛みを感じる所に、穴が空くまでムチを叩きこんでやろう』




 ブツン。ツー、ツー。


 と、無機質な機械音だけが耳を撫でる。


 えっ? ちょっと待って?


 色々言いたいことはあるけど、これだけは言わせて。


 お嬢様、一体俺のどこに風穴を空けるつもりですか?


 み、右手だよね?


 そうなんだよね?


 俺を妖怪を退治していそうなスケベ法師にしようとしているだけなんだよね?


 信じていいんだよね、お嬢様!?


 何故かお股の間がヒュンッ♪ となったが、きっと気のせいだろう。


 き、気のせいなんだよ!




「ま、ましろちゃん? そ、そろそろランチにでも行かない? 先輩、お腹が減っちゃった♪」




 ジュリエットお嬢様のコトも心配だが、今やるべきコトは他にある!


 俺はなけなしの気力を振り絞り、この場をエスケープするべく我が後輩の方へ素敵な笑顔と共に視線を向け……って、あれ?




「ましろん? あれ、ましろん? どこ行ったの?」




 俺の横で大人のオモチャを弄りまわしていた我がプチデビル後輩がいつの間にか姿を消していた。


 慌てて彼女を探すべく、キョロキョロと辺りを見渡すと……居た。


 ましろんはレジの前でなにやら北里柴三郎さんを人身売買していた。


 おいおい、いつの間にあんな所に……俺の後輩は曲者くせものか? それとも伊賀の者か?


 と、我が愛しのプチデビル後輩のステルス能力に感心していると、清算せいさんが終わったのか、黒いレジ袋に入った『何か』を持って、ましろんがぽてぽてと戻ってきた。




「あっ、電話終わったんですねセンパイ。誰からだったんですか?」

「ちょっとしたPTAからだよ。というか、ましろん? ソレ、なに?」




 俺がプチデビル後輩の持っていたレジ袋を指さすと、彼女は「へへっ」と得意げな顔で、




「真白からセンパイへのお礼の品ですっ!」

「お、お礼の品?」

「はいっ。今日のデートを付き合ってくれたお礼ですっ!」




 はい、どうぞ! とニコニコ満面の笑みで俺にレジ袋を手渡してくる我が愛しのプチデビル後輩。


 俺は素直にソレを受け取りながら、ほっこりした気分でましろんにお礼の言葉を送った。




「あ、ありがとう。大切にするわ。というか家宝にするわ、コレ」

「大げさですねぇセンパイは」




 満更でもない様子のましろんに、ついつい口元に笑みがたたえてしまう。


 何やかんや言いながらも、やっぱり俺の後輩は可愛い。


 俺は愛しさと切なさと心強さが爆発している表情を見られるのを嫌い、誤魔化すようにレジ袋に手を突っ込んだ。


 コツンッ! と指先に硬い感触が返ってくる『ソレ』をゆっくりとレジ袋から取り出す。




「本当にありがとうな。絶対に大切にするから、コレ」




 と、もう1度だけ彼女にお礼の言葉を伝えながら、俺はプレゼントに視線を落とした。




 ――そこには赤と白色のストライプ模様が眩しい例のアレが握られていた。

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